鈴本演芸場8 その2(古今亭駒治「We are イディオッツ!」)

円楽死去による流入が多いのだが、たぶん追悼記事は書かないと思います。
あの師匠について書きたいことは残らず書いた。
平常運転で鈴本の模様を。
昨日の批判記事は、すごい反響でした。
円楽流入と併せ、過去最高のアクセス855を記録した。
今日からは落語協会の師匠がたを誉めちぎっていきますが、引き続きよろしくどうぞ。

料金に入っていない前座の高座がいいと、その日はとても得した気がする。
といって外れても、普通は気にはしない。ただ、二ツ目も一緒に外れるとダメージだなあ。
扇子を5本ぐらい用意しているギャグも、ただの悪ふざけに思える。
先日三遊亭ぐんまさんが扇子を2本使っていたのには爆笑したのに。
もちろん、「遥かなるたぬきうどん」(円丈作)で、師匠・彦いちが2本使うのだって。

仙志郎、仙成の太神楽を久しぶりに寝ずに観て(ごめんなさいね)、鉄道唱歌の出囃子で古今亭駒治師。
大好きなこの人、実に1年振りである。真打昇進年は、1年でいちばんよく聴いたのがこの人だったのに。
飽きたりしてはいない。ただ、毎月4日のスタジオフォー四の日寄席にしばらく行っていないということである。
先日、横浜でやっていた野球落語の会は直前まで検討したのだけど。
嫌な感じになってきたこの日の流れを、見事に変えてくれた。やはり駒治師の創作力はすばらしいし、そして何より落語がとにかく上手い。
本当によくウケていた。
鈴本でもトリ取って欲しいものだ。

師匠・志ん駒の思い出話。天然の師匠から、3メートルの高さにある枝を切ってくれと言われた話。
チアリーダーというのはすごいですねと振って、初めて聴く「We are イディオッツ!」。
城北大学チアリーディング部のスポ根ストーリー。
城北大学は体育会の不祥事が続き、ついにチアリーディング部も閉部の危機。
ライバルは、OK大学チアリーディング部。卑怯なOK大学は、城北大学を潰すため、スパイまで送り込んでいる。
もう、駒治師のお得意の設定で、嬉しくなってしまう。

駒治師の創作は、最初からリミットを外す部分を用意しているのが上手いのだ。
日常から飛んだ設定を用意しておいて、聴いているお客に整合性を取らせるという、極めて高度な技を常時使っている。
OK大学から送り込まれたスパイは、城北大学の先輩に感動し、ついにOK大学を裏切る。
だがOK大学の卑劣なバナナの皮攻撃により、ケガをしてしまう。人数に余分のない城北大学は大ピンチ。

そして本筋と関係ないギャグも見事だ。廃部になったアメフト部が大麻を栽培していたとか。
設定はふざけているのだが、その中で登場人物が大真面目に行動するというのも、ウケの秘訣か。
たまに軽くツッコんでくれるけど。
おかげで客は、大笑いしつつストーリーもしっかり追うという、マルチタスクを実行できるのである。
idiotは「愚か者」。

やま彦さんが、妙に強い圧で語りかけてくるのにも辟易したのだが、駒治師は喋りの圧が強くても、変なプレッシャーは与えない。
常に客に対し、「これは冗談なんですよ」というサインを送っているからだろう。終始気持ちが楽なのだ。

続いては柳家三三師。
私はこの人とはずっと巡り合わせが悪いのだが、前月に池袋のトリを聴いたばかりだ。これから遭遇機会が増えていきそう。

寄席はいいですよね。お客さんがちゃんと聴いていないところが。それでいいんですよ。
伝統ある、保守本流の鈴本で、チアリーダーの噺とはねと。
そしてまた、これがウケるんですよね、今日のお客さんには。
トリの小ゑん師も、70歳とは思えません。気持ちが若いです。
あのお年で「ラッキーポッキーケンタッキー」ですからね。これはぐつぐつのワンシーン。

5年越しで3回連続「元犬」を聴いたのだが、今日はようやく別の噺。
寄席の定番「浮世床」だが、将棋。浮世床はだいたい本(太閤記)と夢。将棋だけたっぷりはかなり珍しいと思う。
床屋の親方に騙されて、みんな奥の座敷で暇を潰している冒頭部分が長い。こんなにエピソードって多かったっけ。
そしてヘボ将棋。
いたずらで、雁首だけのキセル、吸い口だけのキセルをこしらえて、夢中で対局している二人を騙す。
珍しいどころか、初めて聴いたくだり。

こういう、落語会でネタ出しするような種類のものでない珍品を聴くと、とても嬉しくなる。
珍品なのだが、寄席ならではの珍品だ。
といって珍しいだけではなく。

のだゆきさんはとんがり帽子で森の妖精みたい。
同じことやってるのに、毎回面白い。数年前は決してそうじゃなかったのだ。
寄席の色物として、円熟のときを迎えつつある。もうじきヒザも務めると思う。
ちゃんと音楽も聴かせているところが偉い。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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