彦いち兼好あさか寄席(下・林家彦いち「長島の満月」)

仲入りを挟み、正月らしく曲独楽で三増紋之助師匠。
大声で挨拶していたが、「あ、マイク入ってなかったですね。やっぱりオレ声大きいわ」。
ハイテンション、最速で客席を一体にしてしまう。
最前列のお客を舞台に上げ、即興コンビでトトロの綱渡り。
お客を上げる際にはちゃんとマスクをする細やかさ。

最後、本来まだNGぽいが、再びマスクをして通路で大独楽を回し、棒の上に載せ場内一周してフィニッシュ。
こんなことのできる時代がまた来た!
なんだか感激のあまり変なスイッチが入り、思わず涙腺が緩んでしまった。
やってるのは楽しい楽しい芸なのに。

トリは彦いち師。
前に上がった芸人に触れるのはこの師匠のお約束。
ただいまは愉快なおじさんでした。先輩がああやって頑張ってますよ。
コロナもだいぶ収まりましたね。

西村大臣が寄席を視察に来た話。
視察なのでせいぜい15分。準備できるなら、寄席のほうも「社会生活維持に欠かせない」人を用意できる。
だがいつやってくるかわからない。よりによってアサダ二世の舞台に当たってしまう。
その数日後、寄席が閉まりました。

それから高座をこっそり録音する客の話。これは最近の定番かな。
ちなみに私でっち定吉は、記憶力がよくて高座のもようを詳細に書くことを理由に、「ごくらくらくご」から録音してるといわれのない非難を受けております。

録音ネタの前には、「噺が始まったらすぐメモする人もよく見えます。そういうときには噺を変えます」。
白酒師や百栄師もこんなネタやるね。

釣り仲間の話。ご贔屓筋なのか知らないが、青森に、セミリタイヤしている企業人たちと出向く。
鰺ヶ沢だけのことかもしれないが、感染防止のため連絡先だけでなく、本人特徴まで書く欄が用意されている。
最初の人は悩んで、「黒髪」と書く。
二番目の人は最初の人を参照して「白髪」と書く。
そうなると三番目の人もつられて、「ハゲ」。

楽しいオチは、師匠に悪いので省略します。
「この流れは違う」と、82歳の会長が違うことを書いたという。

彦いち師、マクラにかなりの手応えがあったようだ。
先に出た厩火事とツかない古典落語をしようかと思ったんですが、変えますねと。
古典落語にはめったに遭遇しないから、聴いてみたい気もしたが。
こういうところではまずやらない噺なんです。自分の会ではやってますけどね。私自身の噺です。

というわけで、「長島の満月」へ。
確かに、地方ではポカンとされかねない。
でも、池袋や新宿に出られる朝霞の客なら大丈夫ということか。実にウケてました。

私は2017年の暮れ、池袋新作まつりで聴いて以来。
その前に、TVに出た音源を繰り返し聴いている。
そしてなんと、知っているものよりも相当にパワーアップしていた。
「睨み合い」などと同様1人称の語りが主になる。その性質上、どうしても漫談に近い噺が、落語として違和感のないものに進化していたのである。
「面白い話」が、落語の世界の中で確固たる地位を占めるようになったのだ。

「長島の満月」は、国士舘大学に入学した彦いち師(安田)の飲み会のシーンから始まる。
この場面からして、いかにも新作落語のリアリティを持っている。
そして「ぽわぽわぽわ」と安田の脳裏に浮かぶ子供時代のシーンもまた、いきいきした情景に進化している。

給食に漁師が刺身を持ってきてくれる長島。
オイルショックを経験していない長島。
交通ルールが間違っている長島。
アーノルドパーマーのアンブレラのデザインのシャツを、母が作ってくれる長島。
そして東京土産の伝説。

以前は長島の中学生が本土の水泳大会に出場し、次々プール底に頭を打ち付けるというネタも入っていたのだけど、これはやめたらしい。
池袋では抜いているのかと思っていたが、時間の長いこの日にもなかった。
まあ、十分だということでしょう。

島に信号機ができたエピソードのオチは大爆笑で、なんだか私まで嬉しくなってしまうのでした。
運転する息子に語りかける親父は、荷台に乗っている設定になっていた。
島のオイルショックについて尋ねる相手は安田の母から父に変わっていたし、地味なところも進化し続けているのであった。

2時間強の落語会、アッという間だが満足しました。紋之助師匠が、箸休めにとどまらない舞台を魅せてくれたのも大きい。
帰りは狭い道を通りたくないので、ホールから反対方向に進み、線路を歩道橋で渡り、東口に回ってみた。
東口にも立派なロータリーがあり、松屋もすき家も日高屋もあるが、喫茶店がひとつもない。
なので一駅乗って、隣の和光市のドトールで昨日の記事を書き上げました。
午後5時過ぎにアップした割には、上々の反響でした。いつもありがとうございます。

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作成者: でっち定吉

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