本寸法噺を聴く会 その1(前座ふたり、「杏寿」と「しろ八」)

東京かわら版で、好きな噺家さんの多数出る会を発見し、出掛けてみる。
両協会混合だが、特に芸協メンバーが気になる。
新小金井、中央線だと東小金井だが、ここで「本寸法噺を聴く会」。会場は保育園。
私はめったに出没しないエリアだが、常に気には掛けている。
60名限定だが、前日に電話したら取れた。
個人の携帯電話に掛けるのが唯一の予約手段とは今どき珍しい。
前売り2,500円は地域寄席では安いほうではないが、3時間半も枠があり、パフォーマンスはいい。

「本寸法」とはあまり好きな言葉じゃないが、まあシャレなんでしよう。
二ツ目の会だと「寸足らず噺を聴く会」に替わるようだ。

東小金井から住宅街を歩くと小綺麗な保育園が。
満席になった様子。
ちなみに、落語をよく知っているお客である。
女性が多く、通ぶっている人は見なかった。通ぶらなくてもわかってる人はわかっている。

保育園の欠点は、大人用の便器が少ないこと。

子ほめ しろ八
元犬 杏寿
悋気の独楽 南楽
穴どろ 一猿
(仲入り)
ラブレター しん華
崇徳院 小八
粗忽長屋 小痴楽
(仲入り)
蛙茶番 可風
浜野矩随 蝠丸

時間の午後1時になっても始まらない。
4分後ようやく前座が登場。
小八門下の柳家しろ八さん。

業務連絡ですと、今日の会の構成について。
最初に4人出て、仲入り休憩5分です。
次に3人出て、仲入り休憩10分です。
最後が2人と、つまり4-3-2のフォーメーションです。
サッカーと同様、頑張ってまいります。

出る演者の順序はわからない。
顔付けの最初に名の来る、目当ての柳家蝠丸師がトリなのはわかるけど。

付け焼き刃ははげやすいと申しまして、しろ八さんは子ほめへ。
鼻濁音がめちゃくちゃくっきりしている。
噺家たるもの、まず鼻濁音ってか。さすが小三治一門。

この人、上手い。相当に。
なにしろ、隠居をイラつかせないで八っつぁんとの会話を続けられるのだから。
八っつぁんのほうも、刺さりすぎる言葉を吐かない。
タダの酒を隠居が飲ませてくれないと、「このしみったれ」なんて言わない。しみったれだねえ、とマイルド。
人間関係において、八っつぁんが隠居に一方的に甘えかかっていない。
子供の生まれた竹との関係も同様。
常識的な世界での本来あるべき会話(落語だから崩れているけど)で、ちゃんとウケる。

時間の関係だろう、番頭さんに会うシーンはカットし、隠居宅からいきなり竹の家に場面が変わるが、違和感なし。

とにかく感心したのだけど、なんだか「求められる前座像」を忠実に演じているようにも見えた。
それが悪いというのではなく、そうできているのはすごいことだが。
多分、二ツ目になって自由になってから本領発揮の人と思う。
それまでは、あるべき前座を忠実に演じ続けるに違いない。

もうひとり前座で、美人前座でおなじみ金原亭杏寿さん。
高座は初めて。高座返しで拝見したことはある。
川口春奈に似ている。
二ツ目昇進が決まったとご本人。まだリリースはされてない。
11月って言ってた覚えがある。1年も先?
記憶違いならすみません。

杏寿さんは元犬。
落語界ではどう、というようなレベルでなく絶世の美女である。それは本当。
だけど、落語のほうはどうなのさと、ちょっと皮肉な目線。
しかし、普通に上手いのであった。
微妙な褒め言葉を使ってしまったが、「普通にやれる上手さ」ということです。
全体を決して突出させず、しっかり普通の展開を入念に描いていく。
ウケたいところで頑張ってしまうような不器用な高座ではない。
声も変にいじったりせず、ナチュラル。作ったナチュラルだとしても。
客の内心をざわつかせる変な部分はひとつもなかった。

「ちんちん」は抜いてました。桃花ねえさんは入れてたけど。
ただ、人間になったばかりの裸のシロが前を隠すシーンはドキッとする。
そしてこのシロ、実に素直。
シロは語らないだけで、問われればいつでも犬だったことを教えてくれるのだ。

マイナスがなければ貯金がたまる。
たちまちブレイクするような芸ではないけど、息は長そう。
移籍した姉弟子(乃ゝ香)の動向が話題になる中、女優上がりのこの人は、ちゃんと考えて修業をしてきたのだなあ。

明確なプラスもあった。
シロの動物的動作と視線が、客によく見える。
女優の資質なのでしょう。

まあ、来年は笑点特大号の女流大喜利に出ていることは間違いない。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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