くろい足袋の会2(中・柳家花いち「ママチャリきょうこ」)

おさん師は、人間の幸福と不幸はバランスが取れていて、だいたい不幸のほうが多いと哲学的な話をする。
両腕を広げて天秤を表す。花いちさんがそのしぐさの真似をする。
なんだか広がりそうな話だが、別にそうでもない。

花いち師は、最近感動することが少なくなってしまいました。どうしましょうと。
「ショーシャンクの空に」を見たが、本来出てくるはずの感動がなかったんだと。

おさん師、昨日久々に夢を見たんだよと。見てるんだろうけど、普段は覚えてないんだよ。
いつものように自転車で帰ってきたら、家の前にゴミ出しのコーナーができていて、近所の人によろしくと言われた。
夢の中で、「俺も役に立つんだ」と嬉しかったおさん師。
プラスチックの緑のカゴが新品なので綺麗で、それも嬉しくなる。
ゴミ出しがおさん師の担当。そしてゴミを出す時間、やたらと早い。それが気になって久々の夢を見せたらしい。

花いち師は、おさん師のトークの変な間に、全然ついていけますとのこと。平気で待てます。
このあとの順番をどうするかでジャンケンをして、おさん師が勝ったのに、なぜかもう1回やろうと。
「勝ったほうがトリね」と決めて、再度のジャンケンでおさん師の勝利。別に嬉しそうなわけでもなく。

こんな話で20分、よく持ったもんだな。本当に面白かったけど。
ろくな内容でもないのに面白いのはなぜか。
二人とも、「計算しない天然の面白さ」が客に伝わったときの効果測定が、さすがプロのもの。
客のツボをどうやって押すかは計算しないが、ツボの反応の有無についてはよく見ている。
ツボに刺さらない場合は、別のどうでもいい話を持ち出してくる。

客がもういいぜ、と思いかけると、次のネタが追加されるのである。ウケないネタは、脈絡のなさで許されてしまう。
このふたりならではと思う。途中で帰っていった緑也師は、もうちょっと計算されたトークをする人だ。

というわけで、ふたりの出番がいきなり決まる。
まずは花いち師から。座布団を下げてしまったので、座布団抱えて登場。
ずっと気になっている人だが、春の池袋新作まつり以来だ。あの高座(土産話)は、わんわん沸いていた。

師匠花緑が謝楽祭の実行委員長になったため、弟子は全員手伝った。
花いち、緑也は当日会場でサイン会。一流の噺家が長蛇の列なのを尻目に、ふたりの列はすぐ途切れる。
配信用に、楽しいビデオがたくさん取れたのでぜひ見てくださいとのこと。
おさん師が、落語に関係のある坂をひたすら駆け上がってゼエゼエ言う全力坂などぜひ。

師匠・花緑にあまり新作を聴いてもらう機会はありません。ふたりきりでやってもダレると言われて。
今日は披露目で出したとっておきのネタを。
志ん雀アニさんが袖で爆笑してくれたんですが、師匠は一度も笑わなかったそうです。

今日は新作か。
ユニークな花いち師に、新作と古典どちらを期待しているのか、私自身よくわからないでいる。
ただ、寄席では当面新作しばりだろう。こういう会では古典も出すはず。

朝、母親が大変大変と起き出す。子供の遠足なのに、寝坊しちゃった。
坊やはどうしても遠足に行きたい。
そうだ、こんなときにはきょうこさんに頼もう。
きょうこさんがさっそくママチャリにまたがってやってくる。

ああ、一度聴きたかった「ママチャリきょうこ」だ。嬉しいね。
以前聴いたトークで緑君(現・緑也)さんが、ママチャリきょうこの所作だけ真似していたのを思い出す。
その際、師匠は花いちの新作大好きだよと言ってた。そこは自虐の王様、花いち師。

子供10人を育て上げたきょうこさんは、ママチャリで日々爆走する人。この太ももを見よ。
遠足のバスに追い付こうというのだ。

東京の新作落語は、「飛躍」でできているというのが私の観察。
どこかに現実のルールを裏切る展開が欲しいのだ。それをしないと、たとえ現代風俗を取り入れたとて、劣化古典落語になりかねない。
ママチャリきょうこもそんな飛躍に満ちた作品。
ママチャリに、寝坊の幼稚園児を乗せたきょうこさん、街道を、商店街を爆走する。
前がふさがっても、壁を走る。
座布団の上に転がって、90度傾いた自転車をこいで見せる花いち師。

さらには、川を飛び越えるためビルの屋上に登る。反対俥か。
ガタガタガタという、階段上る所作が最高。
屋上から勢いよくジャンプし、扇子の傘でふんわり着地。大喜びする坊や。
幼稚園のバスを見つけ、坊やを投げて先生にキャッチしてもらう。
これでサゲてもよさそうだが、ライバルが出現し、話はまだ続く。

バカ落語であり、しかしながら東京新作の秩序に乗っかった不思議な噺だ。
古今亭駒治師の新作によく似ている。

花いち師は創作は突出しているし、古典を含めた落語の進行も実にユニーク。
しかし、非常に押し出しのない人。ママチャリきょうこも、その行動の不思議さを、常識人の目から突っ込むやり方でもよさそうだが、師は「そういうもの」として語りきる。
決して自信がなさそうな人でもないのだけど、客はどうあれ高座の上でとにかく一席語りきろうという決意を感じる。
その緩い空気が客席と一体化してくると大成功。今日はそんな感じ。
池袋下席のトリもぜひ取ってほしいところだが。鈴本のイメージじゃないので。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。

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