鈴本演芸場8 その5(林家彦いち「熱血!怪談部」)

1日飛ばしました。
9月30日の鈴本演芸場のもよう、続いております。

仲入り休憩後幕が上がると、メクリに結ばれた赤いロープが上手の袖まで伸びている。
ダーク広和先生がゆっくり登場し、ロープを迂回して正面に回る。そしてロープを腰に、背中側からあてがい、ゆっくりと腹から出してみせる。
派手なマジックのあとは、いつものようにカードの扱い方を見せつける。
子供が客席にいるので、そちらを重点的に。
メガネを外して、自分の顔でトランプを取るマジックをし、失敗して大ウケ。「練習してくればよかったな」。
失敗がわざとなのか本気なのか、なんでもいいが実に楽しい。

後半の落語は、林家彦いち師から。
彦いち師は目当てにしている噺家だ。この日出てきた弟子はいただけないが。
あんな弟子でも、市馬会長にも可愛がられているようだが、でもこのままじゃ小三太二世が関の山。
2番弟子、女性のきよ彦さんは天才肌だが。
ポンコツやま彦は残しているのに、3番弟子のひこうきさんは破門してしまう不思議。現在、鶴光門下で芸協入りし、「ちづ光」(ちづこ)。

ダーク広和先生について。マジックで失敗する人見たのは初めてです。
今にアサダ二世みたいになるんでしょうね。客、大ウケ。
どうつないだか忘れたが、本編は「熱血!怪談部」。涼しくなってきたが、9月ならまだまだシーズンか。
久々に聴くと、百栄師の「寿司屋水滸伝」同様、パワーアップしているのであった。もう、古典に近い、流れるような魅惑の一席。
主人公が流石(ながれいし)先生だから、流れる石のようなというべきか。

この日が怪談部の顧問になって初日の流石先生。典型的文化系の部員が引くのもものともせず、体育会系でビシビシ指導する。
怖い話をしてみる学生。「ある国の話なんですが、政治と宗教とが絡み合って大変なことに。怖い話」。
怖い話とはそんなんじゃないと不機嫌な先生。

ちなみに、噺に漂うパワハラ気配は皆無で、これは結構すごいこと。

ビックリのサゲまで一直線に進む、本当によくできた噺である。教わってやりたがる若手もいると思うのだが、他の人がやるのは聴いたことがない。

この噺のテーマは、「話の通じない人」「怖さの感覚が違っている人」とのディスコミュニケーションだ。
流石先生は、のっぺらぼうを見ても、「顔がなーい」と叱る人なのだ。
ディスコミュニケーションの噺として、この日の「粗忽長屋」や「鮑のし」と同じ性質を持っている。
新作落語が苦手なファンというものは、要は古典と共通する落語のエッセンスを見極められていないのだ。そんなことでは、古典だっていずれ飽きると思うよ。

ヒザは柳家権太楼師。
ワクチンのマクラはやたらと面白かった。配信で一度聴いたようには思うが。
師は浅草演芸ホールから帰宅する際は、一度上野駅に出る。歩きならば、これは先日聴いた鯉昇師と同じだなと思った。
山手線で巣鴨まで行き、都営三田線に乗り換える。その巣鴨で小腹が空いたので、寿司をつまむことにする。
「巣鴨にお寿司屋さんというと、寿司ざんまいしかないんです」。
そんなことないと思うけど。

コロナ禍の最中、寿司ざんまいに腰を落ち着けると、年配の爺さんが一人で一杯やっている。
そこに顔なじみらしい、地元の婆さんがやってきて、爺さんの隣に腰を下ろす。
婆さんが言う。「あんたホルモン打った?」。
爺さんは耳が遠いので、「焼き肉なんて食ってねえよ」。
巣鴨のババアにワクチンは要りません。こてっちゃんでいいと権太楼師。

本編はおなじみ代書だったので、つい寝てしまった。

本日も絶好調、ロケット団は、ヒザを堂々務めている。
ヒザは難しいのだ。超ベテランのにゃん子金魚先生にだって務まらないポジションなんだから。
ロケット団、爆笑なのにもかかわらず非常にネタが穏やかなのだ。だからトリの邪魔をしない。

ボケの三浦さんが、故郷・山形に行ってコロナに発症してしまった話。これは初めて聴く。
ホテルで10日間療養したのだが、なぜか手錠を掛けられて連行され、一切の自由を奪われて閉じ込められる。
ツッコミ、倉本さんの腕もこのところ格段に上がっており、ウソ話を本気で否定しない。役割としては一応否定するのだけど、実はちゃんと打ち消さない。
「なんで手錠掛けられてるんだよ」とは言うのだけど、直接的に刑務所とか拘置所とかのワードは、ギリギリでしか言い出さない。
つまり、緩いボケの緩い共犯だ。
宮田陽・昇にちょっと似てきた? いい意味で。
時間が押してたのか、ずいぶん早く、「じゃあ、おしまい」と去っていったが、満足感は非常に高い。

トリの小ゑん師匠に続きます

 

 

作成者: でっち定吉

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