亀戸梅屋敷寄席25 その3(三遊亭好楽「伽羅の下駄」上)

あいかわらず、けろよんさんの記事のアクセスが伸びている。
落語界の事件で数字を稼ぐよりもずっと嬉しいのだけども、好楽師の記事もお願いしますよ。
上中下で終えるつもりだったのだけど、気合が入って延びちゃった。

三遊亭朝橘師は、2021年は聴いていなかった。
真打の披露目は私が円楽党に通う前だったので巡り合っていないが、それ以降結構聴いている。
この日も目当てのひとり。

2018年の当ブログを読んだら、「朝橘師、三年以内に、かつての兼好師や萬橘師のように売れてくると確信している」と書いているが、予言は外れたようです。
高いレベルの高座を常に魅せてくれるのだが、一度も爆発していない気がする。
このままでは円楽党によくいる、ちょっとユニークな真打で終わってしまう。どこかで化けていただきたい。
頭のおかしい噺家がよく採れる静岡県出身(沼津)で、筑波大出。

本編は、2018年に聴いた「茄子娘」。得意ネタなんだと思う。
先日、浅草お茶の間寄席で流れた三笑亭可風師の茄子娘を取り上げた。おととい名を出した前座の南太郎さんも引き継いでいるスタイルだが、朝橘師のものはまるで違う。
そして、本家である入船亭の茄子娘ともまったく違う。
入船亭の噺を鳳楽師経由で譲り受けたらしいのだが、ほぼ自分で作り上げた様子。
しっとりした部分はまるでなく、スピーディな面白地噺にしている。
いつも野菜を送ってくれる実家(顔の見える生産者)の話が加わるのだ。
入船亭のようにしっとりさせるともっとよくなるのか、そうすると噺の性質が変わってしまってダメか、そこはなんともいえない。

和尚の元に、茄子の精である娘が現れる。いつもかわいがっていただいているお礼に参りました。
言葉の語尾が「ございなす」といちいち茄子になっている。
そうこうするうち茄子の精が出てきて雷がピシャー。「あーれー」。
「昼席なんでこの先はできません。夜席だったらよかったんですが」。
たぶん、子供がいたらそのせいにするんだろう。

この茄子の精は、朝ちゃんと起きて朝食の支度をしているのだが、戻ってきた権助に追い出されてしまう。
朝橘師は珍品好きで、「身投げ屋」「蚊いくさ」なども聴かせていただいた。

その朝橘師のツイート。

トリの好楽師から珍品を引き出した人こそ、まさに朝橘師なんだと思うけど。
楽屋のプロを笑わせる楽しい一席が聴けた。
前回は好楽師から気合の入った抜け雀を聴いて感動したのだが、軽い噺もすばらしい。
3時45分までやっていた前回と違い、25分ぐらいで終えていた。でも満足。
好楽師、近年はトリしか務めなくなってしまって、軽いネタが出番を待っているのではないか。

今日はピンクの着物で、震災の被災者を励ますために作ったというこれについては、もう説明しない。

「熊本に行ってきましてね」と好楽師。新真打・好一郎師も熊本だからそれ絡みだと思うのだけど、なぜ行ったのかは語らない。
働き盛りの警察官だったお父さんが亡くなったときに一同熊本へ行ったが、そのときは30時間以上かかったと。
今は飛行機で1時間半だ。
8人兄弟の6番目の好楽師だが、私以外はみな無口。親父も酒を飲まない限り無口だったって。
落語が好きなので、銭湯から池袋演芸場のチケットをもらい、志ん朝の席に10日間通ったという、これはおなじみのネタ。

落語も好きでしたが相撲も好きです。永谷演芸場の社長から升席を譲ってもらえるので、先日も行ってきた。
升席の妖精や、双葉山の69連勝を止めた力士の話など。
相撲もハマるものだが、吉原にハマる人もいる。話はどこに向かうか、本編はなにかまるでわからない。

好楽師は噺の数も、そしてマクラも非常に多い人であるが、さすがに数聴いていると被ることが多くなった。
だが、同じマクラに見えて常に角度が違うし、語る内容も微妙に異なる。
練り上げた、固定したマクラではなく、その場その場の思い付きで進めているからだと思う。
幼少期の話だって、お父さんの亡くなった日の話や、新聞配達などいくらでも進む道があるのである。

本編、珍品中の珍品である「伽羅の下駄」に続きます
念のため書いておくと、伽羅はきゃら。香木のことである。

作成者: でっち定吉

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