仲入り休憩時、トイレを2階だけでなく4階も開放していた。
4階の教室、初めて行った。結局混んでるので用を足さずに戻ってきたが。
クイツキは、またも楽しみな玉川太福師匠。寄席で珍しい長講が聴けて嬉しい。
幕が開くとみね子師匠はすでに舞台上で三味線を鳴らしていて、袖から太福師登場。
講談あり、浪曲ありのしのばず寄席。
ご通家が多いとの判断か、浪曲がどんな芸かも、「テーブル掛け」の説明もしない。
私は男はつらいよの全作品の浪曲化に取り組んでいますと太福師。
そのうち、寄席でよく出している、1977年の第20作、「寅次郎頑張れ」を今日はやります。
決して明日、NHKラジオの収録があってこれを出すことになってるからじゃないんです。
私ひとりですが、登場人物全員をやります。
この寅次郎頑張れには、若いカップルが出てきます。中村雅俊と、大竹しのぶです、とそれぞれ声まねで。
もし聴いてわからなければ、その際に登場人物が自分が誰かを説明します。
中村雅俊は、たまに田中邦衛になってしまうことがあると太福師。
落語だと、登場人物を描き分けるのに、声を変えるのはご法度とされている(ギャグとして出すなら恐らくOK)。
亭主より低い声を出す遊雀師のかみさんなどを聴けば、なるほどなと思う。
だが浪曲だと、寅さん映画の登場人物全員をモノマネでやっても、特に不自然さはないから不思議だ。
浪曲自体が、形式重視の芸だからか。形式が決まっているほうが、遊びやすいのだろう。
寅さん映画がまさに再現されている。驚いた。
とはいえ、リアルの追求ではない。時として、似てないモノマネを魅せるギャグであったり。
一番自信があるのが、諏訪博(前田吟)なんだそうだ。
タコ社長あたりは説明なく入れ込んできて、爆笑。
これは大満足の贅沢な芸。
映画の内容うろ覚えでも問題なし。私もそうだもん。
「これはNHKではカットしたほうがいいみたいです」あたりの地に返るギャグが実にスムーズだ。
次はヒザ前の桂雀々師。
日曜に笑点で観たばかり。先の寅さんを前提にした、宮治(タコ社長)いじりも入っていた。
雀々師もこの日のすばらしいメンバーの立派な一員だけども、唯一いただけなかった。
もともと上方落語でも最右翼のこってりした芸である。それは認識済みだし、独演会だって行った。
だが、東京の寄席のヒザ前でギャグたっぷり漫談をやられると、ちょっと辟易する。
雀々師、東京でもう長いのに、ヒザ前でもこの芸かよと。
鶴光師みたいに、東京流のアッサリ芸になってしまった人もいる中で、これか。
東京が長くなっても、寄席にいつも出ているわけでない雀々師には、ヒザ前というポジションがピンと来ていないのかもしれない。
雀々師がどうというより、番組の作り方に問題があるのかもしれない。
ちなみに色物さんだったら、ヒザが重要である。
だが、ベテランながら激しい舞台を務めるにゃん子金魚先生がヒザに入ることは、まずない。そんな番組、誰のためにもならないから最初から作らないわけだ。
それと同様、雀々師がヒザ前の番組にも問題がある。
太福師と逆だったらよかったのに。浪曲がヒザ前なんて変だから、ないけど。
4日前から、高座の模様をブログに書くことの是非について、私は勝手に闘っている。
まさにそんな闘いを象徴するのに適当な場面があった。
雀々師のマクラに「土人」が出てきたのだ。差別をひとひねりした小噺であることはお断りしておく。
ちなみに私のブログにおいても、差別用語は無縁ではない。広告が制限され、収入に影響が出ることがあるのだ。
といってGoogle様に文句があるかというと、別にないのだけど。人権侵害を一企業が取り締まっているのが、今の世の中なのであった。
地方のNHKニュースで、バス転落の臨時ニュースが入る。手書き原稿が回ってきて、「負傷者11人」とあるが、なぜか11を漢数字で書いていた。
それを土人と読んでしまい、抗議や質問が殺到したという。
「土人じゃない、黒人と呼べ」とか「その人たちはいつ日本に来たんですか」とか。
これをやらかしたのが、若き日の松平定知アナであったという。
無理に差別用語を使うほど、面白いネタじゃないなと思った。これは、雀々師のこってり加減とはまた別の要素に基づく話。
ハイテンションでぶっ飛ばす雀々師に、他の客はウケてたけども。
私は落語から差別用語をすべて排除せよなんて思想の持ち主ではない。
土人という微妙な言葉が、見事な小噺の完成品になっていればそれで満足だった。
この小噺で雀々師を糾弾するつもりもなければ、逆に配慮する必要性も感じない。
いずれにしても、「土人」が出た話をここに、影響など考えず、ただ書く。
ニュートラルに書く点が、白鳥師のジェンダー差別ネタに怒った人とは違う。だが、土人という言葉が世に出る点は結局一緒だ。
土人の直接的影響は別にして、ヒザ前でのこのこってりさに毒が回り、本編、代書に入って寝ることにした。