くろい足袋の会2(下・台所おさん「らくだ」)

仲入り休憩後はおさん師の長講。
花いちさん、ひとつ言い忘れたことがあるそうです、とおさん師。
先ほどの高座が、30代最後だったんです。明日40の誕生日ですね。
ほうと客。高座の上にいるのは本人ではなく、拍手はしない。
頼りない40代だこと。別に悪い意味でもないが。
高座の上にいるのは、師匠より年上の50代。

今日は3人黒紋付ですが、たまたまです。
なんにも打ち合わせをしていなかったのでこんな会になりました。また来年はきちんとやっていきます。
来年は会の名称を「白い足袋の会」に戻そうと思っています。
会の名前のいわれと、変わったいわれは私は知らないのだが。

動物としてのラクダの説明はせずに、らくだの馬さんという鼻つまみがいまして、といきなり「らくだ」に入る。
もちろんトリだからこの大ネタを出すのだ。
先ほどのトークの最後、ジャンケンで順番決めようとして、勝っているのにもう1回謎のジャンケン。
おさん師なりの逡巡があったのだろう。2度目のジャンケンでは、「勝ったほうがトリ」と決めたので、もう逃げられない。

らくだという演目は、私にとっては常に、噺に漂う暴力が気になる。
暴力は嫌い。
もっとも、最近らくだを聴く限り、暴力要素の強いものはない。演者も気を付けているのだと思う。
現代では、暴力性を笑うのが難しい。ではらくだは滅びていくかというと、そうも思えない。
おさん師のらくだについていうと、もう暴力性は極めて薄い。
むしろ、そんなモードで持ってこの大ネタをどうやってやるのかが気になる。そもそも、なぜやろうと思ったのか。

ちなみに花いちさんも頼りない人だが、「肝の据わった親方」の描写が必要な「へっつい幽霊」を見事に演じていたのを思い出す。
暴力性も記号にしてしまえば、描けるのである。
もっとも幽霊をこれ以上なく弱々しく描けば親方が間接的に描写されるへっつい幽霊と異なり、らくだのくず屋をあまり弱く書くと、逆襲前に多くのお客が脱落してしまうだろう。より難易度は高い。

おさん師のらくだは、冒頭からなんだか違う。
らくだの兄貴(名前は不明)がらくだの家にやってきて、おいらくだ、と声を掛けても反応しないので、体をゆすぶっている。
ようやく納得する兄貴。こんなの初めて見た。
おさんリアリティ。

そしてうっかり声を上げてしまうくず屋が捕まり、招き入れられるが、当初らくだが引っ越して、後から入居したのがこの兄貴だと思っている。
これもおさんリアリティか。
いつもの家に知らない人がいたら、そう思うかもしれない。

月番の家に出向いた後、大家の家には都合三度行くパターン。裏へ回れはない。
最初は葬儀の支度を頼んで拒否され、次に死人のかんかんのうを脅しにもう一度行かされる。
こういうパターンも聴いたことはあるのだが、かんかんのうで脅せと最初から命じられているのに、二度行くのは手間だ。
演者がうっかりしたと考えたほうが理解が早い。ちゃんと辻褄合っているものをとやかく言わないけど。

途中、口が回らないシーンがあったが「なに言ってんだかわかんねえや」とくず屋に言わせて大爆笑。
夢見が悪かったと、トークで語っていた自分の夢を入れ込んでこれも大ウケ。まさか仕込んでおいたわけじゃなかろう。

情けないくず屋がらくだの死骸を背負わされるシーンはいよいよキツいのだが、なんだかくず屋、飄々としているので著しくかわいそうでもない。
このあたりの描写は難しそうだなあと。
くず屋、このあたりからちょっと楽しくもなるというのがよくあるパターンだが、それほどでもない。大家をビビらせたことより、情けなさが強いのがおさんリアリティなのだと思う。
この後八百屋に行かされる際に、商売道具を持っていこうとしている描写が爆笑。兄貴に見つかって、「場所を変えようとしただけです」と言い訳している。
だから八百屋で菜漬けの樽を巻き上げる際に、ちょっと調子に乗っているということもない。

一番驚いたのが、酔っぱらったくず屋、そんなに逆襲しない。
いや、ちゃんと意思表示はするようになるのだけど、怖い兄貴の上になってしまわないのだ。
ここがらくだのハイライトだと思う人も多いだろう。
でも、おさんリアリティからすると、そんな馬鹿ななんだろう。それでも兄貴と対等にはなる。

生前のらくだに痛めつけられたエピソードは、「絵を買え」というものだけだった。
どうしても前金で買えと言われ、やむなく金を出してから絵を見せてもらうと、らくだがもろ肌脱いで、背中の絵を買えと。
考えたなあ。おさんオリジナルだろうか?
そういえば、大家の被害も店賃だけだ。

この後、落合の火屋に運ぶ後半まで演じる。
意外と断絶なくスムーズ。後半はそれほど見どころはないのだが、前半をうまく乗り切ったので、ふわふわしてる噺がとても心地いい。
間違えて願人坊主を焼こうとして生き返るサゲ。

既存の古典落語に疑問のあるらしいおさん師の演出だが、でもあまり挑戦的に映らないのが面白い。
あくまでも、気弱な私が乱暴者を描くとするならこうですよという、さりげなさに満ちていた。
やはりおさん師は面白いし、この一門も面白い。

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作成者: でっち定吉

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