上野広小路亭しのばず寄席5 その3(ナオユキのダメ人間ブルース)

釈台が引っ込んで、アディーレA太郎師。
団体のおばさんたちについて、私の後援会の人たちですと。寄席に来てくれるのに、私の会には来てくれないんですが。
まだ、(仲入りの)師匠、桃太郎が来てないんです。師匠はいつも楽屋に来るの早いんですけど。
でもまあ、私の持ち時間、30分ありますから。30分って長いですよ。

「昔昔亭」をちゃんと読んでもらえません。じゃくじゃく亭とよく言われますが、これはまあわかります。今昔のじゃくですから。
わからないのは、この間国立演芸場のライブラリーを(勉強で)観にいった際に、係の人に「きゅうきゅうていさんですか」って言われたんですよ。
昔にきゅうって読み方ないんですけど。たぶん、「新旧」なんですね。

国立演芸場のスタッフも頼りないところがあるのは事実。
私も、「本日の主任はやなぎ・・・りゅうていさりゅうです」って言われたことがある。
それにしても「○○亭さん」はなかろう。

広小路亭ではやらないのかと思ったら、やっぱり撮影会開始。いいよもう。
そしてやっぱり「撮らない人は頑なに撮らないですね。スマホなんだから、後で消せばいいのに」と。
電源落としてんだよ、こちとら。

「喜ばれる一方、落語好きからの評判がどんどん落ちてきます。でも、人間国宝・柳家小三治師匠に、そういうことはどんどんやんなさいと言われましたもので」

軽く腹立つ人だが、落語は上手い。
新作もやるが、古典落語を軽快に演じる。

大工の棟梁、江戸っ子に言わせればとうりゅうを振る。時間が長いから大工調べ。
しのばず寄席では、仲入りでなくても大工調べを出せるのである。

意外なことに、与太郎が非常によかった。
A太郎師の与太郎ものは初めて聴く。
与太郎を大きくひねらない。フォームも大きく変えずに、握りとタマの抜き方だけで出した与太郎という感じ。
これがいい。与太郎のボケはすべて作為が感じられず、そして非常によくウケる。
極めてナチュラルな与太郎。そんなものが存在するかどうかは別にして。
与太郎が主役の噺は持ってるのかな。かぼちゃ屋とか、ろくろ首とか聴きたいが。道具屋や牛ほめではなくて。

いっぽうで、棟梁も悪くないのだけど、肝心の啖呵がイマイチでした。言葉のキレがよくないんだもの。
初めて大工調べの啖呵聴いた人には、3分の1は内容伝わらないんじゃない?
もっとゆっくり喋って、テンポを上げ下げしていけばスピーディに聞こえるはずだけど。
大家はそれほど因業に見えない、ニュートラルな立ち位置。大家の正義もよくわかる。

私、金明竹ぐらいで喜んでないで、大工調べの啖呵覚えようかな。

出てくるときもだが、退場時もゆっくり時間を掛けて去っていく、実にいやらしいA太郎師。

続いて本日のお目当てであるナオユキ先生。
色物は持ち時間15分。
ナオユキに遭遇するのは2020年の夏、浅草以来。
お茶の間寄席では楽しませていただいているのだが、この人はライブのほうが圧倒的に楽しいと再確認。
演者のほうも、広い浅草より広小路亭ぐらいのほうがやりいいみたい。
客と直接コミュニケーションは取らないのだが、実はかなり対話している。
無観客でもできないことはないだろうが、そこは寄席演芸。

「その日も朝から二日酔い」
「商店街の酒屋のカウンター、ぐでんぐでんのオッサンが」
と、冒頭から知らないネタが2本出て感激。若干、フレーズが異なってたらすみません。
もう1本あった。新ネタが常にあるんだ。
知ってるネタも、知らないネタも実に楽しい。
今回は100%、面倒くさい酔っぱらいネタ。
どうしようもない酔っぱらいどもを優しくスケッチしていくナオユキ。
いよいよできあがってこの世の秩序を壊していくダメ人間たち。だが、実のところツッコんでる側も同じ種類の人間。

仕事もろくにできず、会話はことごとく面倒くさく、嫁は出ていったが理由はわかっておらず、安酒のあと一杯がやめられない、そんなどうしようもなく、しかしどこか愛すべき連中。

客の側は、ちゃんとしている人も、どうしようもない人もいる。
だが、ちゃんとしている客も、じわじわ酔っ払いたちにシンクロしていくのだ。

ああ、これは文学だなあ。
酒場の吟遊詩人。
吉田類は酒場を描き、ナオユキは酔っ払いを描くのだ。
どんどん幸せになってくる。
寄席のハネたあと、一杯やりたいではなくて、あんなダメ人間になるまで飲んでみようか、なんて思う人も中にはいるのでは。いませんかそうですか。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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2件のコメント

  1. いつも高座の様子が目に浮かぶような記事を楽しみに読ませていただいております。

    今回は、当日直前まで行こうか迷いながらも行けなかった寄席の模様をありがとうございます。

    この日の上野広小路亭、豪華な顔ぶれなのに行けなかったことを後悔してます。アディーレCM大スター(自称)写真タイムのためにデジカメまで充電してました。(スマホは電源オフが基本ですから。)ヨネスケちゃんねるでの小痴楽師によるとA太郎師は前座時代から開口一番でマクラを入れ、表から楽屋に「今すぐ下せ」と電話が来るくらいの内容を話す目立ちたい・人とは違うことをしたい症候群のようです。

    ナオユキ先生、つい先日の「笑点」出演時はお客さんがよく笑っていました。でも「浅草お茶の間寄席」だと客席の反応が薄いのに比較的頻繁に登場していますよね。僕はそんな録画を繰り返し見てはひとりで大笑いしてるナオユキ中毒者です。世界観がたまりません。ツッコミのツボがツボにはまってしまいます。寄席で飲酒OKになったら真っ先に見に行きたい芸人。定吉様もナオユキ先生をお好きでいらっしゃることを知り、嬉しいです。

    1. いらっしゃいませ。
      私がブログでやりたいことを全面的に肯定していただき、こちらこそ感謝です。
      高座の模様は書いちゃいかんなんて人もいますから。

      A太郎師は「撮らない人は頑なに撮らないですね」と言葉を発しますが、客を拒絶した格好になるのはやめて欲しいなと。シャレでもいけません。

      ナオユキ先生、初めて聴いたのがここ広小路亭だったのを思い出しました。ブログを始めるずっと前で、今のネタでもありません。
      当時爆笑だったのですが、寄席としては現在のジワーっのほうがずっと似つかわしいし、楽しさも勝っているなと感じます。

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