神田連雀亭ワンコイン寄席13(立川吉笑「十徳」)

台風一過の10月1日は都民の日。
だからというわけではないが、あまり行けない夜席に行こうと思う。両国寄席の主任は三遊亭竜楽師。
その前に、神田連雀亭が気になる。掛け持ちにするほうが、交通費が得だという計算。
昼間のきゃたぴら寄席も気になったが、結局、午前中開始のワンコインに。夜まで時間を潰さないと。
朝のラッシュが済んでも交通は混乱続き。早めに出たのでギリギリ間に合った。
月曜日の朝から、なぜかつ離れしている連雀亭。20人近い。
前説は春風亭柳若さん。携帯は、マナーモードでもいいんですが、「ん~」みたいな音がすると、鳴らしたお客さんが演者に責められることになりますのでそこはご注意をと。

吉笑 / 十徳
柳若 / 猫の皿
花飛 / 万病円

所属団体がバラバラなのが連雀亭らしくていい。

立川吉笑「十徳」

立川吉笑さんは、「落語ディーパー」などでもおなじみの人気者だが、生の落語は初めて聴く。
弟弟子の笑二さんのほうを先に二回聴き、相当なインパクトを受けた。その笑二さんは、この日は昼席のほうに顔付けされている。
袴姿の吉笑さん、マクラはそこそこに、隠居のところに飛び込む八っつぁんを出して「十徳」に。
演目の前に、オヤと思う。吉笑さん、古典・新作両方やるのはいいとして、上方落語の人だと認識していた。
ところが江戸落語。しかも、言葉がちゃんと江戸っ子だ。
東京で上方落語をやる人もたくさんいるが、東西二刀流とは珍しい。
そういった情報も持っていなかった。他には、鈴々舎八ゑ馬さんが両刀だとどこかで読んだけど。
そして、十徳という短めの噺をやるのに、マクラが短いのも不思議。持ち時間が20分あるのに。
と思ったら理由が判明。オリジナルの展開がたっぷり入っていた。

かなり衝撃の一席。単に、古典落語をオリジナル要素で膨らましたということではない。
初めて聴くこの人、天才かも知れないと思った。そう認識しているファンもすでに多数いるのでしょうが。
最近の当ブログはネタに困るどころか、溢れ気味。書き上げたのに出していないネタもたくさんある。
溢れ気味のネタのひとつに、「丁稚の落語論」としていずれ論じようと思っている内容がある。普通はあっさりした場面を、客が完全に理解できるようにしつこく演じる噺家について論評しようと思っているのだ。
基本的には、あっさりしたほうがいい。江戸前の美学のある東京に限らず、上方落語でも、多くの場合実はそうだと思っている。
だが、吉笑さんの「十徳」は、あっさりした噺に内在している不整合部分に目をつぶらず、理屈でもって徹底的にこれを掘り下げ、埋めてみせた一品だった。
そうすることで噺がよくなるかどうかというと、本来的には微妙だと思う。だが大成功。
というわけで、この人の噺の構成力の見事さについては、いずれ項を改めて書きたい。

連雀亭のワンコインで、3人全員当たりだと嬉しい。だいたい、ひとりはハズレを覚悟している。
天才かもしれない吉笑さんに衝撃を受けた日であったが、続くふたりもしみじみよかったです。

春風亭柳若「猫の皿」

春風亭柳若さんは、今日はメガネを掛けている。いつもやっているネタと思うが住んでいる新井薬師と、個人情報だだ漏れのマクラ。
それから、前日の芸協らくごまつりのネタ。くじを引くため噺家のサインが必要で、柳若さんのことを知らないファンにサインを何度もねだられたと。
今日は片付けの日だが、連雀亭で仕事があるのでと、売れっ子ヅラして抜けてきた。このあと昼席も出演。
芸協らくごまつり、私も行くつもりだったのだが台風でさすがに止めた。
来年は日程を早め、5月26日にやるそうだ。ちなみにその日はアタシの誕生日ですと柳若さん。

楽しく、そして弾み具合のほどが非常にいい「猫の皿」。
柳若さんの落語は、その世界にハマるとやたら面白い。敷居は低いので、柳若ワールドを訪れるのは難しいことではない。
思わぬ掘り出し物「絵高麗の梅鉢」を見つけて喜ぶ道具屋は、要りもしない猫を三両で買って大損だ。だが柳若ワールドの中ではちっとも可哀そうでもないし、逆に、欲をかきやがっていい気味だともならない。
悲壮感のかけらもない、ぬるい世界の物語はとても落語っぽい。
店主を婆さんにしているが、独自のクスグリはそんなに多くない。
だが、猫の名前が大好きな爺さんの名前を引き継いでいるという。爺さんいつ死んだんだいと道具屋が問うと「まだピンピンしてます」。
ちょっと鯉昇師っぽいギャグだと思った。
そして婆さん、猫の茶碗を持っていくぐらいなら爺さんを持ってって欲しい。「大好きなんじゃねえのか」。
サゲは、「ときどき猫が三両で」で息を入れて丁寧に客のほうを向き「売れるんですよ」。

柳家花飛「万病円」

トリは、最近やたらと聴いている柳家花飛さん。
先日は黒門亭で、ネタ出し金明竹の言い立てをしくじっていたのに遭遇したが、でも嫌いにはならない。
一見地味だが、よく見るとやっぱり地味な感じの人。だが常に不思議な魅力を漂わせている。
ほんのわずか、この一門らしい冗談めいたフレーバーが漂っていて、かっちりした芸との軽いギャップに惹かれるようだ。
前座時代の仮フラワーのマクラから、娘の話はせずに本編へ。
湯屋の番台で、客がゼニ返せと怒っている。中でふんどし洗ってる野郎がいるんだと。
あれ、何の噺だっけ? 威張るわけじゃないが、古典落語を聴いてわからないことはそうそうないのだが。
湯をあつかましくタダで使い、餅屋の小僧を脅かして1個分の4文で4個食う不良侍。
最後に紙屋に行くが、ここの紙屋は知恵が効き、逆襲される。
この際に噺のキーワード「万病円」が出てきてやっとタイトルを思い出す。極めて珍しい噺である。
この人からは「一眼国」「豆屋」なども聴いている。ちょっと珍しめの噺がお好きなようだ。
ひどい侍の噺なのに、全然嫌味がなくすばらしい。だからといって、侍のピカレスク振りに快哉を覚えるという落語でもないのだ。
ひどい侍と、被害者の町人が両方とも記号化され、ひどい話をクスクス笑いながら楽しく眺めるという。
だから、最後紙屋が逆襲しても、侍ざまあみろという感じでもない。ストーリー展開に付随する、そういう余計な感情はさっぱりと忘れて味わうのが楽しそうだ。
しまいはトントンと気持ちよくサゲになる。

満足しました。両国に続きます。

作成者: でっち定吉

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