柳家花飛「夏泥」@神田連雀亭

今日も朝の更新が滞っている。
放っておくとサボり癖になります。ネタを見つけるのに最適なのはやはり寄席。
神田連雀亭昼席が通好みのメンバーだ。
通好み、というか地味というか。でも地味にもいろいろあるわけで。

結果、期待外れでした。
ブログのネタにしようなんてよこしまな心が外れを引き出す。
ただし聴くのが二度目であるトップバッターについては、演者に責任はない。
私が眠気に襲われたのがいけないのである。覚えている範囲では、工夫も多く見事だった。

2、3番手がもう、明確に外れ。
2番手でも寝ていたのだが、これは寝ることに決めたためだ。
落語は音楽でもあるわけだが、残念ながら音痴である。
自虐マクラも不発。

3番手の人は、本質的に面白さに欠けている人。
それでも、そのことを承知したうえで、いい高座も過去にたくさん聴いた。
2番手からの悪い流れを引きずった本日は、ただただつまらない。
おまけにマクラで、6人の客を見て、私の大嫌いな「ヒルハラ」を入れてきた。
ヒルハラとは、平日昼間に落語を聴きにやってくるヒマ人を「なにしてるんでしょう」と揶揄する、演者のハラスメントである。
なんだか、嫌になっちゃったのでこの人しばらく避けることにする。

6人の客のうち、ひとりのマダムがアマキン。
演者の一言ひとことにいちいちうなずき、ひとりで笑い声を挙げる。
これもイヤ。
いい反応だと勘違いし、もっぱらそちらに向けて語る演者もイヤ。
アマキンマダム以外、変な日に来ちゃったなと後悔してるんではなかろうか。

トリは柳家花飛さん。この人は実によく聴いている。
アベレージ高いが、まれに外す。
今日がその日だったらもう、厄日だなと。
大好きだが決して派手な芸人ではない。変な流れに乗ってしまわないか心配もする。
しかし、救いの神でした。

花飛さんは、私は代演ですと。昨日、依頼があったんです。
あれ、そうだった? 昨夜遅くに顔付けを見たので、気づかなかった。
本来のトリは弟弟子の吉緑です。なんだか調子が悪いそうで。
代演というもの、同クラスの人を入れるとは限らないんですよ。どうせ空いてるだろうという人に頼むわけで。まあ本当に空いてたんですけど。
吉緑を聴きにきた方には申しわけありません。

以前、Wブッキングを起こした人に、代演を直前に頼まれたことがありました。
私に頼んだほうじゃない会が大事だったみたいで。
その人は男前キャラなんです。その人目当てに前列に並んでいた女性客に、高座の間ずっとなんでこいつなんだという目を向けられました。
なんで昇吉さんじゃないのって。

Wブッキングの犯人をさらっと、「ついぽろっと言っちゃった」というように晒す悪意がたまらない。
兄弟子の花いち師も、二ツ目時代に春風亭昇吉に新作の会を持ち掛けられ、その後ハシゴを外されたことを東京かわら版のインタビューでさらっと語っていたなと。
花緑一門では昇吉は「そういうやつ」なんだろうきっと。よく思っていないことはよく伝わった。
私の想像を書いたものであり、花飛さんが露骨にそう言っていたわけではないので、念のため。

泥棒の小噺二発。
仁王と、「鯉が高い」。
本編は、想像通り季節の泥棒噺、夏泥だ。芸術協会では置き泥。

夏泥か。季節ものにしては結構聴き飽きている感がある。
落語の演目も、繰り返しに耐えられるものと弱いものとがある。夏泥は後者だと思う。
他のお客にどうかではなく、個人的に今日はもう、そういう日かなと。
しかし、斬新で見事な夏泥でありました。斬新といっても、実にさりげなく。
ちなみに休演の吉緑さんの得意ネタでもあるはず。だから出してきたのかなと思う。

いつものように低いトーンで語る花飛さん。
留守の長屋に忍び込むのに時間は掛けない。
泥棒が暗闇の中、住人にぶつかって在宅を知るのである。

しばらくはトーンを落としたままの会話が続く。この人の場合、基本最後までそうだけど。
二尺八寸だんびらものを忘れてきて、住人である大工に見抜かれる泥棒。このやり取りも、ひそやか。
しかし泥棒は匕首は持ってきている。
それを知ると、大工は突然気合の入った声で「さあ殺せ」。
泥棒だけでなく、落語の客もオヤと思う。

これ一発で、つかみどころのない大工が、一瞬で泥棒の上に立つ。
といっても、演者がそういう単純な構図を客に見せているわけではない。
なにしろ花飛さんの場合全体のトーンが低いので、「大工に脅された泥棒が巻き上げられる」なんてわかりやすい構図には映らない。
でも、ここが転換の重大ポイントであることは間違いない。

ずいぶん説明を刈り込んでいる、軽快な夏泥。一般的なものと比べて、こう。

  • 畳を引っぺがした穴ぼこにつまづいたりしない
  • 蚊いぶしのために畳を燃やしたりしていない
  • 大工は起こされるまで本当に寝ている
  • 大工がなぜからっけつなのか、理由は明らかにされない
  • 「おかず代」まで泥棒から巻き上げたりしない
  • 泥棒が財布(手ぬぐい)の端をつまんで有り金を吐き出すが、自分で「(札を)つまんでねえぞ」と語っている
  • 交番の前を通るなとか、俺は今日捕まる気がしねえよとかいうセリフもない

実にもってシンプル。シンプルなのだが、物足りなさはまるでない。
実に深いのだが、それは解釈を押し付ける落語でないから。
一般的には大工、泥棒の心理状態を読み取り、まだ引き出せるはずだと金を突っ返すものだろう。
泥棒のほうは、せっかく出した以上、自分の意思が無意味になることを避けたくて、つい有り金はたいてしまう。
でも花飛さんの描く大工、もしかしたら本当に、「どうせ全部は払えないんだから、どうにもならない」と思っているのかもしれない。
たぶん本当はそうじゃないけど、噺に寄り過ぎないことで、多様な解釈が可能なのだ。

刈り込む一方、足したものもある。

  • 大工の棟梁も訪ねてきて、大工に仕事を頼んでいるらしい
  • 大家も大工を訪ねてきて、店賃はいつでもいいよと言ってくれているらしい

大工は言う。大家は仏のような人なのに、本当に申しわけない。だからこそ大家の家の前を通れないと。
泥棒の有り金をもらっても、5か月ためた店賃の2か月分しか払えない。もう金が出てこないことを知っていながら、まだこのことを嘆く大工。
しかし最後に、「2か月分だけ入れて、あとは待ってくれと言えばいいか」と明るい顔に戻るのである。
こいつ、本物なのかしら。

というわけで、トリの一席のおかげで、なんとか今日の記事も書けました。もう夕方ですけどね。
ニュースでもないと、明日はまたネタ切れかなあ。ビデオコレクションからなにか引っ張ろうか。

作成者: でっち定吉

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