拝鈍亭の柳亭こみち(中・宮田陽・昇)

 

続いて宮田陽・昇の漫才。
ボケの陽さんはなんと金髪だ。どうしたんだ。

こみち師は落語協会だが、陽昇のおふたりは芸協。
それもあって共演はなかなかない。
私は陽昇の大ファンで、浅草お茶の間寄席で繰り返しこの楽しいコンビを聴いている。
だが、実際の高座を聴いた回数は決して多くない。もっと芸協の寄席に行かないと。
今回あまりにも面白く、時計を覗き込む暇さえなかったが、30分ぐらいやっていたのかな。
大笑いしたのだが、客が疲れ切ってしまうような芸ではない。
ネタの大部分は知ってるのだけど、まったく関係ない。

登場して、ボケの陽さんが早速「こみち師匠の旦那さまです」と昇さんを紹介。
前の旦那ですね。違うよ今もだよ。
前の旦那と、今の旦那でやってます。気持ち悪いだろ。

当ブログでも繰り返し述べているが、私は昇さんのツッコミの大ファンだ。
ちゃんとツッコむのだけど、役割的にとても緩い。
怒っている姿はほとんど見ない。役割的に怒っている場面でも、その怒りは緩い。
落語の隠居的なツッコミ。これが客に、くつろぎと安らぎを与えてくれる。
母性を感じるツッコミ。男だけど。
そのツッコミから、家庭内での役割までなんとなく想像できたりして。

そして陽さんは、ナイツ塙と並ぶ漫才協会副会長で、偉い人。
クレージーなボケを繰り出していくが、そのボケは笑いを完結するためでなく、緩いツッコミを引き出すための緩いボケとして発せられる場合が多い。
陽昇は、対立構造を形式的なものにとどめておき、一緒に同じ方向を向いて推進していく芸だ。これもまた、落語っぽい。
実際、とてもコンビ仲がよさそうに映る。

いつもの、「ここが北海道だとしたら、青森、秋田」から。時間がたっぷりなので長いバージョン。
北海道から始め、昇さんの故郷広島まで延々と手で都道府県を描写。
広島は、「狭い広いの広に、島谷ひとみから谷ひとみを抜いた字ですね」。谷ひとみってだれ?
東京では地図を拡大し、「ここが足立区、江東区・・・ここが豊島区」。
さらに豊島区を拡大し、雑司が谷に焦点を当てる。さらに拡大して「1丁目」。
日本地図に戻って、広島をスルーして沖縄までやり切り、拍手をもらう。
「広島はどこだよ」「(右手を延ばし)広島」「それは台湾だ!」

話題の吉野家いじり。これはもちろん、新ネタで初耳。
あのニュース見てたら吉野家食べたくなったんですよ。ああ、そういう人もいるみたいね。
それ以来毎日吉野家食べてるんです、もうやめられなくなって。中毒になってるじゃねえか。
「お前生娘か!」「違うよ、どう見てもおっさんだろ」「わかってるよ!」だったか、そんなフレーズに大爆笑。

思い出すと、秋田出身だというあたりで「東京に出てきて相方に漫才漬けにされまして」なんてギャグを先んじて振っている。
再度吉野家に戻ってもう1回しっかりウケ直しているのである。凄いよな。

それから、ひどい仕事もあるんですと。
神社で奉納漫才をした話。これも初めて。テレビじゃやりにくいネタ。
浅草のほうの神社(実名出してた)で、神さまに向かって漫才やったという。
祭りの最初の行事で、屋台もなく、客もいない状態でやったんですよ。これ(都道府県)もね。
ちゃんとギャラはもらいましたけどね。いやらしい手つきをするな。
ぴろきさんが中抜きしてるんで少なかったですけどね。ぴろき師匠じゃねえよ、いつもお世話になってるんだから、その前の人ね。

全生庵とかの奉納落語は聞くけど、奉納漫才なんてあるんだね。
しかし客のいないこの漫才を、河原のホームレスだけが聴いていたという。

なんのネタ中だったか、陽さんのスーツのボタンが飛んで落ちてしまうハプニング。
ハプニングも吸収してしっかり笑いに変える。
なんだか知らないが客にあげようとしたり、相方に「スペアないんだろ」と言われて止められたり。
「第2ボタンだったらよかったですね」。

陽さんが昇さんをひっぱたく際、顔を微妙にかすめてしまう。
痛かったみたいで、「お前、叩くならちゃんと叩いてくれ。なんだこのファウルチップみたいなの」。
自由な漫才だなあ。

大谷翔平、菊池雄星、佐々木朗希など隣県出身の有名人を秋田出身と偽る。
ついには、「ぼく岩手出身なんですよ」「秋田だろ」。

後半に向けて、陽さんの情緒不安定がエスカレートしていく。なんでもワクチンの副反応らしい。
ハイライトが、アフリカの諸国の地理ネタ。
これを振る前に客をあおり、拍手させておいて、「あの人が拍手してなかった」「指をさすな」。
あ、冒頭じゃなくてもこのギャグ使えるんだ。
昇さんが赤坂のマリーゴールドクリニックでイボ痔の手術をしたネタも入る。女医さんに肛門開かれて楽しかったろと。
円周率のネタでフィニッシュ。

どんなに時間があっても、常にスムーズに次のネタにつなげるのが見事だ。
これに関しては、唐突に次のネタに入るロケット団よりずっと上手い。

大満足、そしてしみじみ幸せになる漫才でお仲入り。
こみち師匠はすでに袴姿に戻り、国立演芸場の独演会チケットをロビーで販売していた。

続きます。

 
 

 

作成者: でっち定吉

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