続いて真打間近と思われるこはるさん。
二ツ目でも有名人だが、高座に遭遇するのは私は初めて。
神田連雀亭に出ない人は、本当に機会がないものだ。しかもあまり出向かない立川流だし。
2019年のNHK新人大賞の記事では「上手い」と褒めてるけど。
聴いて驚いた。
いきなりでかい声にビビる。
そして上手いのはもう大前提として、そのマシンガン話術。
一発でファンになっちゃった。
ブレスが非常に少なく、スラスラスラーっと言葉が連なっていくその快感。堀井憲一郎氏が高く評価してそうなスキル。
喋っている内容そのものより、言葉の上げ下げで人を高揚させる。
落語はまさに音楽だ。だからたまに音痴もいるのだ。
桂二葉さんのNHK受賞を機に、盛り上がりの止まらない女流落語界であるが、その前にこんな凄い人がいた!
知らなかったのかって? すみません。
かけ橋さんとは、末広亭に出してもらったとき、久しぶりに会いましたとこはるさん。
思い出してみますと、まだ彼が別の師匠の下にいた際に、前座だった彼に「頑張ってね」と声を掛けて以来です。
久々に会ったら、ずいぶん大きく見えました。あたしが小さいだけかもしれません。
落語ユニット「昭和57年会」の北海道遠征の話を15分やっていた。マクラから、マシンガントーク。
マクラも稽古してるのだろう。
昭和57年会は、5団体からひとりずつ昭和57年生まれを選抜している。
1982年だから、今年で不惑を迎える人たちだ。こはるさんはそんな年には全然見えないが。
メンバーは、べ瓶、志う歌、昇也、好の助、そしてこはる。同い年といってもキャリアは様々だが、みな仲良し。
北海道を、なんと利尻島から(客、爆笑)スタートして全道回る。べ瓶師が運転してクルマで広い北海道を回るのだ。
その強行軍のもよう。そして皮肉担当の好の助師が、シャレがきつすぎ(こんなホール潰れちゃえとか)主催者を怒らせるので大変な思いをする。
内容はどうというほどのものでもないのだが、なにしろブレスを抜いて、どんどん次のセリフを前のめりで入れてくるその話術に惹かれる。
実に楽しかった。
本編に入り、ちょっとモードを変え、喋りのスタイルも変えて権助提灯へ。女性の噺家はよくやるね。
こはるさんは、権助が男の噺家より似合う。権助の了見が内在している感じ。
桃花師がぴっかり時代、NHK新人落語大賞でこの噺を出し、ぶりっ子ぶりを強調してたが、作法はまるで違う。
一般的な権助は、最後まで旦那をからかい続ける。
こはるさんの権助は、後半ちょっとメゲ気味で、これもまた面白い。
何度目かの妾宅でもって、「旦那はいいからオラだけ泊めてくんろ」。
二つだけ、修正したほうがと思ったことがある。大きな欠点ではない。
まず、本編のマクラで「本妻と妾は、仲良くやっているようだが本音はどうだかわからない」と語ってしまっていること。
いらないんじゃないか。
それから、旦那が権助に軽口を叩かれて、「うるせえ」と二度返していたこと。
乱暴な言葉遣いはこはるさんが損、なんて言いたいのではない。
妾を囲うような旦那、「うるせえ」とは言わない気がする。あえてそうしてるのだろうけど、普通に「うるさいよ」でいいのでは?
こはるさん、今後どこで聴けるかな。
昭和57年会も面白いメンバーだ。東京ではやってないみたいだが。
一席終わって仲入りと勘違いし、メクリと座布団をそのままにして立ち去ってしまい、慌てて戻る。
トリはやはり初めての雷門音助さん。
雷門一門には縁が薄く、兄弟子の小助六師も最近ようやく聴いたところ。
音助さんは芸協カデンツァ世代。入っていない理由は、芸風からなんとなくわかる。
飛行機のマクラ。「ANAの機内でスカイタイム(JALのソフトドリンク)を頼んでしまう」というもので、そんなに面白いネタでもないが、妙にウケる。
なぜウケるか。呼吸が絶妙だから。
その絶妙さを、大ネタ「宿屋の仇討」でたらふく味わいました。
こはるさんが身心高揚系の噺をしたばかり。その空気が残っていて、うっかりすると食われる。
だがモードをガラっと変えて、自分の高座を作り出すのであった。
若いのに、侍が最高に上手い。貫禄あるが、老侍ではなく、若侍としての貫禄。
若侍を立派に描くことで、二ツ目には難しそうな噺が等身大になっている。
若侍が伊八を呼ぶたびに、仲居が取り次ぐのだが、この仲居の声も色気あって最高。
そして、ズッコケ三人組と伊八との、隣の部屋に気を遣ったサイレント会話の楽しさ。
そして音助さんの語りには、企み、予定調和がまったく感じられない。
演者は当然、仇討の話がウソ(座興)であることを知っている。だが、音助さんの語りに、その結末は一切漂っていない。
だから架空の色事も、本当にスリル満点。
ズッコケ三人組と、宿屋、若侍の視点いずれも、先が見通せない。
「落語の登場人物は先を知らないんだ」なんて金言があるが、それを具現化した語り。
ちなみに、落語協会の入船亭遊京さんに似ているなと思った。
若侍は「ざ」にアクセントを置いて「座興」と発声し、受けた伊八はフラットにこれを発音する。
なんて細やかさ。
本当に見事な3席に、私自身救われた思いがしました。
ひどい噺家はいるが、落語はいい。