亀戸梅屋敷寄席28(上・三遊亭楽大「金は廻る」)

日曜の落語会が中止になったため、火曜の亀戸へ。
先月も聴いたばかりだが、また好楽師を聴きに。
またJRの一日券を買い、足立区の還元と掛け持ちである。

ん廻し 楽太
時そば 鯛好
禁酒番屋 好太郎
(仲入り)
金は廻る 楽大
風呂敷 好楽

満員にはならないが、盛況ではある。
そして好楽師のときには、変な客が来ないのがいい。

前座は楽太さん。メクリはなぜかなくて開口一番。
前回、実に上手くなっているのを確かめた。今回も実にいい。
円楽党、前座が少ない分、高座に上がる回数が多いから。

携帯切ってくださいねのマクラ。
先日やはり鳴りました。お客さんが電話に出て、「ああ、今前座だから大丈夫」。
別のお客さんが電話に出た客に怒り、「我慢して聴け!」。

実際にガラケーを切っていたお父さんがいた。

私は円楽最後の弟子です。それがどうしたという話ですが。
と振って、寄合酒へ。昨年聴いたことがある。
呼んだ連中、誰も金を持ってない。
呼ばれた奴が、「最近鼻が詰まってて耳が聞こえない」。
この後、ちゃんとツッコまないのが今どきで好き。

これから肴を探しに若い衆たちが出かけるのかと思ったら、みんなを呼んだアニイが懐から金を出す。
寄合酒でなくて「ん廻し」だった。
ん廻しはもともと寄合酒の後半らしいのだが、今つながっているものは聴かない。円楽党は他団体と違う演出があって楽しい。
兄弟子の楽八さんから、同じスタイルのん廻しを聴いた。
そのときも思ったのだが、出どころが小遊三師っぽい。
「銀座、新橋、虎ノ門、電車」というフレーズが入る。

「先年、神泉苑の門前の薬店、玄関番、人間半面半身、金看板銀看板、金看板根本万金丹、銀看板根元反魂丹、瓢箪看板、灸点」というこのフレーズを私は覚えているのだが、楽太さんのものは「薬店」がなかった。
確か、小遊三師のものとは若干違う。

そこで終わらず、花火まで進むのが珍しい。

この後の二人は眠気が来て、3分の1ぐらい寝て過ごしてしまった。
鯛好さんは時そば。
2人目のそば屋は「苦口」。なんだか薬物が入っている。
こんなお店がなぜ流行っているかということ、「3回食べると癖になる」んだって。
2人目のそば屋はひどいそばを出すのに、景気がなぜいいのか、理屈っぽい昨今は理由が必要になっている。いろいろ考えるものです。

仲入りは好太郎師で、105歳まで生きた熊本の祖父の話から、酒場で仲良くなる厚かましい客の小噺。
そして禁酒番屋。
一度聴いたことがある。
前回は、しょんべん屋のくだりで一度役人が「返してやる」という演出だった。
珍しい型なのだが、今回どうだったか寝ていたのでわからない。
お清どんまで漏斗で小便入れていたのはかすかに覚えている。
寄席で寝るのは気持ちいいですね。

仲入り休憩も席で寝続けて、クイツキでようやく目を覚ます。
三遊亭楽大師は、師匠・円楽の話。
今日はこの後、おかみさんと飲みますとのこと。
師匠のお墓は、地縁のない前橋にある。その理由。
そして、前座になって3か月のころ、師匠をしくじった話。
春日部から毎朝江東区の師匠の家に通っていた楽大さん。毎朝9時に行かなければならないのに、朝起きたら9時半だった。
師匠に電話すると、もう笑点の収録があって出かけている。
兄弟子にちゃんと謝っておけと師匠。
兄弟子は全然怒らず優しい。
夕方、師匠から電話が掛かってきて「亀戸駅に出てこい」と言う。
叱られるのかなと思ったら、風間杜夫のひとり芝居に連れていってくれたのだ。

最前列にいる客が、下手にある時計(噺家さんもこれを見る)を見るのが癖らしく、チラっと見る。
それを受けて楽大師、「そろそろ噺もしなきゃいけませんが」。
あんまり客が時計見るもんじゃないね。腕時計を見るのが気になる演者もいるそうで。
私も腕時計はよく見るのだが、なるべく演者に気づかれずに見るようにしている。

ネタは持参金。
ボードには「金は廻る」と書いてあった。ということは、これもまた小遊三師が出どころ?
芸術協会における小遊三師の偉大さは繰り返し書いているところであるが、芸協の二次団体化している円楽党でも小遊三師はやはり偉大である。

持参金というのは寄席四場のどこだったか、出すのを禁じられているのだとか。
女をものとして扱うような噺であるから、現代視点では無理もない措置。
だけど楽しい噺でもあるのだ。背がすらっと低く、色が抜けるように黒く、額と下顎が出ていて鼻が低い女。しかも腹ボテ。
笑福亭希光さんが上方落語でやっていたのはよかった。
見てくれが悪い上に妊娠している女をもらう羽目になるが、気に入ったと主人公がつぶやいている。

楽大師は、そんな配慮はまったく入れず、実に気持ちよくひどい噺を語る。
主人公が動じないことで、こののんきな世界を描くのだ。
番頭さんの子供だったら、どこの誰だかわかってますしちゃんと育てますと宣言している。まるでためらいのないところが気持ちよさの秘訣。
楽大師、こういうところが実力者である。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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