上野広小路亭しのばず寄席4 その3(瀧川鯉昇「二番煎じ」)

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ねづっちもまた、この日の精鋭メンバーの色物代表。
久々のつもりで聴いていたが、あとで確認したら現場で聴くのはこれが初めてだった。
浅草お茶の間寄席をはじめ、テレビでよく寄席ネタ観てるから慣れ親しんでいるのだ。

漫談はよく聴くネタが多いが、安定した面白さ。同じ話でウケてこそ寄席の色物。
妻のダメ出しや、東洋館で不規則発言を繰り返す客など。
そしてしばしば、「舞台でなぞかけを解いてみせるねづっち」「変なタイミングでお題を出されるねづっち」自身がネタの要素になっているのがうまい作り。メタ感が沸いてくる。
そんな中、聴いたことがないご当地ネタが。
以前のしのばず寄席で、前の出番の噺家が、30分の持ち時間なのに15分で下りてきてしまう。
前座さんに懇願され、やむなく地獄の30分高座を務めるねづっち。
先に、お客に楽屋の事情を説明した上で、30分は大変だというのを語ってしまい、その日の客と気持ちを共有したという。また、メタ的な構成でうまいなあ。
その舞台の最中も、15分経過後に「あと半分だね」と言い、やはりウケたそうで。
ところでしのばず寄席で、同じ噺家に2回連続で、これをやられたらしい。
2度目もおかげで地獄の30分だが、頑張った。
ねづっちの舞台が終わると、犯人は袖で待っていてくれて、ご苦労様と。
どちらの日も悪気はなくて、時間を勘違いしたらしい。
まったくのフィクションかなと思ったのだが、東京かわら版ひっくり返したら、誰のことだかわかってしまった。
悪気のない犯人は、上方の桂文鹿師である。
まあ、トリでもないのに30分高座なんて、東西問わずそうそうないものね。
上方の師匠と、2回連続で同じ順番というのも面白い。

ねづっちの謎かけは2題。
最近、「ねづっちです」は実にさりげなくやるんだな。「ねづっちのです」が流行ってしまったためかしら。
さりげないほうが、予定調和にならなくていい。

仲入りは瀧川鯉昇師。
この師匠、今年は5席目と、いつになく多く聴けてとても嬉しい。
ベテランに失礼な言い方だが、ここ数年で急速に腕を上げている。それは間違いない。
ベテランになっても上がる人は腕が上がる。この日のトリ、好楽師もそう。

例によって頭を上げてから口を開かないが、今日は座布団の位置を変えてみせる。
マイクが指し示すセンターラインに来ていないと嫌なんだって。実は几帳面な鯉昇師。

知人の夕食時に訪問し、鍋をごちそうになる話から早々本編へ。
マクラの面白い人のマクラが短いとき、その本編は常に爆発的に面白いものだ。
大ネタの二番煎じだった。いいね、これからの季節の、私の大好きな噺。
以前音源で聴いたものより数段パワーアップしている。
なにがかというと、登場人物全員が、鯉昇師っぽい。
全員が、ふわふわした演者の分身なのだ。
無理なキャラの演じ分けより、こんなスタイルのほうがこの師匠にとってはずっと似つかわしい。そして世界もふわふわしてくる。
いちばん厳しめの月番さんも分身だし、見回りの役人も分身。
ふわふわした人たちは、奉公人に対する愚痴なんて言わない。

一の組は、丸ごと鯉昇師の分身。ふわふわした月番が、ふわふわした仲間に指示を出す。
ふわふわした三河屋さんが、端唄か小唄かで、色っぽい火の用心をうなる。
ふわふわ夜回り。

月番が黒川先生を叱る(シャレで)シーン、あんまり好きじゃない。
こんなところで感情をむき出しにすることはない。馬石師なんて、ここ抜いてしまう。
だが、鯉昇師はなにせ言うほうも受けるほうも分身だから、聴いてて気持ちが楽でいい。
めちゃくちゃ個性的なのに、いっぽうでとても記号的に映る楽しい人たち。

酒のマクラは入れてなかった。私は二番煎じを酒の噺と思っていないので、嬉しい。
ただ、しし肉よりお酒のほうが色濃く描かれてはいたけど。三河屋さんは冷や酒こっそりもらってべろべろ。
宗助さんを鍋の上に座らせるが、役人に出す際にいちいち余計なことはしない。ただ、宗助さんはふんどしの汁を絞ろうとして止められている。

長屋の花見では大家の猫食っちゃう鯉昇師だが、二番煎じで赤犬は食わないんだなと変なところで感心。
赤犬は出てこない。「バン、バン」に対する「シ、シ」は火を付けろということと釈明。

これで仲入り。
もう、かなりの満足だが、まだまだ役者は続く。

続きます。

 
 

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作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。