神田連雀亭ワンコイン寄席41(上・立川寸志「風呂敷」)

雨の月曜日、ちょっとだけ落語が聴きたいので連雀亭のワンコインへ。
客は6人。天気を考えれば悪くはないだろう。

風呂敷 寸志
死ぬほど律儀 花飛
馬のす 橋蔵

翌日の顔付け(笹丸・らっ好・市若)と悩んだが、市若さんは前の週に聴いたばかりなのでこちらへ。
55歳、高齢二ツ目の立川寸志さんは初めてだ。Zabu-1グランプリで感心し、かねてから一度聴きたいと思っていた。どうせなら連雀亭でと。

寸志さんは談四楼師の弟子。師匠の前名をもらっている。
師匠・談四楼は、れいわ新撰組大石あきこの暴言ならば積極的にこれを支持するクレイジー左翼文化人。
ネットの暴言やヘイトスピーチは許さないのに、ポピュリズム政党が首相を「鬼」呼ばわりするのはすごくいいことなんだってさ。
そんなトンデモ師匠の門人でも、弟子に罪はない(ということにする)。

あとの二人はたびたび聴いてる好きな人だが、やや危ういところも。
花飛さんはアベレージ高いがたまに外す。橋蔵さんは技術高いがマクラが凡庸。

前説の花飛さんはこの日は袴姿ではなかった。
諸注意の最後に、「喫煙はできませんが、どうしてもとおっしゃるのであれば目をつぶりますので吸ってください。ただし、絶対に煙を吐かないでください」。
マジメな顔でこういうことを言う楽しい人。

さて期待の寸志さん。
今日は雨で誰も来ないんじゃないかと心配しました。
実際、先日ゼロということがあったんです。そんなときに、お客さんを待ってなにもしないのはいただけません。
オーナーの加藤さんが上にお住まいなので、電話して来ていただくんです。1人相手に公開稽古をするわけです。

この世界は入った順序が絶対で、先に入った人がアニさんです。
私は立川流ですから、両協会の人とここでご一緒できて嬉しいんですね。
アニさんと呼ばれる人の噺をと、本編は風呂敷。
私の好きな噺。若手は紙入ればっかりで、風呂敷やらないが。
寸志さん、終始うたい調子。これはいいですね。リズムで楽しく聴ける。

風呂敷も、新さんを家に上げるかみさんにどれだけ隙があるか、さまざまな振り幅がある。
そして、おかみさんがどれだけ隙があったか、自ら語るパターンもさまざま。
寸志さんのものは、「隙が十分あるが、当のかみさん自ら語りはしない」という、私の最も好きな組み合わせ。紙入れのように露骨でなく、客の想像力が喚起されていいじゃないですか。

噺そのものを、ずいぶんと改変している。
アニイはこの噺の唯一の常識人として描くため、知ったかぶり格言など披露しない。それ以外の人物にことごとく仕事を与える。
先に帰ったかみさんまで亭主と一緒に飲んで、短時間でべろべろ。あろうことか押入れを自ら開けようとするし。
押入れの新さんも、とっとと逃げればいいのに余計なところで突っかかるし。
横浜でエゲレス人を見てネタができ、ご機嫌な亭主は同じ話を繰り返すし。
なのに、これらの相当大きな改変が、別に噺の肝というわけでないのが面白い。サゲまでいじっているのにもかかわらず、客の感想としては本寸法の味わいなのだ。
こういう芸風の人は他に知らないな。
ドラスティックな改変を行ったら、「どうだあ」と客に見せつけたいのが普通ではないですか。ハマるかどうかは別だが、客のほうもそんな高座を見て「すごい改変だ!」と評価する。
そういう面白落語と異なり、かなり手を入れておきながら、あくまでもスタンダードバージョン風呂敷として語る稀有な寸志さん。

アニイが新さん救出作戦のため腰を上げると、アニイのおかみさんは荒縄と包丁を用意している。あたしもアニイと呼ばれる人の女房だ、覚悟はできてるよと。
そんなこと俺はしねえよ。風呂敷出してくれと言うとかみさん、「人ひとり包むんだね」。

つい先日、こういう記事を書いた。

落語の演出が時代とズレたら(東京かわら版から)

検索にも掛からないのになぜかよくわからないが、アクセスは多い。
渡邉寧久師の、落語の時代に合わない演出への非難について、全体としてはわかるけど個々にはちょっと違うんじゃないかと異論を述べたもの。
この寸志さんの楽しいギャグなど、「殺人を露骨に連想させたら客が引くだろう。そんなこともわからない時代遅れの演出だ」と非難されかねないが、真に不愉快になる人がいるとも思えない。

すっかり寸志さんのファンになりました。
さて、極めて達者な人に向かって定吉ふぜいが「さらにこうしたらいい」は失礼極まりない。でも、二か所だけどうしても言いたい部分が。

  • 「にいさんにいさんにいさん」「大変大変大変」のあとアニイが「お前は3回ずつ言うんだな」。さらにかみさんが3回繰り返すセリフで返したあと、アニイがちゃんとツッコむ。
  • 風呂敷の実演をする際にアニイが「隣町で」今もめ事を解決してきたと断っている

おかみさん、3回のセリフでなんて言ったのか忘れたのだが、ギャグの構造としてはアニイのフリを受けてのボケである。
そこでツッコミのセリフを吐かず、顔をゆがめるなどにとどめておくのが最近のトレンドだと思うが、どうでしょう。「反応しないでスルー」もいい。
寸志さんがうたい調子なだけに、セリフを刈り込むためにもなおさら。
ギャグのスタイルと流行との関係はいい悪いではないけれど、「ちゃんとツッコまない」という若手(本当に若い人)の使う手法が私は好きだ。
あと、「隣町」の設定じゃないほうがいいと思うのだけどな。
アニイは、今からやる実演の話をリアルタイムでしてるんだから。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。