破門した乃ゝ香を罵る金原亭世之介

落語界の揉め事はでっち定吉へ。
いえ、いささか不本意なんですけどね。いつもこんなこと言ってますが。
でも、なにかしら読みたい人の気持ちを考えるなら、ご期待に応えてそういうコラムを用意するのも仕事というものかもしれない。
いやらしいやり口だが、日付が変わると同時に朝を待たず出してしまいます。

昨日の日曜に出した記事は普通の伸びだが、これを超えて金原亭乃ゝ香が「古今亭佑輔」で復帰のアクセスが多い。
1日のアクセスが、過去最高の597。
当ブログの記事ごと累計アクセスでは、かけ橋、小ごと、「破門について」に次ぐ4位まで伸びてきた。

私は最近、世間の動きを自分のブログのアクセス増加で知る。
ただ今回はすでに、なにがあったか知っていた。金原亭世之介師がご自分のブログに、破門した弟子、乃ゝ香に対する批判を載せたものである。

私は今回の移籍騒動については、どちらの味方もしていない。
ただ、落語の評価がどこにも見当たらない佑輔さんが急に上手くなることは考えられず、さらに育成に実績のない志ん輔師の下でそうなれることなど、奇跡に近いとは思っている。
それはそうと、落語協会の幹部たちにとっては、比較的珍しい、救済相当事例とされているらしい。そこまでは想像がつく。

佑輔さんが今後劇的な飛躍を見せ、志ん輔師の名声を大いに上げることになったとして、私が困るわけではない。
ただまあ、常識的にはそれはなさそうだなと思っているだけ。
将来名を上げるようになった人はみな、二ツ目になった時点ではある程度高い評価を持っているものだろう。その時点で平均より下と考えられている人では、間に合わない。

まあ、それはそれとして。
元師匠である。

弟子を破門するということ(世之介のそばにおいでよ)

普段のブログ記事よりも、フォントを大きくしてアピールする師匠。

世之介師は、佑輔復活のツイートがあった2月21日、「コロナ自宅療養解除」のお知らせ。
乃ゝ香の名が落語協会の香盤から消えた際も、特になにもコメントしていなかった。
その後は繰り上がった惣領弟子、同じく美人落語家という看板が付く杏寿をずっとフィーチャー。

しかしまあ、世之介ご本人が書いているとおり、贔屓筋からも非難気味の質問責めに遭い、釈明する必要に駆られたものと思われる。
いやしかし、釈明としてはあまりにもおかしいでしょうよ。

新しい師匠に非礼すぎ

私がブログで志ん輔師をしばしば悪く書いているのとは、話のレベルが違う。
すでに人さまの下で世話になっている元弟子を罵る非礼のすごさ。世之介師が文中に挙げている師匠馬生や大師匠志ん生への感謝と裏腹な行為である。
しかも古今亭の先輩である志ん輔師に、正面から喧嘩を売っている。
人間、本気で怒ったときにその発露を見せることがすべてダメとは思わない。だからこそ、天歌さんのように師匠を訴える手段に出る人にすら、共感できるのである。
でも、今後も落語界で生きていく人が秩序に対して喧嘩を挑み、自分のほうが正しいと主張するとなると、これは引く。
志ん輔師は今のところ反論はしていない。「大人の態度」といえば聞こえがいいのだが、粘着質なこの人らしくはない気がする。

ちなみに世之介師、叔父筋にあたる志ん朝の名も挙げているが、これはもう、志ん朝の弟子に対する露骨な宣戦布告。

かつて廃業し芸協で再入門した現・桂しん華さんについて、元の師匠である三遊亭歌る多師はその経緯を記していた。
この行為自体、世間でいろいろ言われてはいるのだが、それでも他門に移った弟子のことを悪く言って送り出したりはしなかった。
その歌る多師も、今回はなぜか佑輔の味方らしい。

女々しすぎ

女々しい、は今の時代にはあまりふさわしくないことばではある。特に相手が女性だし。
しかしまあ、感想としては女々しいとしか言いようがない。

世之介師の長文からエッセンスを抜き出すとこう。
「私がこんなに我慢を続けよくしてやったのに、御知らずが」
弟子を破門した師匠が、無傷でいるとは私も思っていない(小三治を除く)。
あの師匠もこの師匠も、確かに不幸な別れにより心に傷を負っている。
ただ、最終的にクビを切った自分の意思と、その結果に伴う心の傷までをも、相手に原因を求める。
こんな人間関係、現代社会では絶対にパワハラなのであるが、パワハラを通り越してある種いびつな愛情の発露に思える。志らくか。

事務所発表との矛盾

乃ゝ香廃業を、所属事務所はツイッターで発表していた。
所属事務所ったって世之介師の個人事務所だから、同じだが。

自主廃業という体だったのである。
世間だって、移籍が成立した後では、自主廃業であり得ず破門だったことを知っているものの、関係者から破門だと発表があったのは初めてのはずだ。
破門だと体裁が悪いから本人から申し出があったことにして廃業させるという意向が、一応はあったのかもしれない。
だがそれなら、最後までそう言い切るべきじゃない? 笑点の三平卒業と一緒で。
恐らく勝手に自主廃業扱いにしておいて、移籍が可能になったので(それは恐らく、世之介師に非があったと協会幹部が思ったからなのだが)前言を翻すというのはね。

メディア露出について

「師匠のやり方では食えません」と乃ゝ香が言い放ったのだと言う。
師匠とすれば、「将来を考えてメディアの仕事を獲ってやってるのになんだ」ということなのだろう。
しかし乃ゝ香の側とすれば、ビジュアル先行の取り上げられ方ではいつまでも持たないという危機感があったに違いない。このままでは桃花ねえさんみたいにはなれない。
だからもっと会をやるとか、神田連雀亭に出るとかしたかったのに師匠がメディア露出ばかり勧めるのだと言いたいはず。
ちょっと前にツイッターを騒がせた、落語界の内幕暴露が見事にリンクしてしまった。

弟子のためといえば美談にも見えるけど、キングプロダクションとすれば貴重な売上げの駒である。
そりゃ師弟間のトラブルになる。
まあ、志ん輔師のところにいても神田連雀亭にはやはり出られないんだけど。でも、会は今のところやれている。

 

日曜日の世之介師は、大岡山の「ぐっどすとっく落語会」。
「志ん生の孫」とのことで、そのメンバーは菊志ん、志ん五。
こうして並べてみると、すごくひねた集まりになってしまった気がしますね。いや、一瞬行ってみようかと思ったぐらいで、大嫌いな集まりだというわけじゃないんだけど。
それでも同門の、巣鴨スタジオフォー四の日寄席メンバーの明るさと大違いだ。
菊志ん師はもう仕方ないとして、志ん五師はもうちょっと陽の当たるところに出ていったほうがいいと思うがなあ。

現在の「金原亭馬生」の名跡を当代が継いだのは、兄弟子たちが誰も名乗り出なかったら世之介師が「あたしが継いじゃいますよ」と言うので、そりゃいけねえと馬治師が継ぐことにしたのだという。
「落語家の値打ち」に書いてある。もちろん冗談めかしてではあるが、一門から見てもちょっとなというのはあるみたい。
元実業家だったりするし。

(2023/6/5追記)

とんでもない師匠だと思ったのでこんな記事を書いたわけです。パワハラも嫌いですし。
ですが、二番弟子杏寿さんの活躍を見て、ちょっと違う観点から見つめなおした続編です。

古今亭佑輔Vs.金原亭杏寿 どちらの育成が正解か

 
 

作成者: でっち定吉

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