古今亭駒治真打昇進披露@国立演芸場

家族全員がファンの、古今亭駒治師匠の真打披露である。
しょっぱなの鈴本が前売り完売で、またその後の3場は平日で、ようやく休みの日に重なったのが最後の国立演芸場。
いろんなところに連れてってるうちの坊主は、落語についてはいっちょ前の口を利くのであるが、意外にも国立は初めて。
そして、真打昇進披露も初めて。
家内も国立は初めてだと言うのだが、実際には子供が生まれる以前の花形演芸会に一緒に来ている。
私は、特に好きな演芸場でもないのになぜかしばしば来ている。
今年は芸協、神田蘭先生の真打披露目も観た。
今回の落語協会の番組は、同門の人で作っていて、非常に国立らしい顔付け。

口上

披露目の口上から。
司会が志ん陽、以下志ん丸、駒治、志ん橋、馬生の各師匠。
志ん丸師が、事前に打ち合わせてなくてすみませんがと師匠方に断ったうえで、写真撮影の許可を出してくれた。
SNSでどんどん拡散してくれとのことです。その通り拡散されてましたね。
真っ黄色の後ろ幕がすごい。ホッピーが駒治さんのスポンサーとは知らなかった。
披露目の口上というもの、締める人ももちろんいる。この日の場合は、師匠の志ん橋師がそう。
はじめの頃は「ろくでもない新作」を作っていたらしい駒治だが、ようやくみられるものになったと厳しく優しいことば。
だが、固いだけではもちろんなく、おふざけ担当の人も並ぶ。今回は金原亭馬生師匠の役目。
駒治の亡くなった元の師匠、志ん駒は私らの兄弟子に当たるが、実に評判のいい人だったと。
噺家はだいたい、口ではいいことを言っているが、裏に回ると当人の悪口を言う。だが、志ん駒師匠だけは例外。
その師匠の弟子なので、人柄がいいのはお墨付き。
もう2年くらい前に真打になってもよかったのだが、柳家の理事がケチをつけてダメだった(場内爆笑)。
駒治はいい男なので、女性がほっとかない。ただ、芸の妨げになるといけないので、いい女は私に回して欲しい。
温かい披露目でした。

古今亭駒治「旅姿浮世駅弁」

その新真打、駒次改め古今亭駒治師匠のトリから先に。
出囃子は鉄道唱歌。客が出囃子に載せて拍手をする。駒治師は、拍手に乗って登場したのは初めてですと。
マクラは6月に川崎市民ミュージアムの鉄道落語会で聴いた、調布のインターナショナルスクールの学校寄席。
担当者がわざと、特殊な学校寄席であることを伝えてくれなかったのだという。
日本語学習中の生徒たちに、「Most Famous Japanese Rakugoka」という触れ込みで一席披露する。しかも先生の通訳付き。
しかも、8年振りぐらいに古典落語を思い出して「転失気」を披露する。
面白いマクラがさらにパワーアップしておりました。
仕事が済んでくじけ気味、早く帰りたい駒治師。しかし無慈悲にも感想コーナーがある。
女の子の生徒の感想が、「世界中のみんながあなたのことを最も面白い落語家だと思わないとしても、私だけはあなたが最も面白い落語家だと思う」。
ちなみに古典落語8年振りは大げさだ。昨年も西葛西で「味噌豆」聴いてる。
このマクラ、脚色はあるにしても基本実話。学校のサイトに載っているのを教えてくれた方がいらした。

