鈴本演芸場8 その3(春風亭一之輔「粗忽長屋」)

アクセス新記録は昨日さらに更新され、902。
円楽流入はわかるけど、最新の鈴本の記事も多いです。
昨日は批判記事じゃないのに。
ありがとうございます。

落語協会の精鋭(ごく一部ポンコツ)を集めて作る鈴本の番組、まだまだいい高座が続く。
続いて春風亭百栄師。
いつものお約束、世界一汚いモモエマクラは今日は短め。
本編は寿司屋水滸伝。
久々に聴いたのだが、噺の細部までブラッシュアップされていて驚いた。
洋食あがりの主人が職人に辞められてしまい、仕方なく慣れない寿司を握っている。
客を怒らせてしまったところ「板場で揉めてるね」と「トロ切りの政」「イカ切りの鉄」「ウニ盛りのヤス」と次々専門職人がやってくるバカ落語。
トロ切りの政は、カウンターで飲んでいるのではなく、へっつい幽霊のごとく店の後ろをたまたま通りがかった設定に変わっていた。なるほど、客のいない店なんだから、このほうが自然。

最後に「柳家喬太郎作・寿司屋水滸伝の一席でした」と頭を下げる百栄師。
喬太郎師にもらった噺であり、落語界の作法として、あげた喬太郎師は自分ではもうほとんどやらないんじゃないかな。たまにはやってるのかな。
ともかく、喬太郎師の噺をさらにスムーズに改良を続ける姿勢は見事です。
当然ながらいっぽうで、刈り込む部分も多数。

その次が春風亭一之輔師。
百栄師を軽くいじり、学校寄席で「粗忽」を知ってるか訊くと、手を挙げた子供が首の下を指すマクラ。
「それは鎖骨」というツッコミが入らないところが気持ちいい。

金曜日なので、私は出かける直前までこの人のラジオを聴いてました。
この日も有楽町でラジオの後、鈴本と浅草(クイツキ)と忙しいことである。
さらに夜は中野で「ソコツ」という名称の、宮治師との二人会。そちらの会でネタ出ししていた「粗忽長屋」を、鈴本でさらっていったのだった。
寄席でやるんなら、仲入りのほうが向いてそう。この出番には大きすぎる気もしたが、おさらいに付き合った客は非常にラッキーかもしれない。
浅草でなにを出したかは知らないが、もしかすると夜の会で出した「天狗裁き」やったかも。

新作メインの席ではあるが、この粗忽長屋はこの日のベストでした。
それどころでは済まない。私が今まで聴いてきた古今東西の粗忽長屋のベストである(東西と言いつつ西にはない噺だけど)。
いやほんと。
中野の会に参加した人と、時空を超えて同意しあえそうな気がする。
古典とか新作とか、そんな峻別はどうでもいい。ハイパー粗忽長屋。

「死んだのだが死んだ際にはなかなか死んだ心持ちがわからなかった(生きている)八っつぁんのお爺さん」を登場させたり、無責任に八っつぁんを後押しする野次馬を出したり、それはそれはみなぎる創作力の発露。
改作までは行かない。クスグリのニューウェーブ。
ただ、最も感心したのはそこではなくて、古典落語の技法のほうであった。
つまり、「登場人物の了見になれ」という、誰にでも使えるはずの技法。実際にここまで使いこなせる人はなかなかいない。
この八っつぁん、とにかく大マジなのである。
いや、もともとそういうストーリーではあるのだけど、八っつぁんの了見からこの噺を眺める粗忽長屋なんて、世にそうそうない。
一之輔師の八っつぁんは粗忽というよりもとにかく主観が強い。他人がどう反応しようが、主観を押し通す。
意地で押し通すのではない。生まれ持った粗忽人間の性根のまま、ナチュラルに押し通す。
そんな人間はこの世にいない。この高座の上にいるひとりだけ。
八っつぁんが「死んだ当人を連れてくる」と無理を通すので、ついに無理が通る。常識に満ちた町役人ではもう、太刀打ちできない。
というか、町役人も太刀打ちする気力を失っており、ちょっと楽しんでもいる。そうならざるを得ない。
さらに言うなら、我々客も、この人なら連れてくるなと思ってしまうのだ。

粗忽長屋という噺、粗忽の噺の中でも筆頭の難しさだという。
客の気持ちがそれてしまうと、もうダメ。そしてこの噺、結構な確率でそれるのである。
だが一之輔師は、噺の難易度の上を行っている。客を巻き込んでしまうのだ。

行き倒れが出たのはひとつのイベントではあるが、八っつぁんにとっては特別でなく、粗忽な男の日常のスケッチに見える。
別に変ったことはしていないのだ。弟分の熊の野郎が死んだにしても、八っつぁんには日常。
そのスケッチを強引に描き切る剛腕・一之輔。

一之輔師はまあまあ聴いてるけど、トリの芝居には一切行っていない。
自分でもたまになぜだろうと思うのだけど、番組の真ん中にさりげなく出てきて沸かせ帰っていく、この人の仕事がたまらなく好きみたい。

続きます。
 
 

作成者: でっち定吉

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2件のコメント

  1. 定吉さまこんにちは。
    9月30日の中野ZEROに、一之輔師匠と宮治師匠のソコツ二人会を聞きに行ったのですが、昼間の鈴本で一之輔師匠は粗忽長屋をやってたのですね。

    中野の方では、開口一番の後の天狗裁きが非常に嵌ったのですが、粗忽長屋の方は天狗裁きやその日宮治師匠がかけた粗忽の釘や時そばの要素をふんだんに取り込んで、最後は聞いてる私は一体誰だろうと思うような、譬えるなら(?)筒井康隆の小説みたいなぶっ飛んだ感じになっていて、非常に満足できる内容でした。

    一之輔師匠と宮治師匠の二人会は、今年3月以来2度目でしたが、どうも宮治師匠がいると一之輔師匠はいつも以上にアドレナリンが出てるんじゃないかと感じました。良い意味での相乗効果というか相性というか、そういうものを感じられる落語会は本当に楽しいですね!

    1. いらっしゃいませ。
      本文に書いた通り、きっと二人会に行かれた方と共鳴できると思ってました。

      私もいろいろ調べたのですが、一之輔師、粗忽長屋はそれほどやってきてないみたいですね。
      師をもってしても難しかったのでしょうか。
      しかし豪腕振りに脱帽です。

      天狗裁きも難しいと思います。今、誰がやってもウケる噺じゃないですよね。
      同じ展開を繰り返してウケるところはやはり豪腕ですよね。

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