春風亭一蔵さんの強引さが実に楽しいトークだったが、諸刃の剣というところがあって。
それがその後の高座に現れるのであった。
まずは小辰さんから登場。
春風亭一蔵という人、どんな人かわかりましたでしょ。いつもひとりで喋ってるんですよ。
あちら春風亭一朝一門は名門で、落語協会の一大勢力になってます。
私は入船亭で、小さな一門です。13人という不吉な数です。
おかげさまで9月下席、21日ですね。ここから真打に昇進します(拍手)。
ちなみに、柳家に残った大名跡、10代目入船亭扇橋を襲名させていただきます(拍手)。
柳亭市弥さんも、8代目柳亭小燕枝になりますので、ひとつよろしくお願いいたします(拍手)。
一蔵さんはそのままらしいですけどね。
披露目の50日間、そのうち17日が私です。市弥さんが一日譲ってくれました。
言いたいのは、17日しかないということなんです!
ちなみに国立演芸場は来秋から改装に入ります。来春の披露目は「江戸家猫八襲名」なので、落語協会で噺家の披露目を今の国立でやるのは、今年が最後ですから。
ただ、国立のチケットは今日売ってません。まだ売れないんですね。
今日は四場のチケットを売りますのでぜひ。
披露目には番頭がつきものです。
後で出てくる朝之助さんは、今すごく忙しいんですよ。一蔵さんの番頭です。この人は、10聞くと9忘れるという人です。
市弥さんの番頭は市童さんで、この人は10聞くと5はちゃんとやってくれるんですが、5はどっか行ってしまうという。ただ、字が達者なので重宝してます。
私の番頭は弟弟子の辰乃助で、これは10聞くと全部忘れます。
番頭3人がポンコツなんです。でも、助かってます。
国立演芸場の噺家最後の披露目というとなんだか希少価値があるが、来春には芸協の披露目があるけども。
番頭がポンコツとのことだが、小辰さんは番頭やったのかね?
扇蔵師の昇進のとき、弟弟子の遊京さんはまだ前座だったから、いとこにあたる小辰さんが番頭務めたんじゃないかと思う。
だから言えるのかな。
いっぽうで、遊京さんは番頭経験なく真打になるわけだ。兄弟子がいたって必ず番頭になるわけじゃなく、そう思うとこれも貴重な経験なのだと思う。
真打昇進も縁ですと振って、たらちねへ。
入船亭だから「たらちめ」。入船亭の人が実によく掛ける前座噺だが、小辰さんからは初めてのはず。
私も非常に好きな噺。
いきなり八っつぁんが「その縁談、あっしゃ断りますよ」から始まる。
私はお嫁さんの語る長い名前(自らことの姓名は)をそらんじているのだが、入船亭のフレーズはちょっと違って長い。
父の名は安藤でなく佐藤慶三となる。母が子なくして三年経つのでこのままでは去らなければならないというくだりも入る。
この長いバージョンも覚えたいのだけど、活字で見たことがない。今度探してみよう。
ちなみにこれは入船亭だけじゃないが、「一旦偕老同穴の契りを」という、「変ずるなかれ」で終わるくだりも覚えたいものだ。
小辰さん、たらちめにちょっと地味なクスグリを追加してくる。
あくまでも地味に入れてくるところがこの人らしい。
八っつぁんがそんないいお嫁さんが来てくれるわけないと言ってキズを想像する。
「へそが3つあるんでしょ」これは普通のクスグリ。
だが大家が否定すると「見たんですか」「見てないよ」。
次に「こっからここへこう、刀傷が」。これも大家が否定すると「見たんですか」「見てないよ」。
じゃあ、寝小便すんだね、いいよあっしも昨日したから。
大家の「布団を堂々と干しとくことないだろ」に対してまたも「見たんですか」「それは見た」。
地味なクスグリを重ねて三段オチを付けてくる、見事なウデ。
ひとりで「チンチロリンのガンガラガン」と盛り上がっている八っつぁんが、大家とお嫁さんに見られ、恥ずかしさのあまり押入れに首を突っ込んでいる。
お嫁さんに八っつぁんは「夫婦同様の付き合いを」と声を掛けている。一般的には「兄弟同様」だが、やはり地味にいじる。
この先は特に入れ事ないのだけど、空気を作り上げていて、「酔ってくだんの如し」までずっと楽しい。
隣の婆さんから炭をもらうあたり、一瞬にして長屋の人情が描かれるのも素晴らしい。
結局、トップバッターのこの一席が本日ベストだった。
トリの「替り目」もよかったけど。