ぎゅぎゅっと笑福亭づくしの会@横浜にぎわい座 その3(笑福亭仁智「出前持ち」)

技術以外の要素によりNHKを勝てなかった笑福亭生寿師、その際の演目「近日息子」に振り切った演出を加えている。
近日息子は、次のパートに分かれる。

  1. 親父とアホ息子
  2. 親父が亡くなったらしいと噂する長屋の住民
  3. 知ったかぶり・言いまちがい男とそれをたしなめる男
  4. 悔やみの実践
  5. 親父とアホ息子

最も重要な部分が「3」、つまり全体と関係ないサブエピソード。
実に変わった構成の噺。なら、ここだけやっとけばいいのか? でもそれでは落語にならない。
周りに寄っかかってかろうじて支えてもらっているエピソードが、噺の肝なのだ。
さて生寿師も、他のすべてのパートを最小限にしておき、全力で3を演じる。うっかりすると倒れかねないが。

「痛風」をカンフーと間違え、う巻を寝巻と間違えても動じない男。たまにちょいちょい上手いことも言う。
たしなめるほうの男は、毎回首を横に振ってから喋り出す。男の怒りであり、繰り返しのアクセントとなる。

上方落語そのものではないが、前の週に女流の柳亭こみち師の「船弁慶」を聴き、「お松のアリア」(丁稚命名)にいたく感動した。
あるシーンを振り切ってうたい上げ、客を高揚させる。
生寿師の描く、知ったかぶり男への怒り発露もまさにこの、アリア。
怒りながら朗々とうたい上げるのである。
もちろん高い技術あってのものだが、技術を突き抜け客を感動させるではないか。

ちなみに、喧嘩しているようだが第三の男が割り込み、「あんたがた、昨日も一緒に出掛けとったやないか。ホンマは仲ええんとちゃうか」。
仲良しであるがゆえの喧嘩なのが端的に描かれ、いい気分。

あとはもう、悔やみのシーン(4)をさらっと笑わせ、早々と店じまいに向かう。できるだけ短く5を切り詰めたほうがいい。

昨日書いたマクラを一部使った近日息子は、ラジオで一度聴いている。だが、比べ物にならないすばらしい一席でした。

見台はそのままで、仲入りは上方落語協会会長、笑福亭仁智師。
野球や、上方落語協会会長に就任したとたん地震や台風で繁昌亭が不幸続きのマクラなど。知らないネタはなかった。
最後に、おかげさまでもう1期やらせてもらいますと断り、大きな拍手をもらう。

本編はもちろん新作落語。
これもまた、ラジオで聴いて知っているネタ「出前持ち」。別に不満はありません。
仁智会長は笑福亭でも吉本興業だからラジオの出番は少ないのだが、聴いたことがある。

ひとりで留守番している亭主、羽を伸ばして「長寿庵」の天ぷらそばを食べようと出前の電話をしようとする。そのとたんピンポンが鳴って、長寿庵の天ぷらそばが届く。
実際のところは3丁目のドリームマンション201号室に届ける天ぷらそばを、出前持ちが間違ってドリームハイツ201号室に届けてしまったのだ。
奇跡のような出来事とはいえ、さすがにまだ注文してないのにもらうわけにはいかない。
だが、出前持ちはなぜだかやたらしつこい。お客さんが引き取ってくださいとあの手この手。

上方新作は、日常に足を付け、飛躍が少ないものが多いというのが私の考察。
これはいい悪いの話ではないのだが、個人的には飛躍の多い新作が好き。
この「出前持ち」に関していえば、噺の芯に濃厚な飛躍があって、とても嬉しい。
頼もうとした出前が届くというのがすでにシュールな状況だし、そしてご配達をした出前持ちが、なぜかこの場で配達を完了させようとするのも不可解。
日常からの大いなる飛躍がそこにある。

場面が変わり、出前持ちに怒ったお父さんは上司と飲んでいる。
「最近の若い者は」の例として、こんな出前持ちが来たんですよとエピソードトークを上司にする。
別に悪いことをしたわけではないのに、なぜか追い詰められていくお父さん。
このシーンも、整合性よりもスリルのほうが重視されているのがユニーク。整合性はよく見たら結構デタラメなのだけど、全然気にならないところが見事。

仁智師の高座が聴けて幸せ。
それにしても、案の定だが上方落語を出すとブログのアクセスが伸びません。
実際に出かける頻度は異なるものの、野球シーズンはメディア落語が上方メインになっている私、結構ずっこけますね。
もっと聞きましょうよ。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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