マクラの締めに、駅弁の噺をすると駒治師。
披露目の口上からなにから、散々鉄道落語家と紹介されてるから、ほかの系統の噺はしづらいかもしれない。
駅弁が出てくるので、先日謝楽祭で聴いた「おばちゃん風景」だと確信した。まあ、それでも全然構わないのだけど。
だが違う噺。おばちゃん風景のように、日常世界と最後まで接点を維持した噺ではない。
存在自体知らなかった「旅姿浮世駅弁」。鉄道ネタは本当にたくさんあるのだな。
そして大変口慣れている。
駒治師の喋り、テンポいいわりにはちょっと噛みぐせがあるのだが、この日は実にいい滑舌。スピード感溢れる喋りで、客を楽しいアドヴェンチャーにいざなう。
鉄道ネタというか、飛躍のすごいぶっ飛んだ噺。飛躍のレベルでは新作落語でも最右翼。
ホームでの立ち売り駅弁、三河屋の商売の権利を不当に奪おうとする越後屋と、悪徳駅長とのたくらみを聴いてしまい、駅長室に監禁される主人公夫妻の妻。
助けようとする夫の元に、旅のご老公と助さんが現れる。
吉原に売られることが決まる妻。吉原といっても、岳南鉄道の分岐駅である、静岡県の東海道線の駅のことで、そこのキヨスクのパートさんとして売られるのだが。
最終的には発車したディーゼルカーから見事妻を救い出し、越後屋と駅長はご老公のお裁きで陸の孤島、北綾瀬に流して一件落着。
チャンバラが入ったところで登場人物の妻が一言「これ何時代の話?」。
駒治師匠に、私の最大級の褒め言葉を贈ります。
「あんたバカじゃねえの」
バカでかつ、スペクタクル冒険巨編。
それにしても、こんなむりむりの噺を、子供だましに聴かせないのはなぜだろう。
最近ずっと「大人の喜ぶ新作落語」という概念を考え続けている。バカな世界の噺だからって、大人が喜ばないと価値はない。
喬太郎師の新作が典型例だが、売れてる新作派の師匠は、みんな大人を喜ばせてくれる。
でもそうじゃない新作落語もある。どこがどう違うのだろうか。まだ結論が出ていないままだが、駒治師の落語が大人を喜ばせるほうに入っているのはとても嬉しいこと。
真打昇進のご祝儀で駒治師匠、TBS落語研究会から呼ばれないかな。
まあ、今回の昇進組から最初に呼ばれるとしたら、本格古典派の柳家勧之助師かなあ・・・

現在の落語界、誰でも真打にはなれるが、その後寄席になかなか出られない真打もたくさん。
でも駒治師匠は、披露目が終わっても大人気。
11月の池袋中席夜席で、クイツキ(仲入りの後)に早速入っている。
続けて鈴本下席夜席では、ヒザ前。
同時昇進組で、一番早くトリを取ると思う。たぶん、池袋だな。

***

市若  / 弥次郎
志ん吉 / 平林
志ん陽 / 子ほめ
一風・千風
志ん丸 / 壺算
馬生  / 稽古屋
(仲入り)
真打昇進披露口上
小菊
志ん橋 / 熊の皮
仙三郎社中
駒治  / 旅姿浮世駅弁

家族も非常に喜んでいた披露目の席。駒治師以外について。色物さんは省略します。
国立演芸場の客層の違いに家内も驚いていた。確かに国立、伝統芸能をきちんと聴こうと、構えている人が多いと思う。
構えてはいるが、通じゃない。池袋ではまず見かけない客層。
息子は初めての国立がもの珍しいらしく、仲入りのときもあちこちうろついていた。
仲入り時に、最近ファンになった柳家花いちさんが一生懸命手拭い売ってました。もうひとりは誰だったか。
階下のギャラリーでは、噺家の所作が特集されていた。
新作落語の所作が取り上げられていてとても楽しい。白鳥師や彦いち師は座布団と格闘し、円丈師は扇子をピッケルにして、そして喬太郎師は「母恋くらげ」のイカ。
いっぽう、入場するまでなかなか大変なのが国立演芸場の欠点。
Web予約だと機械で発券できるので全然楽。
Webでは子供料金が予約できない。わが家は電話予約したが、一般の入場と同様窓口に並ばないとならない。
ちなみに、いつもは東京かわら版で200円引いてもらうのだが、そのときも並ぶのでやっぱり大変なのだ。

残念なことが一つ。私の隣の席のお父さんの、異常な口臭。隣でこれを一日嗅がされたのは参りました。
ちょっと息が臭うというレベルではなかった。恐らく胃か肝臓が末期症状を迎えているのだろう。
お迎えの前に駒治師匠が聴けてよかったですね。

金原亭馬生「稽古屋」

この日の一門で固めた番組、比較的地味な顔付けであることは認識してきたのであるが、しかしながらどの噺家さんも実によかった。
派手でいい落語も、地味でいい落語もある。
そして、地味でいい落語をちゃんと聴いて味わえる鑑賞能力が備わっているのは、実にありがたいことである。
この日の一推しが、仲入り前の金原亭馬生師。この師匠は浅草の、圓菊追善公演と掛け持ち。
登場して、こんな派手な後ろ幕は初めてですと。
マクラはそこそこに、稽古屋。
上方落語では大変メジャーな噺。私も先代桂文枝の稽古屋が大好きであり、この週にも聴いていた。
東京ではあまりやらないし、聴かない噺なので、私の中でも上方バージョンがスタンダードになっている。
稽古の噺は、猫忠とか汲みたてとか、他にもあるのだけど、東京ではあくび指南ばっかりだ。
この、馬生師の稽古屋が粋である。アホの喜六が大活躍する上方の爆笑稽古屋とは大きく違った味わい。
江戸っ子ならではの、なにも考えず生きている風がとても気持ちいい。
そしてハメもの入り。
上方とは構成が違っていて、隠居との色事根問のあと、入門志願の男が師匠にまず、清元の稽古をつけてもらう。
ここでひと笑いあり、その後こども衆が通ってきて、こちらの稽古を先にする。
子供の稽古の間に、持ってきた木村屋のあんパンを男が食べてしまう。
寄席に通っていても、どうしても番組の傾向による巡り合わせがあり、馬生師を聴くことはあまりない。
名前を残すための中継ぎ馬生だなんてことをご本人も言うけど、その実達者な人なのを改めて認識した。
家内も馬生師がとてもよかったと言っている。
先日謝楽祭で初めて住吉踊りを観たが、この踊りの出る、馬生師の主任の席にもいずれ行きたい。

