新宿末広亭4 その4(桂扇生「岸柳島」)

漫才の風藤松原(ふうとうまつばら)は、落語協会入りしてから初めて観る。
らんまんラジオ寄席の公開収録で観て以来だ。
落語協会には加入したが、米粒写経と同じく漫才協会には入っていない。なぜだろう。
ひとつ言えるのは、風藤松原は落語の寄席こそ最適な活躍場所であろうと。
とにかく緩い、頭を空っぽにして聴ける心地いい漫才だ。
お揃いの衣装で登場。イメージをさっそく裏切られる。

大阪出身の彼らだが、知らなければそれを感じる要素はほぼない。たまにアクセントがちょっと異なるぐらいで。
とにかくツッコまない点が、近年のお笑い全般の傾向にも乗っている。
トレンドでもありつつ、八っつぁんと隠居の会話にも似ている。
いろいろと緩く間違える松原を、風藤はツッコむのではなく、優しくたしなめていく。
そして、なんでも曲解する松原が勘違いしないように、二段階でたしなめる。
対立を一切排した会話がとても心地いい。
Wボケではなく、「ボケとたしなめ」。
風藤松原ほど極端ではないけど、落語の寄席の漫才師の多くにこの要素はある。
ツッコミが対立より調和を求めているスタイルが多い。

と、かなり褒めてるけど、ネタの記憶がほとんどない。覚えられない種類のネタ。
打席で構えていると、全球ナックルボール。
緩いが打てない。コースの記憶など残らない。

しん平師の休演理由はわからないが、代演は桂扇生師。
正月、江戸川区の図書館の会に行きたかったが予約でいっぱいだった。リベンジをと思っていたので聴けて嬉しい。
ずいぶん以前に黒門亭で聴いて以来。ブログ始める前だから7~8年前か。
落語協会の池袋ばかり行っていると、実は上手い人に巡り合わないことがある。
末広亭のほうが顔付けはずっとバランスがいい。鈴本もある種偏ってるし。
今席の末広亭、扇生師は昼の出番があるのだが、この19日は夜の代演を務め、昼は休演。
プログラムに名前のない説明などせず、大川の「御厩の渡し」について。
ということは、岸柳島(巌流島)。季節ものではないけれど、夏がよさそうな噺。
「さあ事だ馬の小便渡し船」という、笑点大喜利のお題でよく使われる川柳など入れず、すぐ若侍が船に飛び込んでくる描写から。
すでに動き出した船に飛び乗ってくる、そのダイナミックな情景描写。
当然、ラストシーンもダイナミックな画を見せてくれる。

櫂をこぐ船頭の所作が、若干コブシーランドにツいてる気がする。
まあ、直前に楽屋入りしてたらネタ帳見ててもわからない。

若侍の悪態はひどいが、乾いていて客席にまで染み出してこない。聴いて嫌な気持にはならないのだ。
しかし、最終的に騙してスカッとはする程度には、しっかりと嫌な奴。
私は岸柳島という噺が非常に好きだが、くず屋が「くずーい」と声を張り上げる場面だけ、納得がいかないなと思うことが多い。
やってるほうもそうじゃないだろうか。でも言わないと、若侍を怒らせられない。
この点扇生師の描き方は実に自然。商売っ気を出し過ぎて、つい声を張り上げ、というか癖でつぶやいてしまったという、そんな感じ。
これに関する説明は一切ないけど、でもそう理解できる。
ちゃんとくず屋、商売熱心が過ぎて周りの見えない男として描いてある。

陸に取り残された若侍に、悪態をつきまくった町人ども、若侍が泳いできて顔面蒼白。
老侍はあくまでも沈着冷静で、槍をしごいていい形。
正楽師匠にこの場面を切っていただきたくなるね。
クライマックスに達した緊迫感が、スーッとほどけていく気持ちよさ。
扇生師の苦み走ったたたずまいは、老侍にとても似つかわしい。

小ゑん師のツイートで本日の自家製ネタ帳を埋めさせていただいたが、他にもこの日の寄席関連でつぶやき。

そう、扇生師、確かに「できそこないの菊人形」を入れてました。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。