亀戸梅屋敷寄席29(中・三遊亭愛楽「辰巳の辻占」)

笑点のアシスタントでおなじみの三遊亭愛楽師は、なんと2017年の年末以来の遭遇。
この師匠に関しても、辞めた弟子(愛九)がツイッターでグチグチつぶやくという、師弟トラブルの萌芽があった。
だが、いかんせん弟子のほうがポンコツ過ぎ、世間の同情を買う能力もないので、なにも起こらず済んでいる。

天気が悪いので、雨雲レーダーを確かめ、いつもより早くやってきた愛楽師。
亀戸梅屋敷だけピンポイントで狙ったような雨(そうかな?)。犯人は楽屋にいるあいつ(萬橘)だって。

愛楽師は、WBCの話を。
ついこのあいだサッカーで盛り上がりましたが、野球のほうがすごいですね。
大谷の凄さを語り、そして客席の反応を見て「あれ、野球お嫌いですか?」
土曜日に行われたことと真逆で、嬉しくなってしまった。

そりゃまあ、野球の嫌いな人もいるし、野球が盛り上がることでイヤな思いを増す人もいる。
その感性も尊重されるべき。
だが高座というものは、まずは客の最大公約数に合わせて行くのが当たり前。そこからアジャストしていくべきものであり。
だから、近年まったく興味の持てない相撲の話をされて、私は反発したりしない。最大公約数を理解しているから。
特に円楽党は相撲の噺が多いが、気にもしない。
とんがって逆を行く、という手法も直ちに否定されるべきではない。だが、なんの脈絡もない英雄disをおっ始める瀧川鯉八はやはり感性がおかしい。

久々の愛楽師、マクラを振りながらの所作が実に楽しい人。
昔からこういう感じだった気もするけど、かなり意識して所作をパワーアップさせたに違いない。
話に合わせていきなり手をバッと広げたり。
勢いを高座に持ち込むこういう人いるよな。
ああ、これは柳家喬太郎師のワザだ。それをもっと意識してやっている愛楽師。
こんなの、あとは故人の橘家圓蔵ぐらいまで遡らないと思いつかない。

どうマクラ振ったのか忘れたが、辰巳の辻占へ。
寄席の仲入りで出せる貴重な郭噺である。
人の行き死にを扱うこの噺を、まったくマイナス面なく描く。
相手のお玉の描き方が、マンガだから。
とっとと大川まで行って、とっとと心中一件済ませて帰ろうという、そのテキトーな感じがたまらない。
実にいい気持ち。
主人公がなぜ金を持ってるかは、無尽に当たったのではなく親の遺産だった。叔父さんが預かってくれているのである。

仲入り休憩後は三遊亭好一郎師。この人も目当て。
真打の披露目以来である。
もともとマジメっぽい人だが、なんだか飄々とした味わいがプラスされていて、高座に向かい合うだけでいい気持ち。

私は大学を出てすぐこの世界に入りましたから、世間のしきたりに疎いところがあります。
前座の頃両国に出て一席やったあと、次に出た二ツ目の先輩が、それはスベりまして。
本人は逃げるように帰っていきました。
その後、トリの師匠が楽屋入りして、ネタ帳を見ながら私に尋ねます。「こいつ(二ツ目)のデキ、どうだった?」
私は言葉を選びながら、「おスベリになりました」。
そんなときに敬語を使うんじゃないよと叱られましたけども。

勝手な想像だが、円楽党の二ツ目じゃないんじゃないかな。落語協会の新作の人じゃないかな。

松公がアニイのところへやってくる。
松公ね。柳家では「金明竹」や「ろくろ首」に出るキャラなんだが、他派ではこんなのも与太郎でやるのが一般的。
ご隠居さんが105歳で大往生したので悔やみにいかなければならないのだが、なにせこの松公、いつもゲラゲラ笑っている男。
どうしたらいいか相談に来たのだ。

ああ、実に珍しい「胡椒の悔やみ」。
珍しすぎて、先日「現場で拾った珍しい古典落語」シリーズで取り上げるのすら忘れていたよ。
柳家三語楼師から聴いたのが最初で最後。
登場人物が松公なので、好一郎さんも落語協会の、それも柳家の師匠に教わったものであろうか。

アニイがゲラの松公に、とっておきの秘訣を伝授する。
胡椒の粉を持っていけ。これを飲むと、涙が止まらなくなるから悔やみにぴったりだ。

実に呑気な噺。
珍しい噺に逃げた感はまるでなく、しっかり与太郎ワールドを描きこむ好一郎師。
大往生した隠居に、松公は非常に可愛がられていたのだ。その松公が、涙をこらえて悔やみを言うので、感動する隠居の息子。
楽しいサゲ(知らない人でも想像できる)が付いている。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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