神田連雀亭昼席3 その2(立川かしめ「寿限無」)

昨日まで5日間芸協ネタが続いた。今日は立川流。
2番手のかしめさんは、メガネを外して高座に上がる。
先ほど前説してましたかしめです。印象違いますでしょうと。

連雀亭にも立川流から多くの噺家が出ているが、私が目当てにしているのは吉笑、笑二の兄弟弟子だけ。このふたりに関しては、最近ご無沙汰しているのはたまたまで、また聴くつもり。
あと、わりと好きなのが談吉さん。実際の高座は聴いたことがないが、年寄り二ツ目の寸志さんには遭遇してもいいなと思っている。
これ以外が本当にいない。
昼席で4人出て、ひとり立川流というのは、実にちょうどいい。
知らない人がトリ取ってるとそもそも来ないからな。

かしめさんは、実に自由な感じ。自分のペースで喋りまくるのだが、ギリギリのところで突出しない。
自分の高座が俯瞰できているのだ。面白い人だなと好感を持つ。
志らく一門も、異端の弟子こしらのさらに弟子ともなると、独特の欠点が少ないのかなと。
欠点とは、変に押し潰された感じ。師匠の寝床芝居に来ないだけで破門になりかけ、おかみさんからは誘惑されたりいじめられたりするようなめちゃくちゃさに遭遇すると、こうなる。
かしめさんは、独特のマイナス面から自由な人みたいだ。

かしめという、覚えにくい名前でやってます。こしらの弟子です。
私、入門したときはこういう名前じゃなかったんです。ご案内の向きもあると思いますが、入門時は「立川仮面女子」でした。
師匠・こしらが命名権をヤフオクで売って、秋葉原のアイドルグループ仮面女子さんが落札したんですね。
私の初高座、寄席じゃないんですよ。客も入れない秋葉原のホールで、仮面女子のアイドルさんの前で「つる」を一席やったんです。
といっても仮面女子というのは、名前の通り仮面をかぶった人たちで、そのアイドルたちが直立不動でぼくの高座見てるんですよ。落語知らない子たちですから、笑わないですし。

今日はこのあと、本寸法の人たちがいるので私はいいですよね。本寸法からちょっと外れた落語をします。
名前といえば、キラキラネームですね。ぴかちゅうくんとか。
私が驚いたのは、「どれみ」ちゃんですね。どれみという名前は、そんなにキラキラしてなさそうな気がしますよね。
でも、「七音」と書いてどれみなんです。おかしくないですか。七音だったら「どれみふぁそらし」でしょ。
どれみだったら「三音」じゃないですか。

理屈っぽい人だな。理屈っぽい人は好きだ。
演目は寿限無。
寿限無は最近妙によく聴くのだが、もちろんかしめさんは中身を大きく変えた面白寿限無である。これはこれで、円丈師以降の長い歴史がある。
かしめさんの言い立てはNHK標準バージョンだが、ただし水行末は「すいぎょうばつ」と発音。立川流はそうみたい。

お寺に名前を付けてもらいに行く八っつぁん(たぶん)。
鶴や亀は長寿だが、寿命があるからいけないと。そこで坊主も経文から考えてやる。
「五劫のすりきれ」あたりは、坊主のほうがためらいがちにこんなのもあると。だが、八っつぁん、まったく異を唱えないので坊主が驚いている。
だが、「食う寝るところに住むところ」に異を唱える八っつぁん。「衣食住が大事なのはわかりますけど、ぜんぶ同じ所じゃないですか」。
そういやそうだ。子供のころから寿限無を聴いてる私も、この穴は気づかなかったな。

パイポパイポもためらいがちに伝える坊主。これも疑問に思わず採用。
そして八っつぁん、最初から全部採用して長い名前を付ける気まんまん。

ごく普通の、「がっこいこ」のくだりに進み、そして寿限無くんにひっぱたかれた隣の子が抗議にくる。
言い立ての前に、登場人物がみな息を深く吸うというのがとっておきのポイント。
泣きながら訴えるので、長い名前がなかなか言えない。苦情を聴いた母、「パイポは3回」とやり直させる。
なのに父母は、「うちのじゅげ助が」と省略。
どさくさにまぎれ、寿限無の後ろに「天角地眼一黒鹿頭耳小歯違」まで入れ込む。

あんまり長いから、こぶが引っ込んじゃったと一応サゲるが、客はここで終わるとは信じておらず、誰も拍手をしない。
やはりという感じで、先に続く。
ネタバレはやめておくが、後日談である。本当は後日談ですらないけど。
その後、本当のサゲらしい箇所で、客がみな手を叩くのだが、これもフェイクだった。さらに続きがある。
正直、これはもういいやと思ったが。

さて、初めてのかしめさん、大満足の面白古典。
だが、客の私にとっても後日談がある。
次の小はぜさん、そしてトリの一花さんが正攻法・本寸法の落語で、かしめさんの面白落語を完全に叩き潰してしまったのである。
かしめさんは、この古典オンリーの席の賑やかしで終わってしまった。
悪かったのではない。間違いなくよかった高座が、自分の責任のないところで潰された感覚。もちろん、色物の出ないこの席において、かしめさんは非常に大事な仕事をしたのだけど。

ここから、「やっぱり落語は本寸法」「落語は落語協会」だという結論を導くことができなくもないが、私はそういう種類の落語マニアではない。
立川流の悪口のためにこのエピソードを用いる気もないのだ。
語り口のいいかしめさん、小はぜさんのような落語もできそうだけど、やらないだろうな。立川流にはそんな妙なプライドがありそう。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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