本寸法噺を聴く会 その2(桂南楽「悋気の独楽」)

前座が2人出て、続いて二ツ目が2人。面白い会である。
二ツ目の一人目は桂南楽さん。今年二ツ目になったばかりの、極めてユニークな噺家。
前回神田明神の会で3席聴いたが、伝統芸能を聴きにきたらしい客と噛み合わず、残念ながらあまりパッとしなかった。
この小金井のお客はよくわかっていて、遭遇するのは初めての人が多かろうに、たちまちこの楽しいお兄ちゃんにフォーカスが合う。おかげでとても楽しい高座。
しかし、絶対にこの人「本寸法」じゃないよな。やはり会の名称はシャレなのだ。

高座に上がる際、気をつけないと天井に頭がぶつかる。その様子をカリカチュアして出てくる。もうここから面白い。
天然を装った、計算づくの手練れ。
計算づくがわかっても、全然いやらしくないところがいい。

黒紋付。
おどおどと「私は前座じゃないです」。
今年8月に昇進しまして、こうやってこれ(羽織)が着られます。それがどういうことかというと、習慣みたいなものです。
実際にはもっと雰囲気と身振り手振りで喋っていたのだが、人間の言葉に翻訳しました。
雰囲気で喋って客に伝わるというのは、すごいことである。

南楽は師匠の二ツ目時代の名前なんです。
継ぐときにプレッシャーがありました。師匠に名前が重いと相談したら、「大丈夫。もうお前が継ぐ時点で汚れてるから」。

前座時代の高座は、短いときは10秒でした。出てきて、「開口一番を申し上げます。桂南太郎です。ありがとうございました」。
それなのに、今日は20分やらないといけないんです。
20分持つかどうかわかりません。
こんなことを自信なさげにつぶやいて爆笑を生む。
「10秒」について、自己ツッコミで否定しないまま進めるのもすごい。
高座の上空から、完全に自分のことを把握できている感じ。

本編は前回も聴いた悋気の独楽。
女性の好きな噺。

おかみさんに命じられて旦那のあとを追う小僧の定吉。
旦那は、新小金井の「本寸法噺を聴く会」に出かけるところなんだそうだ。
定吉が、「早く行かないと南楽の高座はもう終わっちゃいますよ。20分できないんですから」。

「お清に後をつけさせた」というおかみさんの虚言より、もらった独楽がこぼれ落ちるのが先だった。
間違いだと思うが、気づいている人は少ないと思うけど。結構したたかな演者だし。
独楽とお小遣いが先に出てきたら、お清の嘘はもういらないな。

ずっとへなちょこ面白高座なのかと思っていると、おかみさんの前で独楽を回すくだりはしっかりと面白いのだ。
「おかみさん追う追う。旦那逃げる逃げる。お泊まりです」。なんてことないのにスリリング。
ちゃんと腕のある人である。
そして、遭遇するのが二度目の噺なのに楽しさがまったく減っていない。むしろ増えた。

わかる客の前だと大ウケすることがあらためてよくわかった。
本寸法好きの客だからこそ、南楽落語がわかるわけである。
ストレート自慢のピッチャーの評価ができないと、軟投派の価値もわからないわけだ。
そして軟投派も、ときには140km出ていないストレートを、豪速球に見せることがある。

続いて久々にお見かけする春風亭一猿さん。
神田連雀亭には出ているが、ご無沙汰している。
ちょっとしたスキャンダル以降、露骨に避けてはいないが目当てにできなくなった。
まあ、事件はツイッターで誹謗中傷を受けた、被害者側ではある。でも痴情のもつれらしいので、なんともコメントしづらい。
一猿が語った(という裏付けはない)一門や業界人への隠れ批判が流れてしまい、本人は業界での立場をなくしたことであろう。
女の復讐、大成功。
ともかくこんな、楽しいメンバー目白押しの日にまとめて一猿さんを聴くというなら、全然OK。

先の南楽さんを指し、芸術協会はすごいですね、ユニークな人材が次々出ますと。
それ以外のマクラは忘れた。
本来年末の噺なのだろう、穴どろへ。
落語協会では、古今亭志ん丸師から、前半が完全に「掛取り」であるスタイルの年末版穴どろを二度聴いた。それとはぜんぜん違うが、年末の金策である点のみ共通している。

おかみさんとのやりとりはフラッシュバックで、いきなり3両の金策に街をさまよう男。
大店の宴会を見つけ、3両分ぐらいいいだろうとつい盗み心を発揮し、忍び込む。
このスタイルも初めて聴いた。穴どろは、最後まで泥棒ではないのが普通だと思っていた。

それはそうと、一猿さんの熱演に二重写しになる噺家がいる。
先に出た杏寿さんの師匠、金原亭世之介師である。

噺を聴いて、ああ、この噺はどの師匠に教わったのかなと考えるのは普通。
これは、教える側の高座も聴いているからわかるわけだ。
だが、私としてもまったく初めての経験。教わったほうの噺「だけ」を聴き、(聴いたことのない)教えた側がわかったという。
口調(苦虫を潰して終わる感じ)から、顔(やはり苦虫)まで、世之介師のまんま。
顔までコピーするんだ。

事情は知らないが、世之介師から来たものと確信している。
世之介師の兄弟子、むかし家今松師からもずいぶん前に聴いたが、やはり全く異なるスタンダードなものだった。

高座に世之介師が出現してしまい、それに脳内を占拠されたが、ともかく内容はよかった。
これなら本寸法といって差し支えない。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。