新宿末広亭4 その5(林家正楽、大苦戦)

今日の記事は字数が少なめになったので、思い出したクスグリ、というか高座の上の悪口を埋め合わせに書いておく。
左龍師の「お菊の皿」。お菊さんにはいい交わした「三平」という男がいる。
名が三平である以上、ここをスルーせず利用したくなるのが人情。むしろ名前だけ出しておいて触れないと、かえって変な感じになってしまう。
左龍師、「三平といっても笑点をクビになってぼんやりしている半ちくの三平ではなく、いい男」だって。
三平いじりは、特に落語協会では後輩でも遠慮なく使っていいことになっているらしく、二ツ目さんもいじる。実際、聴いたばかりの小辰さんも定番マクラの中でいじっていた。
それにしても左龍師だって後輩なのに「半ちくの三平」とはすごい表現。
先に触れたとおり、極力フラットに演じていった本編に、突然強烈な悪口が紛れ込んできたので驚いた次第。
みんな、つくづくあの男が嫌いなんだろうなあと。ヘタクソ、七光りと罵られてるうちはまだいいが、寄席にもはや居場所がない様子。
末広亭もほぼ出禁だから問題ないのか。
そういえば左龍師、主任も普通にあり、寄席の顔付けを組むには欠かせない人だが、海老名の息が掛かった浅草演芸ホールへの出番だけ、他場に比べると不自然に少ないもよう。出ても交互。
そういう恨みつらみでも(知らないが)あるんでしょうか。

ヒザ前は柳家小ゑん師。
今日は女性の方が多くて、美人揃いですと前座さんが言ってます。すごいですね、マスクの威力はと最近の定番マクラから。
今年の七夕は、新暦だと8月の4日(だったかな)です。ちょうどいい時季なのでと「銀河の恋の物語」。
CDも持っている、好きな噺。
そういえばブログを始める前に一度、末広亭のトリで聴いたことがある。6月下席あたりだったか。
今回はヒザ前で出すわけだから縮めてあるわけだが、そうは感じない。

1年に1回しか会えない織姫彦星はかわいそうではない。
ベガもベテルギウスも人間の一生に換算すると、1秒以内に会っている。忙しくて仕方ないと、時間はなくともこのマクラは振る。

このネタは、願いごとに時事ネタが入る。
衝撃の時事ネタがあったばかりだが、さすがにそれは使わない。
「4,600万円が振り込まれますように」が時事ネタの最初。これはウケていた。
あとは麻生さんの願い、「口のひん曲がりが治りますように」など、通常運転。

織姫と彦星とが人間の願いをかなえたり却下したりという、実にシンプルな骨格の噺だが、メルヘン感がたっぷり漂う。
この味は小ゑん師ならではだと思う。
小ゑん師はネタ数の少ない人ではないのだが、さすがに「ぐつぐつ」の掛からない夏でも、聴いたことのない噺に出逢うことはそうそうなくなった。
それでも、古典落語として聴けば飽きはしない。

ヒザは紙切りの正楽師。
鋏試しの後の注文は、「かぼちゃの馬車」と「船遊び」。
末広亭の紙切りは注文2つでさくっと終わるのが普通だが、なぜか非常に苦戦していた。
なにしろ74歳の師匠である。意気軒昂ではあるものの、手元についてはそろそろ怪しいのかもしれない。
だが、こんな面白いお爺さんはそうそういない。紙切りもまた、話芸である。

「かぼちゃの〜ばしゃ〜」と謎の歌を歌いながら、手を動かしていく。
ときどき、ああ、どうしようとひとり言。
お囃子さんはエレクトリカルパレードを即興で鳴らす。随分長い間鳴っていた。
鳴り物を入れる前座さんもさぞくたびれたであろう。

切り上がったかぼちゃの馬車、別におかしなところはなかったけれど。
でも本当に失敗したところがあってやり直したみたいで、B面のほうは渡していなかったような。

船遊びもいつも切ってると思うのだけど、なぜかなかなか仕上がらない。
持ち時間を大幅に超えた様子。時間調整するはずのヒザがはみ出しちゃった。
でも、喬太郎師を待つファンも、にこやかに正楽師を見つめている。
今後こんな高座が多くなるのかもしれないが、でもファンがよければそれでいいじゃないか。

主任の喬太郎師のマクラは、時間が押したせいもあるものか、短かった。
「十人寄れば気は十色と申しまして」おや、いきなり本編?
「いろいろなご気性の方がいらっしゃいます。素面でも酔っ払っているような方もいますね。それをたった今、ここで見ました」

その、主任喬太郎師に続きます

 
 

作成者: でっち定吉

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