上野広小路亭しのばず寄席5 その2(桂優々「阿弥陀池」と師匠の釈明)

開始時は半分ぐらいの客の入りだが、どんどん入りそこそこ盛況。
おばさんの団体さんは、A太郎師の後援会らしい。
このおばさんたち実に自由で、開演中よく喋る。そんなに気になったわけではないものの、よくはない。

前座は三遊亭美よしさん。前回来た際も顔付けされていたが、間に合わなかった。
たぬきに入る。
女性だからなんとなく、またぐら・ふんどしは抜くかなと思った。だがしっかり入れる。
当然狸札だと思っていたが、狸賽でびっくり。
前座から「賽」のほうを聴いたことなんてない。
美よしさん、前座の香盤筆頭でもうすぐ二ツ目になるので、やってみたいということなんでしょう。
もっとも二ツ目が狸賽やるかというとそうでもない気がするけど。二ツ目は看板のピンを好むと思う。

ピンの目がケツの穴もしっかり入れる。
品よくやれば、赤いのが痔でも大丈夫。
そして、改変されたサゲにはこのくだり必要不可欠。このサゲは誰かから聴いたことがあったかもしれないが、オリジナルかもしれない。
前座のサゲ自己開発は考えにくいが、絶対ないともいえない。

美よしさんは演技も自然だし、ウケ狙いのあざとい技もなく、実に上手い人である。

一席終えた美よしさんが、高座の後ろから釈台を取り出す。
桂優々さん。上方落語家だから二ツ目ではないが、キャリアからはその扱い。もうすぐ神田連雀亭も卒業せざるを得ないだろうが。

「桂優々と申します。師匠は雀々です・・・なんで笑うんですか。昨夜師匠の記事が出ましてね。師匠のニュース知ってる人? あ、少ないですね。ご存知の方が多かったら知ってること話そうと思ったんですけど、やめときます」
ちょっと残念。

「でもうちの師匠が人気だからニュースになるんですね。私が不倫したって、話題にもなんにもなりませんもん。今日私、緊張してやって来たんですよ。マスコミが待ち構えててインタビューされたらどうしようって思って。でも、誰もいませんでした。なのにですね、私のかみさんが浅草演芸ホールで働いてるんですが、かみさんに取材があったそうなんですよ。なんでや! まず弟子のところに来るやろ」

優々さんの奥さんが浅草演芸ホールのスタッフだというのを初めて知った。
優々さんは浅草に上がったこと、たぶんないと思うけど。
お子さんもいて、家族で埼玉で暮らしているのはマクラで聴いて知っている。
なので吹田市在住と書かれたWikipediaは古い。
ちなみに師匠は、本日31日のしのばず寄席のトリである。優々さんも、師匠に興味のある方はどうぞって。私も駆けつけますとのこと。

ともかく師匠の話でウォームアップが済んだらしい。
おかげで本編の阿弥陀池はとてもよかったです。今まで聴いた優々さんのベスト。
阿弥陀池、東京だと新聞記事だが、ギャグを入れるための噺である。どうしてもそうなる。
だが落語というもの、ギャグを入れれば入れるほど、どんどん噺が固くなり、伸びやかさを失うものでもあるのだ。
阿弥陀池は、この二律背反に挑む実のところ高度な噺なのだ。私はそう理解している。
少なくとも主人公(おなじみ喜六だと思う)については、ギャグを入れる意識ではなく自然にボケていかないと成り立たない。
あとは音楽のようなリズム感、グルーヴ感。
泥棒が米屋の心臓を匕首で刺すシーンで、左手の小拍子を「タン」と入れるのがとてもリズミカル。

ギャグ、一般的なものより多かった。
西宮の名物? 甲子園か、とか。
英語ではエレファントと言うとまでヒントを出してるのに「ぞう」が出ないとか。
えべっさんは西宮で甲子園の次の名物だそうだ。
その変わり、尼さんの乳むき出しは抜く。

絶品でした。今後この人に遭遇するのが楽しみになる。

釈台はそのまま。次が日向ひまわり先生だからである。
だが、美よしさんがもうひとつ、パイプ椅子を出してくる。
ひまわり先生が座るらしい。
釈台の後ろにパイプ椅子という、不思議な光景。
喬太郎師みたいに、あぐらをかくために釈台を使う人もいるのに。
ひまわり先生になにがあったのかは、一切語らないのでわからない。
初心者がもしいたら、「講談ってこういうスタイル」と思うかも。

魚家本多、という演目。
本多家のご落胤が、魚屋をしていて、腰にぶらさげた「水呑」のおかげで父と巡り合う。
魚屋の長セリフが見ものである。ただ眠くて、ちょっと魚家の出自のあたりが飛んでしまった。

講談も浪曲も30分ある、バラエティ豊かなしのばず寄席。
続きます。

 
 

落語の魚家本多はこちら

作成者: でっち定吉

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