神田連雀亭ワンコイン寄席46(下・笑福亭希光「狸の化寺」)

三遊亭仁馬さんの「宮戸川」。
開口一番のはらしょうさんのドキュメンタリーという名の漫談が面白すぎ、ちょっと食われ気味だったかもしれない。
だが、私はいいと思ったのでそのことを書く次第。

噺の組み立て自体が非常にスタンダード、といえばいいがありきたりである。
締め出し食べちゃった、をしっかりやるとか。おじさんの家は国後島だとか。
昔はウケたのかもしれないが、今やこれが宮戸川のスタンダードだから。
そんなので脱落してしまった人もいるかも。
だがスタンダードゆえに、地に足がついている。そして演者がブレずに語っていくので、徐々にちょっとしたジャンプが面白くなってくる。
全体のトーンを落ち着かせることにより、ごくわずかなハネっぷりで聴き手にグッと来るわけである。
半七の朴念仁ぶりをことさらに描写しないのもいい。この主人公は、噺のボディを形作るだけなのだ。

そして仁馬さん、お花と、おじさんの目つきが巧み。
お花はちょっとした下心が浮かび、おじさんは露骨にいやらしい(が下卑てはいない)。
おじさんのいやらしさに、笑点の小遊三師を連想した。もっとも高座の上の小遊三師は、あの武器を一切使わないけど。

おじさんは基本的に半七を「半坊」と呼ぶが、1か所間違って「半公」と呼んでいた。そりゃ建具屋だ。

おじさん夫妻は昔話をたっぷりやる。
その前、戸が叩かれてから立ち上がるまでの、おじさんの独り言が長いこと。
若い仁馬さん、なぜかおじさんの描写に噺の攻略の突破口を見出したようである。
おじさん、世話焼きで早飲み込みで、そんな背景を知り尽くしてないと描けなさそうだが、そんなことはないのだった。
おじさんは宮戸川の狂言回し。宮戸川は、狂言回しを使って、若い男女のみずみずしい情感を描く噺。
若い男女を描くためには、若い演者もおじさんを攻めないとならない。
この噺は若い人のほうがいいのだが、若い人だからって、若者を強調しなくていいのだ。
なるほどひとつわかった。宮戸川という噺、中途半端な高座も聴くのだが、焦点が定まっていないからだろう。
若手もおじさんをもっと攻めてみるといいらしい。
おじさんの、背景までは理解できなくても、表面に出てくる要素を描けばものになるのだ、きっと。

トリは笑福亭希光さん。
鶴光一門では、弟弟子の茶光さんがZabu-1グランプリや笑点特大号にも出て、ちょっと売り出し中であるが、私は希光さんが好きだ。
高座が明るいのがいい。標準的なものよりちょっとだけ明るくすると、パアーッという印象が残り、スベリはしない。
この人も、羽光師や茶光さんと同様、芸人あがり。

それにしても連雀亭に上方落語はよく登場するが、見台代わりに釈台を使うのを一度も見たことがない。
講談も浪曲も掛かる寄席で、釈台はあるんだけど。
使ってはならない不文律があるのかどうかはわからない。
とにかく、上方落語だからって別に見台はいらないんですよね。
上方落語の違いを強調しすぎる見解に、違和感を覚えてならない最大の理由がこれ。

いやー、今の落語はちゃんとした古典でしたけど。
一席目はなんですかあれ。
はらしょうさん、本当にスーパーにバイトのためにもう出ましたよ。
時給いくらですかって訊いたら、もう12年やってるからね・・・1,020円だって言ってました。

(※ 東京都最低賃金は1,072円だから、ウソです。野暮だが念のため)

はらしょうさん、フリーの落語家で立場が微妙ですって話をしてましたけど。
あの人フリーだから真打にならないんですよね。
我々は協会(芸協)にいますから、真打昇進は理事会に掛けられて、「いいんじゃない」で終わりです。
まあ、中には師匠が「あいつは真打にしない」という例もありますが・・・笑ってますけどみなさんお詳しいですね。
はらしょうさんと春雨や風子ねえさんだけ、いつまでも連雀亭のベテランとして出てるかもしれませんね。

ある真打のアニさんは(名前出してた)、バイトでコンサートホールの列の整理をしてたそうです。
そうしたら、神田伯山さんがやってきました。演者として。
目が合ったそうですが、伯山さんはそらしました。
後日楽屋で会ったとき、アニさんが「先日は・・・」と話を持ち掛けたところ、なんのことですかと知らんぷりだったそうです。
たぶん先輩のバイトしてる姿を見たくなかったんでしょうが、でも当人は目が合ったんだから一言欲しかったと。

ある師匠(これも名前出してた)が土木工事で働いているという噂が楽屋にありまして。
なんだか仕事をよく断るんですが、「俺、忙しいんだよ。地元のケーブルテレビでレギュラー持ってるからさ」が口癖で。
そんな番組、ないんですけど。
あるとき、この師匠にお年玉をもらったら、ポチ袋に泥がついてました。

時計を見て、噺もしますからねと。サゲが好きなんですと。
土木工事がフリで、「黒鍬」の噺。
4年前にここで聴いた、「狸の化寺」である。

結構印象が強い一席だったのだが、そのときからずいぶんコンパクトになっている気がする。
実際に、10分そこそこの本編だったと思うのだ。
ムダをそぎ落として進化したのだろう。
展開が早いなとは思ったが、さりとてどこが抜けたかはわからない。

土木工事の黒鍬の集団が、ひとっところに31人泊まるため、廃寺を借りる。
村のもんは、化け物が出るさかいよしなはれと言うが、そこは棟梁・火の玉の領五郎。動じない。
寝ずの番をする棟梁に、少女が手招きをする。すかさず化け物退治に取り掛かる。

サゲなんて忘れていたが、なんのことはない金玉ネタだった。

田舎で化け物がごく普通に出てくるというのは、「七度狐」や「夏の医者」と同じ。
のんびりしたムードが漂い、とても楽しい。

というわけで、禁断であるはずのバイトの話3連発という、おかしなワンコイン寄席でした。
希光さんは、この後昼席にも代演で入っていた。
昼席は春風亭一花さんが出ていたから、さぞ賑わったのではないか。
一花さんは素晴らしい噺家だが、こちらもよかったですよ。

(上)に戻る

 
 

「狸の化寺」収録

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。