たま平、しっかりしろ!

もう1か月前の放送だが、フジテレビの「たま平、しっかりしろ!」は実に面白いドキュメンタリーであった。ブログ1日分のネタになりました。
現在は二ツ目に昇格した、林家たま平さんの前座時代に密着取材したもの。
たま平さんは、落語協会副会長、林家正蔵師の息子で弟子。なんと四代続く、落語界でも極めてレアな血筋。

いよいよ前座となり、新宿末広亭に楽屋入りするたま平。いきなり師匠の主任の芝居なのは協会の配慮か。
一緒に働いている先輩前座は、なな子、扇兵衛、ございます(現天歌)、市丸。
大きなカバンを持った伊藤夢葉先生や、入船亭扇好師が楽屋入り。
狭い中であいさつし合う、兄弟子たけ平(当時二ツ目)や、翁家和助師匠、それから柳亭小燕枝師。
五日目にたま平は初高座で「二人旅」。前座からは聴いたことない噺だ。

焼肉屋で一門の飲み会。一生懸命下働きに励むたま平。
一門でない、柳家小せん師と、三遊亭わん丈さんが混じっていた。ふたりとも、林家に近いイメージはないけど。
この一門の噺家さん、顔と名前が一致しない人が多いのだが、正蔵師の弟子ならたけ平師以下一応わかる。
つる子さんは、普通にしていると実に美人だと改めて思う。
ペー先生は正月でもピンクの服。

横浜にぎわい座でのたま平さんの「子ほめ」、八っつぁんの軽口に対し大家が怒り過ぎていると正蔵師が指摘する。
ごもっとも。前座もなまじウケたい気持ちがあると、会話のやり取りをついクサくしてしまう。でも、そうすると途端にウケない。
落語たるもの、力を抜いて会話に漂う楽しさを描き出せるようになってから、ようやくウケ出すのだ。
このあたり、誰かがちゃんと教えないと、年数だけ重ねて気づかないままの人も多い。

場面は浅草(先代三平追善興行)。たま平以外の前座は、なな子、つる子、あんこと一門の女性3人。あんこさんも二世。
父正蔵はトリで「味噌豆」。軽いですな。
父と会話を交わすことは非常に少ないたま平だが、予告なく父・正蔵、叔父・三平と一緒に並ばされ、親子関係を正式に客に紹介してもらい感激する。
幕が下りたあと涙にむせぶたま平を、すれ違った姉弟子、当時立前座のなな子さんが実にそっけなく見ていた。
ま、気持ちはわかる。
親子の縁を切って、他の弟子と同じ扱いをしている前提で、姉弟子としてもその要望通り厳しくしつけなければならない。実際そうしつけている姿が画面にも映っている。
そんな中で、急に血のつながりを客にアピールされたらいい気はしないかもしれない。
でも、こういうところにこそ、心の余裕が欲しいものだ。
客が血のつながりを喜ぶのは当然のこと。それに不満を持っても始まらない。正蔵師にしても、それを客に教えて応援してもらおうとするのは、当然のこと。
こういった点において、兄弟弟子の誰もやっかまないであろう、林家木久蔵師は結構すごいと思う。

たま平が高座でマクラを振るのを、師匠が袖で、怒りの形相で見ている。
「宅急便をお題で謎かけをひとつ」「宅急便と掛けて日本の戦艦と解きます。ヤマトが一番でしょう」
このネタ、どこかで聴いたと思ったら、柳家小ゑん師のCDのマクラにまったく同じ使い方で入っているのだ。
前座が人のネタパクったらまずいと思うが、いっぽうで、たま平さんが自分で思い付いたと錯覚したのだとしても、無理からぬ気もする謎かけ。まさかカメラが入っているところで意図的にパクらないと思う。
このマクラにつき、「安い芸をするな」と叱る正蔵師。それはわかる。
だが実は結果的に、一緒に会もやっている先輩、小ゑん師のギャグを叱っているような格好になっている。
勝手に気まずい思いをする画面の前の私であった。

落語協会事務所における二ツ目の昇進式は初めて見ました。

作成者: でっち定吉

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