M-1グランプリ2022(中・コント師大活躍)

個人的にウエストランドに含むところはない。あんな芸人もいていい。
井口が、素人の漫才評論に牙を向いたその矛先にでっち定吉もいるわけだが、だからといって敵視する気もない。
ただ、チャンピオン向きではないと思う。今後守るものができてきてしまうからだ。
これから先埋没しないように「俺には守るものなんてない」とより一層牙を向くだろうが、結果、それを見守る側との間のズレが拡大していくことを予想する。
だから優勝しちゃいけなかったなんていうんじゃないですよ。
大変だねと心配しているのだ。
不祥事がなくても、とろサーモンみたいになりそうな気配もあり。

さて、1stラウンドの短評。

カベポスター

《丁稚採点92点/結果8位》

ひと組目から、トレンドに乗ったボケ風ツッコミ。
ツッコミはボケを優しく解説していき、客の気持ちに沿うよう着地させていく。
そして、私自身こういうのが好きなのである。
いにしえのエンタツ・アチャコ、いとしこいし、ダイマル・ラケットという先生たちもそうだった。
今から思うと、激しいツッコミのほうが時代の徒花だった気がする。景気のいい時代はそんなのもいいんだろうが。
言葉遊びというのは、上手くやると実に楽しいものだ。
90点を基準と考えたうえで、2点プラスする。

真空ジェシカ

《丁稚採点93点/結果同点5位》

ギャグだけなんだけど、むちゃくちゃ面白い。
これもツッコミがちゃんとツッコむのではなくて、もうひとつボケを重ねるタイプ。
ただ、二段目のほうで笑いをとる、トスとスパイクのスタイル。
昨年も同じことを思ったのだけど、終わった後でなにも残らない。
クスグリだけでできた落語みたいな感じ。
しっかりした展開があればいいのに。
そして、独立して面白いクスグリより、展開にくっつくもののほうが結局価値が高い。

オズワルド

《丁稚採点91点/結果7位》

敗者復活も全部観ていた。採点まではしないけど。
私も、敗者復活はオズワルド1位ですね。
その他、「ななまがり」と「からし蓮根」に投票したけど、ずいぶん順位が低かった。
ななまがり、シュールネタを相当一般目線に合わせて来てるけども、でもダメなのか。
個人的な次点は、枚方大菊人形展ネタの「ハイツ友の会」。
これ、落語に移植したらテンション低めなのが活きてすごく面白そうなんだけど。
さて本線でのオズワルド。
敗者復活と基本同じネタなので、評価しづらい。
間違いなく面白いけど、彼らの描き出す狂気の世界に、すでにこちらが慣れてしまっているのがな。
序盤淡々と進める芸風だから、狂気をかさ上げする必要があるのだろう。
実に大変だ。この天井を突き抜けられなかった漫才師が過去いったいどのぐらいいただろう。
安定した面白さの彼らだが、ごく普通に考えるともう上がり目はない。
ここからの積み上げ、ないと思うが期待はします。

ロングコートダディ

《丁稚採点92点/結果2位で決戦進出》

大好きな彼らに大笑いしたが、採点は意図的に厳しくした。
マラソンのネタ、彼らにしてはベタだなあと思ったからだ。
最後は展開を競りあげていかず、逆に「太った人に追い抜かれた」と常識ベースで笑わせるし。
点数を競う機会でないのなら、ずっとついていきたいネタではある。
ロングコートダディ大好きの私が辛く付けたのに、なんで暫定1位なんだろう。
志らく師の苦言(オチがスコーンと終われば)は珍しく納得した。
今回はこの人、変なことは言ってなかった。当分あそこの席が安泰みたいだ。
ロングコートダディは冒頭から面白い。相方の変なところに感謝するやりとりからすでに。
すでにそこから変な世界に入り込んでいるのだ。

