トリの一花さんは、2月以来。この人もだいたいここ連雀亭で聴いている。
一花さんは笛吹きだから、落語協会の披露目に行けば5分の1の確率で巡り合うはずだが。
数えてみたら9席目だった。最近急速に増えている。
演目被りは一度もない。かなり数持ってるんでしょうかね。
一花さんは聴くたびに毎回上手くなっている。これは決して当たり前のことではなく。
常にこちらの期待を超えてくるので、また来るのです。この日も天井はなかった。
7分の短い落語を磨けば、NHK新人落語大賞だってアッサリ獲れてしまうと思うのだが。
小はぜさんが去った後も、まだふつふつと静かにたぎる場内。
一花さんは、小はぜアニさんの見事な一席で終わってもよかったですねと。でもせっかく用意したので。
連雀亭は香盤の交代が多く、当日来てみないと顔付けがわからないことがあるんです。
少々言葉足らずだが、今日やりたい噺、さらにツく噺は出なかったということなんでしょう。
「やかん」「転失気」が出たら、千早ふるを用意していてもおしまいだ。
それとも小はぜさんが、無筆のマクラから無筆の噺に進むと思ったものか。無筆もまあまあ知ったかぶりに近い。
小はぜアニさんの前で恥ずかしいんですが、千早ふるというお話を。
落語協会では、二ツ目がやるような噺じゃないですね。割と大きなネタで、ベテラン師匠が掛けるイメージです。
その噺をやってみます。
他団体の二ツ目なら割と平気で出す、むしろ軽いイメージの噺。
小はぜさんの一席は素晴らしかったが、そのアニさんになんの関係があるのと思う。
だがわかった気がする。
一花さん、この噺をはん治師に教わったのではないだろうか? だから小はぜさんの前ではやりづらい。
「金さんも安心おし」のくだりに、はん治師の独特の口調が一瞬うかがえたので。
まあ、すべて私の勘違いかもしれないけど。だいたい、小はぜさんが代演で急遽入ったのならともかく、予定の顔付けだし。
前半の二人は、いずれも代演または交代だった。
かしめさんと比べれば一花さんの芸は本寸法ということになるが、でも遊びもあった。
確か「牛ほめ」を入れ込んでいたと思う。どう入れたか忘れた。
だが強烈なクスグリはない。極めてスタンダードな千早ふるが、実に楽しい。
いろいろな魅力を併せ持つ一花さんだが、千早ふるについていうなら引き算の美学。
失う要素が一切なくて、楽しいおはなしの世界に浸らせてもらう。
これも毎回思うことなのだが、多くの女流落語家が「女性の登場人物を活かす」と言って頑張っている。特につる子さん。
それはそれでいいことだと思います。
だが一花さん、それから桂二葉さんは、どこ吹く風。男の登場人物だけが出てくる噺を、軽々と演じてしまい、なんの違和感も与えない。
二人とも、肚の中に落語の登場人物が普通に住んでいるらしい。
二葉さんの出す登場人物はアホばかりで、品は一花さんのほうがいいけど。
「あまっちょのガキ」とか女性が語っても違和感がない。なさすぎるのが後で振り返ったときに違和感になるぐらい。
ご本人からすると、普通のことなんでしょうが。女子高の香蘭出てるお嬢さんなのにねえ。
あまり登場人物の描写を生々しくやらないのがいいらしい。
高座にフィクションを映し出す。アニメの主人公を女性があて誰も不自然に思わないような、「作られた自然」を最速で描き出すのだ。
あとは思うがまま。客は見事に操られている。
隠居は確かに知ったかぶりだが、まったく敵に後ろを見せない人。
八っつぁんと楽しい遊びを繰り広げるのが主目的みたいだ。
思い出して面白いシーンがあった。
「竜田川は故郷に帰って豆腐屋になった」という隠居に八っつぁん、「おかしいよそんなの。なんで大関張った人が豆腐屋になるんですか。あ、実家が豆腐屋だったなんて言うんじゃないでしょうね」。
普通は「いいだろう。なりたきゃなったって」のあと取ってつけたように「竜田川の実家が豆腐屋だったんだ」と思いついて付け加える。
つまり一花さんの八っつぁんは、明らかに隠居の共犯なのだ。
千早が身を投げる井戸も、とりあえず描写しておいてから隠居が「豆腐屋なんだから井戸がある」と思いついて付け加えるのが変なリアリティで楽しい。
「とは」は古いタイプで、千早の本名。
小はぜさんに負けない、すばらしい一席だった。
だから、バカウケしていたかしめさんを二人でもって潰してしまったと言うのである。
それでも、かしめさんも含めて満足の昼席でした。晴太さんのボケ多めのセンスにも注目。
これで、千円だったらねえ、安いよお(はん治風)。
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