ごごらく@なかの芸能小劇場 その4(瀧川鯉八「にきび」)

春風亭昇々「天災」

仲入り後は再度の昇々さん。羽織も着ないで着流し。

先の壺算と同様、天災も、またマンガである。
ストーリー的には、既存の天災と特に変わらない。
この噺も、実はもともとマンガっぽいところがある。わかりやすく乱暴な男と、真面目な方向にカリカチュアされた心学の先生の噺。
マンガに向いた噺を選りすぐって、マンガとして掛けているわけだ。
実はその方法論のほうがスムーズなのではないかとすら思う。

先代柳家小さんの打ち立てた、人間をしっかり描いて噺を組み立てるというやり方は非常に素晴らしいものだ。実際、私の落語脳の、かなりの部分を小さんスタイルが占めているといってもいい。
ものがわからず、喧嘩のことばかり考えている八っつぁんと、対極にある先生との間に話が通い合うことの美しさ。
だが、落語の方法論はそれだけではないのだ。
そういう枠組みだけはいただきつつ、登場人物をもっと弾ませて描いたらどうなるか?
マンガの出番である。マンガなら、どんなスタイルでも、話の中で統一性が保たれていれば壊れない。きちんとおかしく描けるわけだ。
そして、大きくデフォルメされたその絵の中に、ちゃんとストーリーが詰まっている。

また昇々さんのマンガ版天災、聴きたいな。

瀧川鯉八「にきび」

トリは鯉八さん。
薬物について。法律で規制されているからやりませんが、規制がなかったらやってみたいと思う人も多いのではないですかと刺激的なフリ。
逆に、どうやったらみんな薬物を使うだろう。
無印良品で売っていたら、買うのではないか。
でも、ドンキで売っていたら、混ぜ物が入っていそう。
ドンキは昇々さんと被ったのか被せたのか。演芸場の隣にあるから入れやすいんだろう。

本編に入ると、薬物の噺でもなんでもなかった。
薬物は、「禁断」「快感」の象徴として取り上げただけで、本当は快感の正体は別のもの。
演題はわからなかったので「鯉八 ニキビ」で調べた。そのまんま「にきび」でした。

主人公は中学生のマー坊。鯉八さんの噺にはよく出てくる名前だが、ご本人の本名らしい。
にきび面が気になって仕方のないマー坊に、婆ちゃんが、悪魔の誘惑を教える。
にきびの頭が白くなり、さらに黄色くなり、最終的には外がカリッと中がトロっとした状態で潰すと、中身が飛び出る。その際の快感は、この世に比較できるものがないのだと。
婆ちゃんも若い頃、これに夢中になった。

婆ちゃんがにきびがいかに困るか滔々と語るマー坊に「マー・・・坊」と語りかける。
マー坊のほうは、婆ちゃんに乗せられて、「ゴクリ」とわかりやすく息を飲む。
ストーリーとは別に、このやりとりだけで笑わせる見事な芝居。

モチーフにされているのは薬物ではなく、中学生の性の目覚め。だが、それに言葉を費やすことはない鯉八さん。
婆ちゃんにも娘時代、にきびを潰す快感があったのだから、一応普遍的なモチーフに昇華しているわけだ。そうかな?

トンデモな噺だが、鯉八さんの新作は、全体像にフォーカスしなくてもいいように作っているらしい。
噺の中に、聴き手それぞれが勝手にピントを合わせたらいいらしい部分が必ずみつかるので。
「外がカリッと中がトロっと」というのも、別にそれについて膨らませるわけではないのだ。ただ、客それぞれの脳裏になにかが浮かんで離れない。

まさに天才、鯉八。

最後に幕が閉まりかけたところで、袖の昇々さんを呼ぶ。
撮影OKとのことで撮らせていただきました。
とても仲のよさそうなお二人。

芸協バンザイ。
成金バンザイ。
中野バンザイ。

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作成者: でっち定吉

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