***

ヒザ前は駒治師の師匠になった古今亭志ん橋師。
「これが寄席のヒザ前」と膝を叩く芸。見事な熊の皮でした。
トリに備えて客を落ち着かせながら、しかししっかり楽しいいい噺。
ところで熊の皮、最近流行ってるのかよく聴きますね。同系統の「鮑のし」を駆逐する勢い。以前はそんなに出ていなかったと思うのだけど。

馬生師の前の出番が、古今亭志ん丸師。珍品をよく掛けてくれる師匠。
珍しい噺に期待したが、この日は壺算だった。実にとんとーんとテンポいい壺算だったので満足です。
テンポ良すぎたのか、1荷の甕を2荷に替えるあたりのやりとり、客がいまいちピンと来てなかった気がする。わからない人は学習してもらうしかない。
ちなみにマクラで、北海道の牧場の遺産相続の噺を振っていた。古来からあるパターンのクイズだけど。
11頭の馬がいる牧場で、「長男に2分の1」「次男に4分の1」「三男に6分の1」の相続をせよという遺言が残される。
割り切れなくて困っていたら、隣の牧場のおじさんが馬に乗ってやってくるという。これを一時贈与して解決。
まあこのクイズ、設定自体おかしいんだけどね。

前座の後のトップバッターは、古今亭志ん吉さん。昨年のNHK新人落語大賞本選出場者。
鉄道落語界の椅子はもう埋まっているので、私は別のジャンルを探しますだって。
駒治師の鉄道知識について、わかったような返事はしない。だが、世の中には知ったかぶりをする人もいるといって落語へ。演目は平林。
あれ、平林って知ったかぶりの噺なのか? 
知ったかぶりの演出も確かにあるけど、知ったかぶりの登場人物は出てこなかったけど?
さて志ん吉さん、登場人物の会話の間が絶妙である。実に楽しい。
といっても、会話の妙だけではなく、キャラクターにも工夫をしている。
「いちはちじゅうのもくもく」を教えてくれるお爺さんが最強。先代正蔵(彦六)みたいな喋りで、手も震えていて手紙が持てない。
最後に、どれが正解かわからず、四種類の読み方を唱えて歩く定吉の後ろに、「とっきっき」を唱えて子供たちが付いてくる。
ここまでは普通だけど、子供たちの後ろにさらにこのお爺さんがいて、一緒に「とっきっき」と震える声で唱えている。
お爺さんはいちはちじゅうのもくもくじゃなかったんですかと定吉。爺さんはとっきっき派に転向したらしい。
最後、当の平林さんに会って、私宛の手紙だよと言われた定吉、「また増えた」。
このサゲは聴いたこと無かった気がするが。

最後に最初の前座を。前座の柳亭市若さんはとぼけた味わいがあり、黒門亭では人気である。
当たりの前座で嬉しかったのだが、正直そんなにウケてはいなかった。
弥次郎自体、最近あまり聴かない噺。私好きなんだけどな。
北海道の火事が凍るホラから、恐山に行って猪と格闘。普通はここまで。
そのあと紀州に一気に向かい、道成寺のくだり。驚いた。噺の存在だけは知っていたが。デキはともかくなんだか得した感じ。
先日聴いた、道灌の前に振る四天王と同じくらい珍しく、嬉しい。
珍しいくだりは、覚えたのをただ喋ってる感じになってしまっていた市若さんだが、武器がある。
ごく普通の昔ながらのクスグリを振った後で、いったん沈黙して間で笑わせるという特技。
普通の前座さんでは、狙ってもできないと思う。

楽しい1日でした。
新真打、鉄道落語の第一人者古今亭駒治師匠を、皆さまどうぞご贔屓に。

作成者: でっち定吉

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