ドラマ「昭和元禄落語心中」第5話

雨竹亭では、助六が覗く中、菊比古が品川心中を掛けている。
ちなみに今まではっきり見えなくて「春亭扇福」という幟が出ていると思っていたのだが、「椿亭」でした。
アニメ版より、破門された助六を、なんとか元のさやに収めようとする努力が強い。
そうだよね。才能ある噺家を、師匠が気に食わないからって簡単に放逐するような世界じゃない。
まあ、わりと簡単に破門にする師匠もいるけど。例:小三治、南光、談春。

赤ちょうちんで菊比古と逢ったあと、一升瓶をラッパ飲みして「よく趣味、道楽なんてことを申し上げますが」と野ざらしをつぶやく助六。

おかみさんを亡くす八雲師匠は、実のところ助六破門が尾を引いている。
八雲襲名の苦悩を口にする七代目。
現実世界では、大きな名を背負って、もうちょっと苦悩したほうがいいんじゃないかという人もいますね。
「襲名は自分の意思でどうこうなるもんじゃねえ」と言う七代目。
俺の落語を否定しやがってと助六を罵りつつ、一方では自分の背負った名前の重い、アンビバレンツな七代目。

菊比古のステッキを棄てて逐電のみよ吉。こういう、オリジナルエピソードを膨らます脚本は見事ですね。
そして、助六と菊比古の関係も、そんなにBLっぽくはない。
NHKだからというより、そんな関係性がなくても物語は立派に描けると思う。

ひとりになって、なおも品川心中の稽古をする菊比古。
助六とみよ吉の先行きを予測するかのような稽古。

雨竹亭では親子会。菊比古に弟子入りしようとするのは、のちの樋口先生。
アニメ版のときも書いたけど、こんなことで機嫌を損ねる師匠の器は大したもんではない。
自分の弟子に弟子入り志願者が来て、むしろ喜んで欲しい。

七代目は子別れ。体調が悪いだけでなく、ドラマの中の落語としては全然いい芸ではない。
セコい芸を立派に務める平田満は偉い。
一席終えて倒れる七代目は、菊比古に「助六」の名前との因縁を語る。
回想シーンの先代助六は、柳家緑助(ろくすけ)さん。チョイ役だが大抜擢であるな。
私は、達者な人だらけの柳家花緑一門を最近よく聴いているのだが、11月1日に二ツ目に昇進したばかりのこの人は未聴。でも押し出しもよく、上手そうな人だ。
林家九蔵問題のときもたっぷり書いたが、名前というものは血縁で受け継ぐことを否定できない性質のものである。
それを否定すると、噺家でない一般人が血で継ぐことを否定しなくてはならなくなる。とにかく、七代目が名前を継いだのは別におかしなことではない。
「血縁だから名前を継いだ」と自覚してさえいれば、芸で負けていても別にどうということはない。

師匠亡きあと、死神を掛ける菊比古。
死神に色っぽい場面なんかあったかなと、ちょっとびっくりする演出。上方に行きたいと女がねだる地味な場面をフィーチャーしている。
高座を後にすると、会長がいて八代目八雲を継げという。そして四国に旅に出る菊比古。
うどん屋では、子供の小夏が野ざらしを掛けている。
「電車に揺られて食欲がねえ」と菊比古。昭和30年代には、長距離の鉄道を「電車」って言ったかな。まだ汽車じゃないのかな。

続きます。

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。