さや香

《丁稚採点94点/結果1位で決戦進出》

ネタの構成が上手い。真空ジェシカに足りないものがなんなのか、よくわかる。
免許返納のボケを、ツッコミをスルーしてそのまま続けるところが好き。
ただ、この結果ツッコミが強くならざるを得ない点、諸刃の剣の気もしたりして。
このツッコミは珍しく正統派だなと思ったのだが、やっぱりボケタイプのツッコミでもある。
最後はボケ合いになる点は素晴らしい。
「オトンが47のときの子」というのは、気がついていたのだが改めて彼らの口から出て感激。
彼らのことをそれほど好きにはならないのに、点数だけ高く付けるという、ロングコートダディと真逆のパターン。
好きにまではなれないのは、そもそも「対立」が現代の演芸ではよくないと、私が日頃から考えて、感覚的にも持っているからだ。まあ、真の対立ではないけれど。
短評でもって褒めていた松ちゃんのツッコミ論、今までの積み重ねでもってちょっとわかってきた。
ボケ投手の喜ぶツッコミ捕手であって欲しいということみたい。
ボケの立場から、気持ちよくボケさせてくれることを相方に望むわけだ。
うーん、なるほどと思いつつ、現代ではそんな漫才もう成立しない気もします。
当の松ちゃんだって、ヨネダ2000に大喜びしてるわけだし。

男性ブランコ

《丁稚採点97点/結果4位》

いや、面白かった。振り返って今回のイチオシ。
観ながらどんどん点数をかさ上げしていった。
もう一本観たかったのは、昨年のロングコートダディと同様。どちらも4位。
音符運びのネタ、また漫才論争が起きそうだが、私は立派に漫才だと思う。
もちろん、コントの方法論を濃厚に使ってはいるが、コントの場合なら、音符が実際に登場するんだから。
音符を客にイメージさせるのがすごい。司会の今ちゃんが「見えますね」と激賞していた。
この点落語みたいなのだが、志らく師がそのコメントしてないのは残念。
完全Wボケ、なのにマジメなそのスタイルが、漫才としては確かに相当変わってるが。

ダイヤモンド

《丁稚採点88点/結果10位》

点数は付けなかったが、結構面白い。
日本語フェチの人の台本だ。
私もその傾向があるので、よくわかる。
審査員の批判も、技術面に対するものが多かった。ネタがダメというわけではないのだ。
ツッコミの方法論だけ普通だなと思った。
いや、従来の漫才と比べれば相当攻めてるのだけど、この大会ではもはや目立たない。

ヨネダ2000

《丁稚採点96点/結果同点5位》

やったねヨネダ。THE Wに続き立派に爪痕は残した。
本当に面白く、私も採点をどんどん上げていったのだ。
THE Wの面白さが漫才でどうなるのかなと思っていたが、結局は同じなんですな。
そしてTHE Wでもって「言語化できない面白さを絵に描くのが上手い」と評したのを今回もそのままスライド。
彼女たちは、最初から「変な領域」を目指して突き進んでいるのではないと思う。自分たちの面白い部分を追求していっただけなのだ、きっと。
「ぺったんこー」のリズムの面白さを見抜く力がすごい。二人ともリズム感が凄い。
テンプレートに乗ってない芸だからわかりにくいと思う向きもあるだろうが、自力で一個新たなテンプレを作ったところが立派。
彼女たちは、新たなテンプレをどんどん生み出していって、世を変えるだろう。
昨年のランジャタイと比較されてたけども、自力が違うと思うけどな。

キュウ

《丁稚採点90点/結果9位》

数年前から気にかけていて、敗者復活戦では必ず注目していた期待のコンビ。
面白いのに、あれ、もう終わりなのというフラットなネタ。
もうひと仕掛け必要だろうに。

ウエストランド

《丁稚採点91点/結果3位で決戦進出》

92点でもいいのだけど、気持ちよさゼロなので1点下げました。
あるなしクイズの答えは結局ないのか。実は答えがあったら、もっと感心するんですが。
「人を傷つける」かどうかで言うと、別に大して傷つけていなかったりする。
傷つけるワードがある種紋切り型だから成り立つんだろうな。
YouTuberで逮捕される人がいるのは事実だし。

決戦に続きます

 
 

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。