昨日土曜日は私の大好きなキングオブコントでした。
こちらの記事を出してもいいのだけど、落語ブログなんで落語ネタを優先で。
「うちの師匠はしっぽがない」のTVアニメ、本日午後11時からBS朝日で第2回。
何の予備知識もなく第1回を観て、ハマってしまった。
落語が取り持つ縁である。
落語という芸能の捉え方が見事なアニメだった。
落語とはつまりなんなのか。人によって違っていいものだが、「落語とは人を化かすものである」「人は落語により化かされたがっている」という解釈にいたく惹かれた次第。
作者は別に落語に詳しい人ではないそうだ。だが、その目に映った落語の魅力は、間違いなく本物。
人を化かしたい狸が、落語という手段で人を化かす決意をするのである。
「うちの師匠はしっぽがない」っていいタイトルですね。三・四・五でいいリズム。
そういえば「昭和元禄落語心中」も三・四・三・四のいいリズム。タイトル大事。
アニメが気に入ったので、最近ハマっているLINEマンガで2巻までさっそく読んでみた。
2巻までなのは、ここまでタダだったから。
私があかにし屋なのはさておき。
アニメはマンガ原作に極めて忠実であることがわかった。しかしながら世界をさらに深掘りすることに成功している。
噺家が語る落語の世界を絵で表現するというのは古くから存在する。実写だが「タイガー&ドラゴン」とか。
第1回で取り上げられた「遊山船」の世界も非常に説得力があるものだった。難波橋を下から見上げるという、立体感あふれる絵も見事。
落語内の登場人物ははっきり描かずに、顔をぼやかしているセンスも素晴らしい。背景も同様に。おはなしの世界が浮かび上がってくる。
「うちの師匠はしっぽがない」の設定は実に斬新。
大正時代の大阪である。だから扱っているのは上方落語。
通天閣の周りをロープウェイが走る時代。
街中には市電が。こんなのもグッと来る。
主人公は淡路島から出てきたメス狸、まめだの化けた少女である。
文明が発達してきて人が狸に馬鹿されにくくなってきた、そんな時代背景。
大阪にやって来た主人公が、そこで落語に出逢う。
主人公が弟子入りするのは、ミステリアスで色気に満ちた女の師匠。そして、師匠もまた人間ではなく、恐らくは化け狐。
大正時代の落語界に女流落語がいたなんて記録はもちろんない。
だが現実に即しつつ、ちょっと違う物語の大阪では、師匠はごく普通に落語好きからやんやの喝采を浴びているのだった。
お茶子もいる一方ごく普通に女の前座もいて、そして新たに入門する人間に化けた狸も女。
そして、それについての説明は一切なされない。落語の知識がないマンガ好きは、女師匠を当然のように受け入れて読み進めるであろう。
つくづく上手い設定だよなあ。
ジブリっぽさを感じる部分もある。平成狸合戦ぽんぽこだけのことではなくて。
現実と設定を若干ズラすことにより、もはや劇中でのタブーは消滅し、まったく自由になる。読者からも違和感が消え失せ、劇中の設定につき、自ら整合性を取るようになるのだ。
設定が視聴者の没入を邪魔しなくなり、この状況で落語の本質が浮かび上がってくる。
「化かすのが落語」というのはあくまでも製作者の捉えた本質だ。もちろんそれだけではないが、化かしというテーマには全面的に同意する。
設定が緩いため、ユーモアを漂わせやすいのもメリット。ギャグでなくて。
落語に漂うものと同種のユーモアが、マンガやアニメにもちゃんと流れ込んでいる。
通天閣のてっぺんから狸が飛び降りて逃げる。大丈夫、たぬきだから八畳敷を使って滑空するから。
あ、あたしメスだった。
マンガの作り方自体、新作落語によく似ている。上方落語より、東京の新作において普遍的な方法。
設定を最初からバーンと一段突き抜けておく。そしてその世界を、ときにふざけつつも、きちんと描いていく手法。
私はこのことを「飛躍」と呼んでいるのだ。
新作だけではない。落語に出てくる狸だってまた、飛躍を背負った存在。なにしろ札に化けたり、サイコロに化けたり。
そして飛躍があったほうが、ものの本質に迫れるのだ。
世界の構築に成功すると、あとはとっぴな設定を加えても、勝手に整合性が取れていく。
登場人物のひとり、前座の女流落語家は東京のヤクザの娘で、若頭が連れ戻しにくる。
こんな展開、まるで違和感なし。
魅惑的な世界に、現実のリアリティをもって迫ると、実はずっこけてしまう。そんなことだって多々ある。
自由な設定の中で、女師匠が古典落語を演じている。落語のほうは現実に存在する噺ばかりで、ちゃんとフックが掛かっている。
さらに、愛すべき師弟関係も浮かび上がる。
唯一残念なのは、劇中で落語の「練習」って言ってること。
アニメでは稽古になってるといいのだが。
今流行っている落語マンガより、私はこちらのほうがずっと好きですよ。
今日の記事、入れる書庫が見つからなかったので新たにひとつカテゴリを作ってしまいました。
カテゴリを作った以上、また取り上げるはずです。