神田連雀亭ワンコイン寄席39(上・瀧川鯉津「代書屋」)

落語界のトラブルでアクセス数は稼いでおいて、私が本当に書きたい寄席の模様に移ります。
小遊三師の国立演芸場に行くことにするが、その前に神田連雀亭に寄ってみる。
連雀亭ワンコイン寄席のトリは桂竹千代さん。暮れにここで聴いて以来。
つ離れはしていなかった。

初めて聴くトップバッターの人に首をかしげてしまった。
ヘタではないのである。落語のフォームがちゃんとできていて、そして決してやりすぎない。
外形から入ってもなんとかなる人もいるのが落語の世界と思っている。だがそれにしても、外形だけだ。
私はなんにも響かない高座を「つるんとした」と形容することが多い。そんな高座ではない。
やり過ぎない中メリハリがついているのに、どうして響いてこないのだろう。
将来上手くなっていても驚きはしないけど、今日はどうも。
落語とは難しいものである。

二番手が、カデンツァの最年長、瀧川鯉津さん。
もう3年前になる。2019年の暮れに、東京駅前のKITTEグランシェであった無料の落語会でこの人を聴いた。
当時は本当に毎日ブログの更新をしており、この会に行ったのでネタができると期待したのに、取り上げる部分がなく頭を抱えたものだ。
この際の「王子の狐」を聴いて、私は「スタンプカード芸」という概念を発見したのだ。
先日、辞めた林家扇兵衛さんを聴いて発明したようなことを書いたのだけど、たぶん鯉津さんが先。
スタンプカード芸とは、教わった噺の展開、クスグリを忠実にクリアするたび、脳内のスタンプカードを押して満足する芸人の了見をいう。
スタンプをクリアしたら芸人は満足だが、客が聴きたいのはそんなものではない。

当時鯉津さんの名は伏せたのだが、もうよかろう。芸協カデンツァは集団の力で、成金のように着実に力を上げていることだし。
今回の鯉津さん、マクラが楽しかったのでいいです。
ちなみにカデンツァで、もうひとり名を伏せて取り上げた人がいる。いずれまた聴いてみたくはあるが、どうだろう。

鯉津さんは二番手なので前説も担当。
頭頂部にわずかに残したモヒカン頭を金色に染めている。ミニ小朝。
諸注意の後、「この後お昼をどうしようかお考えの方もいらっしゃると思いますが、やぶそばに行かれる方、あそこのおそばはとても量が少ないので、あらかじめ2枚頼んでおくことをおすすめします。お昼どきの追加はなかなか来ません」。
なんとこれ、マクラの一部。前説でマクラ出してきた人は初めて見た。

改めて高座では、昨日あった、兄弟子春風亭柳雀(柳若改め)と、春風亭昇也の真打披露パーティーの話。
京王プラザで、今年は食事つき。昨年は食事なしの、豪華お弁当パーティーだったが。
落語協会の市馬会長がスピーチで、「芸協さんがやってくださったので、今後はわれわれも食事を出せます。ありがとうございます」と語っていた。卑怯ですね、うちの動向を見てるんですよ。
柳雀師は東海大出身。笑点の作家であるOBの人(名前は失念)がスピーチをしてくださったが、この人は放送作家時代の私の師匠ですとのこと。
活弁の坂本頼光、浪曲の玉川太福などの面々が盛り上げてくれたそうで。
坂本頼光は昔のヤクザ映画を流し、勝手なアフレコで成金メンバーの血で血を洗う抗争を描いたんだとか。

そして前説の続き。近所にあるが今まで気付かなかった早稲田のそば屋の話。
大笑いしたこのマクラについて書こうと思ったのだが、やめた。
出し惜しみでも気を遣っているわけでもなくて(遣え)、書いて面白さが伝わらない。
演者の個性と切り離して文字にすると、なにがなんだかという種類のネタ。余談が多くて、その余談が話を膨らませているのだ。
この後出てくる竹千代さんにスタイルが似ている。
鯉津さんがそば屋の主人に「ぼく落語家なんですよ」と自発的に伝えた際、いかに得意な気持ちであったか、その前段階を描いたというもの。

面白かったマクラについて書かないと、それ以外あまり褒めるところがないのですが。
本編「代書屋」は、聴いたことのないバージョン。
山出しの巨体女中が、誰に出すか決めていないラブレターを依頼にくる。
その次に、就職希望の男(ただしよく聴く代書屋とは違い、チンピラっぽい)。
よく知らないのだが、なんとなくいにしえの芸協新作の流れを汲んでいる気がする。

楽しいのだけど、代書屋が非常識な依頼者にいちいちしっかり反撃するのが私の好みじゃなくて。
もうちょっとゆるゆるのツッコミだと、世界が平和でいいんだけどなあ。

依頼者の本名が鯉津さんの本名だとか、その鯉津は尿管結石で大変だったとか、依頼者の死に際に親父が「なんじゃこりゃ」と言って死んでいったとか細かいギャグが入るのだが、ギャグを入れるモードになっていないため、ちょっと浮く。
考えるに、やはり代書屋がアホな依頼者と渾然一体の平和な世界を作っていないからなのだと思う。もっと緩い世界だと、なにをしてもいい感じになるわけで。

まあそれでも、今回は瀧川一門らしくマクラがよかった。
鯉津さんはまた聴かせてもらいます。

続きます。

作成者: でっち定吉

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2件のコメント

  1. いつも楽しく拝見しております。
    鯉昇一門は弟子もそれぞれにキャラが立っていて二つ目といえど侮れないなと思いながら高座を拝見してます。
    それと全く関係ない話ですが、一度でいいから遭遇してみたいと思っているのが鯉昇一門・好楽一門・楽輔一門の合同忘年会。
    師匠同士が仲がいい事で弟子も全員集合で開かれてるらしいですが凄いメンバーになりますよね。
    弟子を育てるのが上手?な師匠は弟子にも慕われますねぇ。

    1. いらっしゃいませ。
      鯉昇一門、すごいとつくづく思います。世間では一門を代表するのが「鯉斗」でずっこけるわけですが。
      私も結構一門の噺家さん取り上げてますが、まだまだ聴く絶対量が少なくていけません。
      久々に聴く鯉津さんも、その個性は非常に面白いなと。

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