神田連雀亭ワンコイン寄席43(下・立川吉笑「ぷるぷる」)

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二番手は三遊亭萬丸さん。
前座(まん坊)の頃3度ほど聴いたが、調べたら3年振りである。
当時はまん防なんて言葉もなく。

竹千代さんについてマクラで触れる。
まん坊さんも落語を作るが、坂上田村麻呂と柿本人麻呂とを高座で間違えたという。
「粗忽」がテーマなんだろう、粗忽の釘へ。

引っ越してくる前に箪笥を担いで街をさまよう八っつぁん。ここを厚めにやるのは最近では珍しい。
豆腐屋の角を曲がるんだったが、どこの豆腐屋だったっけ。一度戻って大家に尋いたら、豆腐屋でなくて雑貨屋だよと。
蜘蛛と格闘し釘を打ち込む。
前半長いためか、向かいのうちには行かず、いきなりお隣でくつろぐ。
今度昇進の小燕枝師(市弥)が、向かいのうちを省き、お隣で越したきたものだと名乗ってからくつろぎ出す一席を聴いてとても不自然に感じたのだが、萬丸さんのやり方なら違和感なし。
かみさんに「落ち着きゃ一人前」と言われて、その通り落ち着くので名乗るのを忘れるのだ。
とはいえ、普通の一席でした。本当にふつう。
聴いてて嫌な感じには一切ならないから、こんな感じでいいのでは。
釘は阿弥陀様の喉から出るタイプ。

トリは吉笑さん。
いつものうぐいす色の着物ではなく、黄色。写真ではよく見る着物だ。
座布団、自分で用意したのに色が被ってしまいました。
竹千代さんの噺を受付で聴いていた話。そして、二ツ目に新作を依頼するのはよくありますね、ギャラがあまり高くないからですね。
いろんな営業の仕事があるものですと。
イオンモールのイベントでサザエさんと共演したという。
身長2メートルぐらいあって、180の吉笑さんでも見上げる格好になる、着ぐるみのサザエさんである。
サザエさんと吉笑さん、楽屋が一緒。
サザエさんのほうが芸歴がはるかに長いので、先輩を立てて会話をする。
サザエさんが出動する際は、あたかも相手が志の輔師であるかのように、ドアを引いて敬意を示す吉笑さん。
従業員入口から一般の廊下に出たら、小さな男の子が通っていて、サザエさんを見て二度見する。サザエさんに会えて感激する男の子。

マクラと本編はつながっていない。いきなり、唇をぷるぷるさせながら喋る八っつぁん。
あ、半年前にも聴いた「ぷるぷる」。連続ぷるぷるだ。
連ぷるでも、面白いからいいや。

大工の棟梁が長屋の各住居に置いていった松ヤニを「おいしそうだったので」舐めてしまい、唇がひっついてぷるぷる喋ることしかできなくなった八っつぁん。
隠居としたら、当然この状態なんとかなりませんかという相談で来たと思っているのに、実は唇がひっついたほうはそんなに気にしていない八っつぁん。

古典落語の長屋が舞台なのに、完全な新作ワールド。
現代アイテムが出てくるわけでもなく、当時の最も粘着力の強い松ヤニだけで、ミラクルワールドを作り出す。

この後やってくる留さんは、「二重瞼になろうと」目の上に松ヤニを塗ってしまい、目が明かなくなる。
お互いをバカにし合う、バカどもの集まる楽しい長屋。

ぷるぷる喋りは落語には存在しないテクニック。
真似してみると面白い。吉笑さんほど上手くできないけど。
高座の吉笑さんも、きっと喋っていてとても楽しいのだと思う。

ぷるぷる喋りはなかなか伝わらないが、恐ろしいことにだんだんなにを喋ってるかわかるようになる。
ご隠居が八っつぁんの喋る内容を理解できるようになるだけではない。われわれ客にもわかってくる。

古典落語にはない設定ではあるが、あえて言うと「唖の釣り」に似てるのだ。ショックで唖になってしまった吉兵衛さんと、見回りの役人との間のコミュニケーションがなぜか伝わるのに似ている。
そういう意味では、古典落語の発展系なのであった。

まったくの想像なのだけど、「ぷるぷる」のアイディアの元は三遊亭円丈師の「ぺたりこん」ではなかろうか。
ぺたりこんは、あるとき机に手が張り付いてしまったダメ社員の噺。
あちらはシリアスな悲劇だが、「唇が張り付いてしまった男の噺」なら、喜劇になる。

落語というのは、こういう噺をひとりでできてしまうのだから偉い芸能だ。
そのままコントに移植できるけども、コントだと4人必要である。

NHKの落語THE MOVIEで実演したら面白そうである。

満足の神田連雀亭でした。
氏名を書かせるのはなくなっているが、まだお見送りはなし。

続いては、神田明神の落語会に向かいます。

作成者: でっち定吉

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