楽大 / 強情灸
小もん / 湯屋番
太福 / 石松と見受山鎌太郎
締め切りのある仕事をなんとか午前中で終えて、神田連雀亭へ。
昨年も行けなかった池袋中席、柳家蝠丸師の芝居が千秋楽。これに行きたかったのだが、短いワンコインにする。
だが、この1時間の席、大当たりでした。
連雀亭には、平日なのに行列がずらり。
あ、昼のきゃたぴら寄席は神田松之丞だ。昼の顔付けまで見てなかったのでびっくり。
以前、松之丞待ちの人が、ワンコインの開始前に2人並んでいたときも驚いたけども、今回は下まで列が伸びていた。
松之丞さんといえば、志らくdisりの凄さに私はちょっと引いている。
いや、志らく師が過剰な自己アピールと裏腹な実力の持ち主だというのはまったくその通り。
それを面白おかしく喋るのも、礼を逸しているかどうかはともかく、相手がそもそも落語界屈指の無礼な男だし、まあ。
だけど、そんなレベルの芸人が使うのと、同じ言語を使って悪態をつく松之丞には正直がっかりだ。
同じ土俵に乗ったりしたら、歴史が繰り返すぞ。
いや、志らくよりはずっと上だとしても、そんな了見だと将来は、小朝師みたいに表舞台から消えてしまうことになるんじゃないかな。
たぶん抜擢もないな。しばらくこの人、聴く気しなくなった。
(※ 書いたとたんに真打抜擢が発表されました)
脱線した。
お昼のお客ばかりでワンコインのほうはガラガラなのかというと、なんと超満員。浪曲の玉川太福さんの力。
私は浪曲については、講談と比べてもさらになじみが薄いが、太福さんくらいは知ってる。
今日は楽しみにしてきた。といっても、噺家二人も目当てです。
三遊亭楽大「強情灸」
まず三遊亭楽大さん。いつも楽しい人。
外の行列を差して「ワンコイン寄席に入れない人が列をなしてます」。
客が笑うと、「私、羨ましいわけじゃないんです。ひがんでるだけです」。
楽大さんは大船渡のふるさと大使だそうだ。出身は埼玉・草加だが。
もともと大船渡のコミュニティFMに出ているらしい。
ギャラはまったく安く、高速バスで往復しないとペイしないんだって。そんなところにでも仕事に行く楽大さんになんとなしに共感する。
一番安い方法は、仙台まで格安バスに乗り、そこから大船渡への公営のバスに乗ること。
仙台で待ち時間があり、気軽に入った寿司屋がミシュラン二つ星の高級店だったというマクラ。
うっかり自分の普段使うレベルとまったく違う寿司屋に入ったらめちゃくちゃ旨かったというだけの話なのだが、大爆笑。
自分は強情なんだとかなり強引につなげて強情灸へ。
楽大さんの強情灸は二度目。聴いた噺で、ほんのちょっとがっかりしたのだが、でもすばらしい内容でした。パワーアップしていたし。
定番の熱い湯のマクラは降らずに入る三遊亭楽大さんの強情灸。
登場人物が舞台の上を跳ね回る。直接出てくる登場人物は男二人だけだが、実際には横浜の峯の灸に出てくる職人やご婦人など、その場にいるかのように描かれる人物もいる。
石川五右衛門の芝居の所作や、三遊亭遊雀師みたいに妙な節をつけたセリフ回しなど、お楽しみ盛りだくさんである。
なんだか、名演出家であり総合プロデューサーである楽大さんの姿すら見える。本物の芝居だったらそんな人はどこにも見えないはずだけど。
過日、舞台に出演するんだというマクラを聴いたが、その経験が早速生きているのだろうか?
