《小噺その1》
小児は白き糸のごとしなんてことを申しまして。
遊び方ひとつにしても、住んでるところでずいぶん影響を受けます。
学校のそばでは学校ごっこ、お寺のそばでは弔いごっこ、刑務所のそばでは懲役ごっこ。
そして、寄席のそばでは噺家ごっこをやったりするという。
「どうしてお前はそんなに小遣い使ってくるんだよ」
「しょうがねえじゃねえか、みんなで噺家ごっこしてんだもん」
「お向かいの金ちゃんなんか、反対に小遣いもらってきたっていうじゃないか」
「だって金ちゃん、前座だもん。あたいは真打だからさあ、たまに前座に小遣いやらないといけないんだよ。でもあたい、年功序列でまとめて昇格した真打だからさ、人気がねえんだよ。いっつも客が少なくて。前座に小遣いやると赤字なんだよ」
「しょうがないね。おっ母さんが頼んでやるから、お前も前座にしてもらいな」
親のおかげで出世が取り消されたりなんかするという。
《小噺その2》
「どうしてお前はそんなに着物汚してくるんだよ」
「しょうがねえじゃねえか、みんなで噺家ごっこしてんだもん。座って噺をしないといけないからさ」」
「お向かいの金ちゃんなんか、一緒に遊んでてもちっとも汚してないじゃないか」
「だって金ちゃん、お席亭しくじって、寄席に出してもらえないんだもん。だからさ、お席亭のご機嫌うかがおうとしてさ、毎日寄席の前をうろうろしてるんだ」
「隣のみっちゃんも汚してないね」
「みっちゃんは、この間師匠しくじって破門になった」
「しょうがないね。おっ母さんが頼んでやるから、お前も破門してもらいな」