亀戸梅屋敷寄席28(下・三遊亭好楽「風呂敷」)

好楽師のマクラをひとつ思い出した。素人のネタだと断って。
円楽と、その翌日亡くなったアントニオ猪木の会話。

「元気ですかー」
「元気なわけねえだろ」

上手いこと言う人がいますねと好楽師。

ちなみに着物はピンク系だが、笑点と同じまっピンクではなく、上品な色。
何度か見たことのある着物。

アニイの知ったかぶり格言は、「女三階に家なし」「じかに冠をかぶらず」「おでんに靴を履かず」とここまでは普通。
もうひとつ、「写真忘るべからず」というのがあった。
旅行に行くときは写真機を忘れないようにすれば、後で楽しめるというありがたい格言。

お咲さんは酒を買いに行くと言ってうちを抜け出してるのにもかかわらず、ムダ話が多い。
親戚だったか知り合いだったか、そこの娘が早くから「1年生の先生になりたい」という夢を持っていて、ついに実現したのだそうだ。
あるとき国語の授業で「今日は『き』のつく言葉を言いましょう」。
お金持ちの家の男の子が手を上げて、「き◯たま」。
赤面する先生、「もっと綺麗なものをいいましょうね」。
男の子考えて、「洗ったき◯たま」。
アニイがツッコむ。そりゃ小遊三のネタだろ。
今日は前座からトリまで小遊三デーでしたな。名前が出たのはこれが初めてだが。

それにしてもこの劇中小噺、どこからどうつながったんだっけ?
前回はこんなのなかったことは確かだ。
昔、ロンパールーム(お姉さんはうつみ宮土理)でこんなことがあったという話をよく聞いた。
男の子が熊の人形に変わっていたのと同様の都市伝説だと思うけど。

おかみさんに風呂敷寄越せとアニイ。風呂敷は「ふるしき」と発音。
面白いのはこのおかみさん、一切描写されてなかったけどずっとアニイの横に座ってたんだって。
横に並んで座るのは大喜利だけだよとアニイ。

亭主関白でモラハラ気味にも見えるアニイだが、客の不快スイッチは決して起動しない。

3年半前にこの噺を聴いた際、強く覚えているのが、アニイが風呂敷を実際に使うシーン。
焼きもち亭主の熊を風呂敷ごとヘッドロックして、啖呵を切るかのごとく強い調子で喋る。
ははあ、甚兵衛さんみたいな師匠だけど、啖呵切るときは切るんだなと感心したのだ。
それは今回なかった。もう少し、やることをしっかりやろうという雰囲気。
なにからなにまで違いすぎる。
数年の時を経た違いというよりも、今日の好楽師はこういう演出。そういうことだと思うのだ。

前回も今回も、酔っ払い亭主がアニイの楽しい話を聴きたくなるところは実に自然。
アニイが「話したいから聞いてくれ」ではなく、いつの間にか相手をペースに乗せている。さすが町内のもめ事よろず引き受け屋。

そして今回気付いたのだが、押し入れから新さんを逃がす一連の所作は、客を間男に見立てているのだ。
亭主の頭を隠したアニイは、客に向かって早く出ろ、後ろ閉めろと語りかけている。
ああ助けてもらったって、そうはさすがに思わないかもしれないけど、思わぬ臨場感に溢れている。
前回は、逃がす所作を(雰囲気としてだが)横から観ていたような気がする。これも変えたのかしら。

サゲは「そいつはうまく」とここで正面切って、「逃がしやがった」。
細かいセリフは違うかもしれません。

というわけで、今回もまたすばらしい好楽師を聴かせていただいた。

ちょっと字数不足気味なので、今まで師から聴いた噺をまとめてみる。

  • 抜け雀
  • 紙屑屋
  • 一眼国
  • 風呂敷
  • 三年目
  • 親子酒
  • 稲川
  • ぞろぞろ
  • 紙屑屋(二度目)
  • 抜け雀(二度目)
  • 伽羅の下駄
  • 三年目(二度目)
  • 一眼国(二度目)
  • 風呂敷(二度目)

あまり「これ」という傾向がないなあ。
持ちネタの多い師匠だが、最近カブり出した。しかしまったく気にならないのは繰り返し述べている通り。
そして、売れてる弟子の兼好師はあまり師匠の噺をしない印象。親子酒ぐらいか。
ちなみに、講師派遣のシステムブレーンに記載されている好楽師の「得意ネタ」を見ると、こうある。

  • 抜け雀
  • 子別れ
  • 兵庫船
  • 錦の袈裟
  • 蛇含草
  • 胆つぶし

いつの時代の得意ネタだろう。
抜け雀、肝つぶしはわかるけど。
廓噺をやるイメージはまるでない。先日珍品「伽羅の下駄」で吉原に触れていたのは、なかなか面白かった。
兵庫船(鮫講釈)なんて本当にお持ちなのかしら。聴きたいけど。

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作成者: でっち定吉

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