国立演芸場18(上・三遊亭とん馬「代り目」)

連雀亭のハネたあと時間を潰したいのだが、神田小川町界隈の喫茶店は、お昼どき軒並み混んでいる。
小川町のファミマのイートインがようやく空いていたので、こちらで一昨日出した鯉津さんの記事を書き上げた。
連雀亭から国立へは2度歩いたことがあるが、今日は雨がパラついているので電車で。
神保町から半蔵門線に乗ろうと思い靖国通りをひと駅歩くと、小川町の交差点角で、広瀬和生氏に出くわした。
あまり他人を気にして歩いているほうじゃないのだが、赤い髪の初老の男性を見間違えたりはしない。
調べたら雑誌BURRN!の編集部は、この交差点に面しているらしい。

半蔵門で降りて国立演芸場に着くと、ちょうど仲入り休憩が明けるところ。
この芝居は、芸協会員でない「おぼんこぼん」が出ているのが売り物だが、あまり関心はない。最初から3割引きの仲入り後を狙ってきた。
国立は4月から定席が2,200円に値上げされている。3割引きだと1,540円。
だが、仲入り後の高座が3席から4席に増えているため、内容によっては安くなった。そして、この日がまさにそう。

モギリが復活していた。もう、自分で半券チギるやり方ではない。
客は100人ぐらいか。
昨年と違い、小遊三師の弟子が一切顔付けされていない。
二ツ目は甥・姪の筋や、弟弟子の遊子さん、それから孫弟子の遊かりさん交互。
仲入りはヨネスケ師。

この日は久々に嫌な客がひとりいた。ずっと手を叩き続けるアホ。男か女かは見てなくてわからない。
クスグリひとつにやたらと手を入れるが、まわりは誰もついてこない。なら浮いてるのはテメエなんだからやめりゃいいのに、認知が狂っているらしく手を叩くのをやめない。
こういう人じゃないですか、ウクライナに折り鶴送ろうとするのは。

以前書いた記事:落語の変な拍手

入場するとすぐに幕が開いて北見伸&スティファニー。
「スティファニー」である女性アシスタントは、瞳ナナ、小泉ポロンとお二人揃って華やかだ。
いきなりポロンさんを串刺しにし、消す大型マジック。
寄席のマジックというものは、ほぼ漫談である。アシスタントのお二人だって、ピンで出るときはそれに近い。
北見伸先生と、息子の山上兄弟だけは超本格マジックをやる。
もっとも、人を消してしまうのは国立の舞台だけだ。ここはスポットライトも当てて派手。

カードや紐のマジックを挟み、今度はポロンさんを首だけ人間にする。
最後は箱の中のナナさんと伸先生が入れ替わる超大型マジック。
寄席に通う私も、ここまですごいのは初めて観た。実に楽しい。
リッキー・マーティンのLivin’ La Vida Locaに合わせポロンさんが手拍子を要求するが、途中でリズムが変わるために多くの客が脱落していた。

ヒザ前は小遊三師の弟弟子、とん馬師。
ドラえもんのクッションを自ら持ってきて、あいびきとして尻の下に敷く。
いつもは一席終えてかっぽれ踊るんですけど、左ヒザを痛めちゃったのでこうなってますとのこと。
とんばと読みます。別の読み方はしないでください。

お見かけするのは初めてだが、浅草お茶の間寄席で聴いた高座は実によかった。その高座でもかっぽれを披露していた。
私も国立に呼んでもらうのは久しぶりなのでお土産代わりに、と九官鳥小噺を2本。1本目は、上方で松鶴ネタとして知られるもの。
2本目の「両足引っ張る」というのはこの師匠しかやらないと思う。
客の反応をうかがいながら、最後にペットのサルのドライブ小噺。

本編は替り目(通し)。実にもって味な一席。
ネタ帳では「代り目」と書いてあったので今日のタイトルはそうします。落語協会でもこう書くことはある。

全体を通し、盛り上がりを決して8分から上に突出させない。安定した楽しさがずっと最後まで続く。
ヒザ前の仕事としては完璧なもの。
「にゃく」「焼き」のくだりはないが、隣の亭主はいただく。
かみさんに元帳見られちゃって、スッと後半に続く。替り目の後半は実に好きなので、もっと出て欲しい。元帳見られるあたりがデキすぎているのがこの噺の難点だ。
うどん屋に燗を付けてもらって、うどんも雑煮も食べないひどい亭主だが、この世界は実に平和である。

ハメモノまで入る。替り目でハメモノ? 隣の家から三味線が流れてきて、これに乗って上半身だけでかっぽれを踊るご機嫌な亭主。
立ってかっぽれできないので、噺の中に入れ込むことにしたらしい。上半身だけの踊りでも、実に粋。
あるいは普段から、ここで立ってかっぽれ踊ることにしているのだろうか? そうなら、この先に符合するのだ。

外で踊っている亭主の元へ、おでんを買ったかみさんが帰ってくる。夜中ご近所にご迷惑でしょと。
家の前でやり取りして、かみさんがうどん屋の屋台に声を掛けるという、自然な流れ。

大変ぜいたくな一席でした。
続きます。

(2022/4/25追記)

落語研究会で隅田川馬石師の出していた「替り目」が同じ型でした。座布団の上で踊るかっぽれも入る。
とん馬師の高座では忘れてたのだけど、流しの新内に合わせて踊るのだった。
流しの語る都々逸も同じでした。

 
 

作成者: でっち定吉

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