神田連雀亭ワンコイン寄席41(下・柳家花飛「死ぬほど律儀」)

最近聴いたばかりの花緑弟子の会で、新作でちょっとズッコケていた花飛さん。
たまに外すのだが、それでも私は好きでずいぶんと聴いている。
アベレージは高く、大喜利など飛び道具も持つ才人。大喜利は聴いたことないが。
古典の珍品好きの印象なのだが、新作も手掛けている。聴いたのは、その前回が初めてだが。

久々に前座時代の名「フラワー」を使った仮フラワーネタを聴く。
続いて落語界の掟について語る。
先輩にお世話になったら、その場のお礼だけではなくて、次会ったときに必ず感謝を再度述べないとならない。
大事にしたい風習ですよねと花飛さん。
ただお礼を言われる立場で、いったいなにをしたのかまるで忘れていることがある。楽屋でたまたまセロテープを持っていたなど、実にどうでもいいお礼を半年ぶりに前座さんに言われたり。
この「律儀」がテーマ。バカ丁寧だとさすがに困りますねと。
丁寧で困るって噺、「たらちね」以外に知らないが?
そう思ったら冒頭でいきなり「ピンポーン」とチャイムが鳴る。新作だった。

行けなかったが花飛さん、福袋演芸場で林家きよ彦さんとともに自作の新作を出していたのは知っている。
ここ最近、新作に力を入れているらしい。きよ彦さんのように、前座のころから作っていたわけじゃないと思うのだが。古典派が新作を急にやり出すとは珍しい取り組みだ。
前回は、あるあるネタを狙っているのにまるで共感できないややハズレの一品だったが、今回の「死ぬほど律儀」はよかった。
タイトルに「死ぬほど」が入っているのがストーリー的にミソ。

会社の廊下で書類をぶちまけた際に手伝ってやったのを恩に着て、お礼を持ってくる後輩。
そこまでしなくてもと思ったが、せっかくなので家に上げる先輩。
話を聞くと、後輩は毎日誰か、感謝した人にお礼を届ける律儀な男。そこまでしなくてもいいんじゃないか。

先輩はそういうことしませんかと訊かれるので、俺はお世話になった人に足を向けて寝ないことだけだねと先輩。
ここで後輩のスイッチが入ってしまう。全方位にお世話になった人がいるので、足を向ける場所がない。

花飛さんは、古典落語において、登場人物に没入せず距離を取って語る人。それが持ち味だ。
新作でも、この語り口。この噺に関しては、これでいい。というか、これがいい。
「丁寧だがちょっとクレージー」という登場人物との距離が開いたままなので、気疲れしないのである。

全方位に足を向けられないので、どうする。これはすでに客が解決法に気付いている事実を噺に盛り込んでいて、つくづく感心。
しかし思わぬサゲはまったく予測不能だった。かなりカンのいい人ならわかったろうが。
東京の新作には「飛躍」が必要というのが私の信念。この噺も、「ちょっと困った奴」という日常から、軽々飛躍してくるところが大好き。
花飛さんの新作、今後も楽しみだ。

トリは春風亭橋蔵さん。
橋蔵といえば年配の方には大川ですが、今日はこれでご勘弁くださいと挨拶。
世界ふしぎ発見に出ていた、故郷和歌山のパンダの話。相変わらずマクラはなあ。そもそも笑いの要素がきちんと入っていないのだもの。

この日は浅草演芸ホールの2階で、ネタおろしを告知している噺をアゲてもらってきたそうで。
他の噺家は、ネタおろしの会の前に平気で試してしまうのだが、私はそういうことはできませんと。
アゲてもらったネタは、ここ連雀亭の夜席で掛けるそうだ。調べたら12日(日)。
こういうクスリとさせる程度のマクラをどんどんやればいいのに。

本編は「馬のす」。珍しい噺で、芸協の人からは初めて聴く。
ちなみに芸協の人から珍品を聴くと、三笑亭夢丸師が持ってるかどうかがいつも気になる。だいたい持ってそうなのだが。

「馬のしっぽを抜くとどうなるか」だけで一席持たせる高度な噺。トリにしては軽いが、演者の労力はたぶんかかる噺。
こういう難しい噺が語れるとは立派なものだ。
落語協会のものと違い、やってくる友達はアニイ分。
釣りに行きたい八っつぁん(たぶん)が、馬のしっぽをテグス替わりに抜いているのを見とがめてアニイ分が、お前そんなことしていいのかと。
もったいぶるアニイ分がなかなか、なにがいけないのか語らないので、酒と枝豆をサービスさせられる。

ちゃんと起きて聴いてたのだけど、アニイが終盤、酔いながら語るとっておきのネタ、なんだか忘れちゃった。ここは自分で作ることが義務付けられている最重要ポイント。
つまらなくて忘れたわけではない。面白かった記憶はあるが、忘れてしまった。
迫力がある人なので、見せ方が大事な噺には向いてるなという印象。

雨の中、来た甲斐のあった連雀亭でした。

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作成者: でっち定吉

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