弟子の高座の際にはまだ来ていなかった昔昔亭桃太郎師。
以前高座で聴いたところだと、基本的に昼席はトリ以外では出ないと事務局に頼んでいるそうで。この日は例外となる。
「こんにちは」。客も数名「こんにちは」。
桃ちゃん師匠は寝るのがいつも3時。正午に起きてくる。今日は出番があるから10時半に起きた。だから眠い。
桃ちゃんは、20日までは寄席に出づっぱり。休みがなかった。
ゆっくりしようと思っていたら、転んで頭を打ってしまう。慌てて翌日、CTを受けにいく。異常なし。
タクシーで病院から戻ってきたら、タクシーの上部にまた頭を打ってしまう。またCTを受けにいったが、放射線の関係で日を置かなければならない。
3日後にまたCTを受けて、異常なし。
お大事に。
奥さんとのなれそめの話。
会社のパーティに呼ばれ、そのとき逢った「一番ひどい」さゆりちゃん。
桃ちゃんが大塚でさゆりちゃんが巣鴨なので、相乗りタクシーで帰ることになるが、さゆりちゃんはツンツンしていて感じが悪い。
自宅から離れた場所でタクシーを降りたさゆりちゃんを、運転手に轢いてくれと頼む桃ちゃん。
現代基準ではNGなネタに映るが、全然そんなムードはない。
先日収録中なのに噺を間違えてやりなおした古今亭寿輔師の「身投げを助けようとしたが顔が泉ピン子だったので投げ込んだ」ネタはどうかと思うのだが。演者のモードの違い。
このマクラから進む噺は、「結婚相談所」。桃ちゃんの寄席の定番だ。
「昔昔亭桃太郎 結婚相談所」で検索したら、当ブログがヒットして驚いた。次からは、今日の記事がヒットするようになるはずです。
鷺とりから来たらしい、「どこから来ました」「家からです」「家はどこにありますか」「八百屋の隣です」のやり取りが最高。
そして大した意味はなく、「歌が得意」から無理やり裕次郎に進む。
歌は「夕陽の丘」。桃ちゃんから聴いたのは初めてだ。続いてお約束の「嵐を呼ぶ男」も。
「大みそかと元旦」だけ入浴する男に相談員が、「あなたそれ、大みそかとお盆にならないの。いくらか」。
とここで次が出ない桃ちゃん。ちょっと考えて「・・・気分も違うでしょ」。
「臭みが違うでしょ」のはずだが。自作の噺もしばしば忘れる桃ちゃん。
お兄さんの学歴を聴いていくくだりでも、「東邦大学」を二度出してしまい、照れてる音源を持っている。
でも、全然いいのだ。
仲入り休憩の際に、連載初日に出した演題の空白を埋めていく。
仲入り後の幕が開くと、また釈台が出ている。浪曲でおなじみテーブル掛けはなく、むき出し。
そして曲師の沢村まみさんが着席済。
ゆっくり袖から東家孝太郎師が登場。
落語の寄席に一緒に出していただけるのはありがたいことですと。
落語好きの私からも、ありがたいことですけども。
私、桃太郎師匠が大好きで。せっかくなので今日は桃太郎師匠のおなじみのフレーズを浪曲の節でうなってみますと孝太郎師。
「せこい茶碗だねえ」を「これじゃ畑の野良仕事だよ」まで。ツカミばっちり。
このネタ、桃ちゃんはもうやらなくなりましたね。
幡随院長兵衛伝から、「長兵衛嫁取り」とのこと。
浪曲というのは実にもってムダの多い芸だと思う。
悪口じゃないですよ。実に贅沢な芸だということだ。
なにしろ「長兵衛嫁取り」のストーリーはこれだけ。
- 侠客長兵衛に道場の娘おきんが惚れる
- おきんがたちの悪い侍に囲まれるが、長兵衛が救う
- おきんは恋わずらい、放っておくと死んでしまう
- 間に親分、伊勢屋清兵衛が入り、長兵衛にこれこれこういうわけだ、嫁を持ちなよ
- 親分の前だがあっしは侠客、いつも命がけで女房は持てやせん
- 長兵衛、お前の言うとおりだ。俺も女房を離縁する。
- 離縁ブームが起き、三下り半を突き付けられた、侠客の女房が25人
- 全員をなだめるため、長兵衛ついに嫁を取る
落語だったら12分でできてしまうのを、30分描くのが浪曲。
実に楽しい。
ヒザ前は三遊亭萬橘師。
マクラは家族の噺。娘さんが正月の特番を見ながら、「お父さんの落語が聴きたい」と言ったという。
楽しみにしていた人だが、なんだかこの日は。
「手水廻し」というネタ自体が、もともとピンと来ないのもある。
ちょうず廻してくれと言われて「長い頭」を廻して見せる、実にバカげたコミュニケーションギャップの噺。
楽しそうなのだけど、演者が自分自身で噺の骨格を作り上げなければならない、手間の掛かる一品。
なんだかその、萬橘師の作る骨格がな。すごく工夫しているのはわかるのだけど。
上方のお客さんに「手水を廻してくれ」と言われる女中のお清。わからないので主人に相談する。
このあたりで、客に「ちょうずってなんです?」と訊けば済むことなのだが、客がすでにカンカンで、訊くに聴けない状況を作り上げていたり。
ギャグも面白いんだけども。長い頭を振り回して宿屋があちこちボロボロだとか。
ちょうずは本当は、蝶’ズ(複数形)じゃないのとか。
手水を廻すまで朝ごはんを食べないと怒るお客さんを放置し、主人と番頭が10日掛けて大坂に向かったり。
でもハマらなかった。
落語は実に難しい。演者にとってだけでもない。
「楽しい演者から愉快そうな噺を聴いたがそうでもなかった」という客の心情を掘り下げるのにも、手間がかかるのだった。