神田連雀亭ワンコイン寄席39(下・桂竹千代「長命」)

トリの竹千代さん登場。
この人、数えてもう11席目になるらしい。
過去聴いたのでは古典が7、新作が1、古代史落語が2である。
昨年芸術祭新人賞を獲った。抜擢が解禁された芸協において、今後その流れに乗って不思議のない実力者。

急に(高座を)降りてきましたねと、先の鯉津さんについて。
時間はきちんと守るんですね、まあちょっとだけオーバーしてますけど。
確かに、変なところにサゲがあった。

先日、鹿児島の川内に呼んでもらった竹千代さん。いいホテルを取ってもらったのだが、付いている夕食がフレンチ。
「育ちが貧しいもので」どうもフレンチは食べた気がしない。ちまちましてるし、パンがお代わりできても物足りないし。
食事後、結局コンビニ弁当を買ってきて、その写真を撮ってツイートする。
翌朝ホテルで朝食を取っていたら、ホテルの社長が「お口に合わなかったようで」と謝りにきた。えー、ツイート見てるんだと。

見てても不思議はなく、うっかりホテルの名前が写真に写り込んでいたそうで。それに自分で取ったホテルではないので、芸名で予約が入っている。
鹿児島は師匠・竹丸のお膝元。なにかあっちゃいけないので平謝りの竹千代さん。
自著の「落語DE古事記」をお詫びに渡してきたそうで。
若手がツイッターで失敗しちゃいけないだろ、と思う。
故・立川左談次は、「ツイッターを万人が見ている」という自覚がまるでなく、談幸芸協入りのニュースを実に気軽にツイートしてしまったのだが。

マクラをこれ以上なく張り詰めた口調で話す竹千代さん。
前回来た連雀亭では、張り詰め口調の人に脱落してしまったのだが、竹千代さんはさすがである。
ちゃんと張り詰めたあとで、今度は緩めてくる。緩めた際には、客はくつろいでいる。
メリハリの付け方について、かなりこだわりを持っている様子。

カデンツァの仲間、鯉津さんに話を戻す。
もう御年50ですよ。年齢を重ねると尿管結石にもなるんですかね。私もそろそろ気を付けないといけません。
そして不摂生の極みで早世した、柳家小蝠の話。
小蝠師は、透析も受けなきゃいけないのにしょっちゅうサボっていたらしい。うーん、それは緩やかな自殺じゃないかとこれは私の感想。
酒も飲んじゃいけないのに、酒で薬を流し込むような生活だったそうで。
葬儀では、棺の中に大量のアメリカンドッグが封じ込まれ、最後に一同を爆笑させたという。

好きなもの食べて早死にするのと、まずいもの食べて長生きするのとどっちがいいんですかね。
幸せの総量は同じなんじゃないですか。
ここでいきなり、「隠居さん、あれ教えてください。葬式のイヤミ」と本編に入る。

先日、伊勢原でカデンツァ仲間の喜太郎さんから聴いたばかりの短命。
芸協なので、ボードには「長命」としてあった。
トリとしては軽い噺に思うのだが、実に見事でした。

短命って結構難しい話なんじゃないかと想像するのです。
「隠居と八っつぁん」「八っつぁんとかみさん」という、2対2の会話が順に出てくるだけ。
これに挑む若手には、次のテーマがあるものと想像する。

  • 隠居をどこまで弾けた描写にするか
  • 八っつぁんをどこまで足りない人として描くか
  • かみさんをどこまで恐ろしい女にするか

あり得ない状況を描く、つまりマンガにしてしまうと面白い古典もある。だが、短命はそういう噺ではない。
日常にしっかり地を付けておきつつ、どこまで楽しく描くか、そのさじ加減が難しい。
竹千代さんはというと、とにかく八っつぁんを強化することにしたらしい。喜太郎さんが、八っつぁん以外のふたりを強化していたのと異なる方法論だが、メリハリの付け方という点では同根のものかも。
昔から「そばよりうどんがいい」「指の間からバイキンが」などのクスグリのある噺だが、竹千代さんの八っつぁんはさらにわからない男。
「新婚は夜することを昼もする」。なにをするかというと、うどんを打つ。これは誰か別の人から聴いたことがある。
「その当座昼も箪笥の環が鳴り」を独特な解釈でボケたおす。
わからないというより、正解を出したらいけない無間ボケ地獄に挑んでるのではないかというぐらい、見事にすり抜けていく人である。

この八っつぁんは、客に向かって一生懸命ボケているような人。スタンダップ・コメディアンのような。
やはりそんな造形だけあって、かみさんはちゃんとしている。
羽織来て行かなきゃダメとか、ご飯食べてかないとダメというのはかみさんのほう。
ただしご飯のよそりかたは適当。

いやあ、長命でも湧かせられるものですね。

楽しい連雀亭を終え、国立演芸場に向かいます。

(上)に戻る

 
 

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。