本寸法噺を聴く会 その3(桂しん華「ラブレター」)

この日の顔付け、面白いことに、落語界でなにかしらやらかした(悪いほうで話題になったことがある)人が多いのである。

仲入り前に出た一猿さんのあとも、移籍による前座やり直し第一号の桂しん華さん(実際には先代三平など、過去に同じような目に遭った人はいる)、師匠の遺族とトラブった小八師、そしてとどめが朝寝坊で破門を食らった小痴楽師と続く。
どうせなら真打に正朝、遊雀、二ツ目にかけ橋を加え、前座に立川幸弥を加えれば完璧な布陣。
もっとも圓歌、とか入れるとやり過ぎでぶち壊し。

まあ、やらかしてからが噺家人生本番ですよ。
すごく無責任なこと言ってる自覚はあるけれど。
それに桂春蝶に対して同じことは言わない。
ともかく、やらかしても消えなかった点は皆偉いじゃないか。

一猿さんのマクラ急に思い出した。ウケていたが、今さら触れることもないか。
吹き替えの話。

短い仲入り休憩後は、桂しん華さん。3人目の二ツ目。
前座の杏寿さんがメクリを替えるのと同時に高座に上がる。
この人は落語協会時代(三遊亭日るね)を含め、初めて。
味があるという評価をよく見る。聴きたかったのだけど、連雀亭に出ない人にはなかなか巡り合わない。
私の好きな柳家花いち師と一緒の会をよくやっているのは知っている。
そういえば、花いち師も連雀亭メンバーでなかった。

しん華さん、ツイッターで天歌さんにエールを送っていたのは見た。
もともと同じ一門だもんね。そして師匠と反りが合わなかった点では、しん華さんが先輩だ。

評判通り、ポワンとしたお姉さん。
この人も、女流大喜利に呼ばれたら人気出るなと思った。
女流大喜利に呼ばれればそれでいいのかって?
いいんじゃないですかね。本業がちゃんとしている人しか呼ばれてないんだし。

私はもともと西洋のものが好きで、宝塚を受験したんですけど落ちまして。としん華さん。
あちらは乙女の園。今修業しているのはお爺さんの園です。
花緑師匠のお兄さん(小林十市)の影響で、こちらの業界に来てしまいました。
宝塚と落語界の共通点をいくつか述べる。
ことごとく落語のほうでオチを取るのである。
私は宝塚大劇場、あと1人というところでチケットが獲れず入場できませんでした。いっぽう名古屋の大須演芸場では、客2人にならないと幕が開かない決まりがあって、先に来ていたお客さんが「あと1人」で観られなかったということがありました。

最近、宝塚好き噺家の企画なんてよく見る。
笑福亭生寿師が代表みたい。
そういうところでは仕事に困らなそうだ。

軽く無筆を振って、ラブレター(女給の文)へ。
ネタ帳にはこう書かれると思うのだけど。
この日のトリは柳家蝠丸師だが、師の先代、初代蝠丸の作った古い新作落語。それをさらに改作しているしん華さん。
ちなみに初代蝠丸は先代文治のお父さん。
ともかく、芸協に移ったからこそ覚えたわけだ。
話題のかけ橋さんも、両方で覚えた噺を披露している。

宝塚大好きのお嬢様が、彼氏にあてて書いた手紙を読んでもらうというもの。
字が金釘流だし、濁点を付ける場所に付けず、付けるべき箇所につけてしまってめちゃくちゃ。
ずっとお嬢様トランス状態なので、実に楽しい。

途中、「い」の字が抜けていたのを指摘されると「私のいがない」と歌い出し、そしてツッコミが呆れてスルー。
これが一番ウケていた。
最近よく書いているのだが、お笑いのほうから来た「ボケっぱなし」の手法が着実に落語界を席巻している。

よくわからないところで落語本編のサゲがあり、軽く詫びて最後に高座の前で躍りを披露。
躍りながら、「これで宝塚に落ちました」。

楽しい人。
花いち師と相性がいいのもよくわかった。

続いて柳家小八師。6人目がようやく真打という番組。
寄席四場でも、こんな番組があっていいと思う。
出ているメクリ台には無数に千社札が貼られている。
「喜多八」があり、「ろべえ」がある。ろべえが小八師である。

小八師は久々。
しん華さんを指して、「いやー、あの人は今の協会が合ってますね。うちの協会にいたらダメですね」。
しん華さんは、小八夫人・弁財亭和泉師の妹弟子であったから、気になって当然。

それにしても芸協は本当に緩いなあ。
うちの息子にも、噺家ンなンなら芸術協会がいいよオと言ってある。

恋患いについて。
あたしはよくわからないんですけど。惚れられるほうなんでだって。

そして崇徳院。
ごく細かい部分に、聴いたことのない演出があった。
熊さんがわらじを腰に巻き付けられるシーンを描写している。仁王さまみたいだねと。
あと、短冊はお嬢様が書いたものではない。たまたま、「瀬をはやみ」の短冊がひらひらと落ちてくる。

若旦那に「わざと」大声で喋りかける部分を除くと、あとはスタンダードな一席。
この長丁場の落語会においては、ここで出す「イイ噺」は実にいい仕事である。
こういう人は大事にしないといけない。
この後、小痴楽師はやりやすかったろう。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。

2件のコメント

  1. はじめまして。新参ですが、この一ヶ月ぐらいででっち定吉さんのブログを楽しくみさせていただいています。
    前座噺がヒットするようになったのはかなり高い確率であかね噺です。
    主人公が前座修行に入り、前座噺を自分の師匠とは別の人に教えてもらうために奔走してるのが今の物語です。それで検索した人が多かったのだと思います。

    かくいう私はあかね噺で落語をみるようになりました。その流れでこのブログも拝見させていただいてます。でっち定吉さんの好みには合わなかったようですが、あかね噺は少年マンガ好きからみると、敵の演出だったりやたら強そうな師匠陣だったりと少年マンガとしてはとても良くできてます。今後落語はヒカルの碁が流行ったときの囲碁なみのムーヴになる気がしてます。人気もでてきており現状、巻数が一桁のジャンプ漫画では一番の人気と言って間違いはない認識です。

    引き続き落語についていろいろ知りたいとおもいますので、今後ともよろしくお願いします。

    1. ああ、そうでしたか。 >前座噺
      あかね噺さん、ごめんなさい。
      ここで謝ったって仕方ないですがね。

      私は「うちの師匠はしっぽがない」の平和な世界が大好きで。

      当ブログ、いささか主観が強いので、そのつもりでお楽しみください。

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