台所おさん「御神酒徳利」@柳家花緑弟子の会

4月は安いところばかり6席目だ。
使ったお金は5,040円。
落語チーパー。

柳家花緑弟子の会は、らくごカフェで毎月1回。ワンコイン。
つ離れしていない。あんまりこのぐらいの人数の会の模様、書きたくないけどな。

今日は真打である台所おさん師と、花飛、圭花。好きなメンバーだ。
だが、おさん師以外は今日はちょっと。悪いけども。
なのでトリのおさん特集で。

花飛さんからは初めて新作を聴く。
珍品専門の圭花さんと一緒だからだろうか。
健忘症の噺。たぶん、タイトルも健忘症。
映画のタイトルから出演者、はてはなぜ映画を思い出そうとしていたかまですべて忘れてしまう人の噺。

ハズレの理由はわかっている。
誰だって、ものが思い出せないことはある。シニア層ならなおさらのはず。
だが、その思い出せない様子が客の共感を呼ばないのである。あるあるネタではないのだが、だからといってシュールな味付けがされているわけでもなく。
私は新作落語に挑む効能は、古典メインの人にとっても大きなものだといつも思っている。
だからどんどんやったらいいと思う。聴くし。
でも、今回の噺が古典に生きるかどうかはなんとも。

ただ口調はいい(朴訥だが、古典落語には向いている)人が、一生懸命2人の登場人物のやり取りをしている姿にのめり込まずに、一段外から眺めていると案外面白かったが。

坊主頭の圭花さんは、サウナのマクラ、そこから派生したイレズミのマクラが客にまったく響かない。
花飛さんの高座を引きずってしまったのだろう。なのでマクラを途中でやめますねといって切り替えるが、またも響かない。
あきらめて本編へ。
さすが珍品専門の人で、猫久。
笑いどころは少ないのだが、ちゃんとやれば実は意外とあるという。とにかく難しい噺。

喬太郎師が、自分の番組で出していた猫久が私の中でのスタンダードである。
あれは改めて、実にいい一席だったなと。圭花さんを喬太郎師と比べちゃいけないが。
八っつぁんのかみさんが、猫久のかみさんを長屋一変わった人だという。なにしろ長屋で一番早く起きるし、井戸端ではおはようございますと挨拶までするのだ。
喬太郎師、これにちゃんとツッコまないから面白いのだなと。圭花さんは、ちゃんとツッコむ。

金曜日に連雀亭で聴いた、春雨や晴太さんが、ボケ多めツッコミ少なめのスタイルで掛けていた牛ほめは面白かった。
ツッコミというのは、漫才でも落語でも難しいものだ。ちゃんとツッコまないことで、会話が軽く、そのほうが面白いこともあると再認識。

そんなわけで前半二席は、理屈で噺を聴いてしまった。
短い仲入り休憩を挟んで、おさん師。
ちょっと重苦しい雰囲気を、怪しい笑顔一発で変えてしまったから見事である。

今日も自転車でやってきましたとおさん師。どこからとは言わないが、西荻窪から。
相変わらず2階のボンディの行列はすごいですね。私も3回ぐらい食べたことがあります。
そして行列の話へ。
着いてからお腹が空いたので、いつものようにコンビニへ。今日はセブンの気分。
セブンは女子大生で溢れている。近所に共立女子大があるのだ。人でいっぱいだが、でも手に商品を持っていないので、ATMかあるいは学生さんだからコピー機の行列かなと判断するおさん師。
ホイップ入りあんぱんをとってレジに向かうと、なんと女子大生の列は全部買い物客。店の中を一周している。
慣れている彼女たちは手ぶらで並び、並んでいる最中におにぎりなどピックアップしていくのだ。
仕方ないので師も並ぶ。並ぶ前に、壁の時計を見て時間を計ったところ、会計を終えるまで8分かかった。
今日は、始めたら引き返せないという噺を。上手くつながりましたと自画自賛。

八百屋さんが女中に追っ払われている。御神酒徳利だ。
先日、新真打になる春風亭柳雀師(柳若)から聴いたものとは内容が全く違う、占い八百屋と別題の付くもの。
権太楼師か、市馬師に教わったんだろう。

女中の嫌がらせに軽い復讐をするため、徳利を水瓶に隠す八百屋。
主人に深く感謝され、三島へ失せもの探しの旅に連れていかれ、そして運よく成功してしまう。
だが、いつ逃げ出そうかばかり考えている。そりゃまあ、本職の占い師でもなんでもないので。
このテキトーな、振り回されつつ呑気な八百屋が、おさん師にピッタリ。古典落語の人物がピッタリの噺家っていいよなあ。

権太楼師の御神酒徳利では、生意気女中が生意気すぎて面白いとか、やたら強いとかいったポイントがある。おさん師はそういった部分には注力しない。
ひたすら、テキトー振りを軽く楽しく描いていくのだ。

おさん師は本当に面白い。
面白い人だが、落語のほうは面白落語ではなく、本格的。だが、演者の個性のおかげで、実に柔らかい噺となる。
平日昼間とはいえ、この人数じゃもったいない。
落語研究会などで使って欲しいものです。

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。