神田連雀亭ワンコイン寄席43(上・桂竹千代「千早ふる」唐揚げレモン編)

事件以降、落語協会に対し不快感が止まらない。
別に落語協会員個別への不快感などないし、落協の寄席だって一生行かないわけではない。だが他団体のほうが現状、心持ちが楽なのは確かだ。
毎週月曜日は、神田明神で芸協二ツ目の独演会がある。
一度行こうと思っていた会。

午後2時からだから、神田連雀亭のワンコインに寄るとちょうどいい。調べたら、トリが立川吉笑さん。
そしてトップバッターが桂竹千代さん。
掛け持ちでなくても行きたくなる顔付けだ。
落語協会員は、いない。

千早ふる竹千代
粗忽の釘萬丸
ぷるぷる吉笑

ぐずつく天気だが、連雀亭はなんとほぼ満員。
なのにひとりで来た人ばかりで、開演前の場内は静まりかえっている。こんなのも珍しい。

竹千代、萬丸のふたり、二番太鼓を懸命に叩いていて、前説を始めるのが遅い。
久々に見る萬丸さんは、別に面白いことは言わない。
いいけど。

竹千代さんはなぜだか黒紋付の袴姿。羽織は着てないから黒い着物と呼ぶべきか。
テーマパークにもいろいろありますが、忍者のテーマパークに行ったことがあります。
伊賀甲賀の、甲賀のほう。滋賀県の甲賀町にある、忍者のテーマパークの話。
このテーマパークがいかにポンコツだったかという楽しい話。秘伝の巻物をもらうためにさまざまなアトラクションに挑むのだが、看板がボロで、受付でもらった紙を埋める字が読めない。
もう潰れてるかもしれませんだって。
後でGoogle Mapで調べてみたら、別にそんなに評判悪いわけでもない。特に子供には人気みたいで、テコ入れしたのかも。
ただ、ボロはボロらしい。

甲賀は「こうが」だが、甲賀町は「こうかちょう」と読む。受付で聴いている吉笑さんが、「濁らないんだ」と驚いて調べてみたと自分の出番で言っていた。
吉笑さんは隣の京都だからね。
さすが竹千代先生ですと。

竹千代さん、最近いろいろな団体から頼まれて、落語を作ることが多いですと。
数えたら今年5本作ってました。

というフリなのに、古典落語。知ったかぶりを振って千早ふる。
実は改作だったのだが、改作に気づく前の段階、通常の千早ふるでもって十分面白い。ちょっと衝撃受けるレベルの面白さ。
改作を頼んできた相手は居酒屋チェーンかどこか? 「唐揚げに断りなく勝手にレモンを掛けることの是非」が主題である。

「(その遊びは)百人一緒だ」と言っているうちは鯉昇系統かなと思ったのだが、まったく違う。
ちなみに、歌のわけを教わる相手は隠居でなく先生。先生のくせになにもものを知らない男。
詠み人も歌も知らないが、いちいち八っつぁんが懐から紙を取り出してくるので、ようやく面目を保つ。
すぐにバレそうなのに、この先生実に堂々としている。こんなのが好き。

知ったかぶりをする隠居やアニイ、そして今回のように先生と、八っつぁんとの関係性が描かれているとちょっと楽しくなる。
だが、関係性など気にせず、ナンセンス領域に突入してしまう手もある。そうすると、余計な引っ掛かりなく楽しく聴ける。
そんな一席。

歌を「ラ」と「ル」だけで読み切る先生。これでも気づかない抜けた八っつぁん。
本物の古典落語と同様に「竜田川」から歌を紐解いていくが、たつたがわとは、「竜田揚げの皮」のこと。
出てくる登場人物が、唐揚げ好きの男と、その奥さん、奥さんの友人、男の部下。
これでなんとか千早ふるのわけを紐解いてしまう。すごい。

なんとよく知っている古典落語が、改作によりブラッシュアップされているではないか。特に、こじつける先生の了見が。
中途半端な改作は、私は嫌い。「蒟蒻問答」の改作の「サーターアンダギー問答」なんて、誰の作品とは言わないが聴けたもんじゃなかった。
だが竹千代さん、すでに古典落語の楽しさを打ち出してからの改作突入なので、まったく問題なし。二倍楽しい。

ネタバレはよしておきます。
実際は古典落語と同様、知って聴いてもまるで気にならないとは思うのだけど、わざわざ私がバラすこともあるまい。

最近、竹千代さんの真打抜擢がありそうに思っている。
あるのなら、もう内定していないと間に合わないけど。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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