結構、本格派寄りの古典落語なのに、いっぽうでかなり面白要素が高いという不思議な芸である。
面白さを過剰に追求はしないが、でも楽しい世界に触れると客は笑う。
兄貴の灸の際、熱さのあまりおかま口調になってしまうのが新しい工夫。なぜか「どんだけー」とIKKOさんになってしまう。
古来からの噺を、独自のメリハリで聴かせる人なので、どんだけーのような独自ギャグはぴたっとハマる。いっぽうで、「バーベ灸」というみんなやるクスグリは、中途半端で意外と合わない。
楽大さん目当てがどのくらいいたかは知らないが、結果的には場内割れんばかりの喝采でした。
柳家小もん「湯屋番」
続いて柳家小もんさん。
大盛況の場内を見て、学校寄席でも、綺麗に列をなして座ってもらうとさみしい。思い切って、広い体育館でも前のほうに集めると盛り上がるなんてエピソード。
マクラを早々に、居候のマクラ。ここから続く噺はいくつかあるが、まあ、普通には湯屋番。
20分たっぷり使って湯屋番をやるということは、新宿末広亭あたりでは決して掛からない、中身の詰まったバージョンであることを予想させる。
そのとおりの湯屋番。いや、本来こんなに中身が詰まった噺なんだ。聴いたことのないエピソード、クスグリも多数入っていた。
普段寄席で聴く湯屋番は、かなり刈り込まれているもの。なぜそうなるか。
これは当たり前で、刈り込んでウケ場だけ残したほうが、パフォーマンスが高いから。
だが、朴訥な小もんさんがじっくり語ると、普通カットされるすべてのエピソードが、残らず生き生きとしてとても楽しい。
別にウケなくたっていいのだ。若旦那が地に足のつかない人物であることをしっかり楽しく描けばいいのだから。
でも、足腰が強くないとこうは語れないだろうなあ。前座の頃から達者な小もんさんであるが、キャリア浅い二ツ目とは思えない、恐るべき足腰の強さである。
スタイルは一見全然違うのだけど、じっくり語る湯屋番に、古今亭菊之丞師を思い起こした。
菊之丞師の湯屋番は、メリハリが豊かで軽い。小もんさんの語りは比べると抑揚がないが、でも楽しさでは負けていない。
相当に雰囲気の違う芸から、同じ目的の追求を感じる。
隅々まで入念にやって、最後は顔中血だらけで「冗談言っちゃいけねえ」。あ、これでもまだフルバージョンじゃないんだ。
噺家さんはいろいろなスタイルで落語を語る。古典落語もいろいろ。
面白落語をする人もいるし、先の楽大さんのような、端正な落語に味付けしていくスタイルもある。それぞれの芸で上手い人がいて、みな楽しい。
だが、小もんさんのようなじっくり聴ける語りを味わっているときはとりわけ、しみじみと落語が好きでよかったなと思うのです。
小もんさんのせいじゃないがひとつ気になった。若旦那が、用があるという亭主に「区役所行って内容証明持ってきて」。
内容証明は郵便局で出すもんだ。なんだか古典落語のクスグリにはときどき、意味不明である前に間違っているものがある。
「じゃ、郵便局行って内容証明出してきて」って言えばいいだけのことなんでね。
最近聴いたのでは「留置所ごっこ」なんてのも明確な間違い。ま、いいけど。
玉川太福「石松と見受山鎌太郎」
すでに二人のいい落語を聴いて大満足。トリは浪曲。
浪曲が落語と一緒に掛けられる定席というのは、ここ連雀亭だけだろう。
高座はどうするのかなと思ったら、講談に使う釈台が出るだけ。前座などいないので、出番を終えた小もんさんが出す。
立って語れるわけはもちろんなく、講釈スタイル。
メクリは奥側へ移動。小もんさん、メクリを替え忘れて客に指摘されていた。意外と天然なんだ。
三味線の女性(曲師)が先に登場。ずいぶんと美人の若いお姉さん。
このお姉さんが、太福さんのギャグに普通に笑ってるのがなんだかほほえましかった。
それから満を持して太福さん登場。浪曲界には二ツ目なんてないし、敬称が難しい。先生かな。
浪曲は準備が大変なので、トリになることが多い。トリの人はモギリをするルール。今日は、「ワンコイン寄席ですが大丈夫ですか」と客に言わなきゃいけなかったと。
NHKで流れた浪曲をたまたま観た際、太福さんの「おかず交換」というしょうもない(褒め言葉です)新作浪曲を聴いたが、今日は古典。
次郎長伝から。有名な、食いねえ食いねえ寿司食いねえの三十石船、と思わせておいてその次のエピソードをと。
そして落語と違って、いいところで終わっちゃいますと。
講談でも浪曲でも、次郎長伝はわかりやすくていい。落語ではあまりやらないが。
さて、浪曲についてはわかったようなことを言うつもりはないが、とにかく心地のいい一席。
侠どうしの、意地の張り合いがとても楽しい。
そして太福さん、メタ的な作りがとても上手い。
街道筋の親分、鎌太郎について「馬鹿は死ななきゃ治らない」という節が入った後、鎌太郎のセリフで、「今、馬鹿は死ななきゃ治らないと、節まで付けて歌っていなさらなかったか」。
それから、特に脈絡ないのだけど劇中に「太福がCD出した」と突如入れ込む。
関係ないメタギャグ入れること自体に関心はしない。入れておきながら、ストーリーをまったく損なっていない点がすばらしいのだ。
たぶん、遊ぶときは太福さん、本気で遊んでいるから楽しいのだろう。
そしてマクラで振った、いいところで終わっちゃうを本当にやる、と見せかけてちょっと続く。
いやあ、楽しかった。太福さん、人気なのがよくわかる。
釈台だけあればできるなら、もっと浪曲も一緒の寄席があってもいいですね。
大満足の連雀亭でした。