上原寄席(上・一龍斎貞鏡「青葉の笛」)

土日は落語会が無数にある。
代々木上原の「上原寄席」というところに出向いてみる。
会の存在は以前から認識してはいたが、来るのは初めて。
予約不要で当日2,000円。
渋谷から100円のハチ公バスで行こうと思ったのだが、Google Mapで表示されるバス停にハチ公バスは来ない。
調べるのもなんなので、結局歩いてしまう。
代々木公園を抜けていく。もう桜も咲いていて、にぎやかだ。
代々木八幡付近で休憩しようと思ったが、やたらと混雑している街である。

牛ほめ美馬
千早ふる扇太
源平盛衰記 青葉の笛貞鏡
(仲入り)
崇徳院小せん

今回の上原寄席のトリは柳家小せん師。
好きな師匠で四半期ごとには聴きたいといつも思うのだが、そんなには聴いていない。
それから、講談の一龍斎貞鏡先生。
芸術協会員でもある日本講談協会所属の講談師と異なり、講談協会の講談師はそうそう聴く機会がない。
なにせ私はこの人を、笑点メンバーに推奨したのだから、聴かなくちゃ。
推奨というか、予想したのだ。

落語の寄席にはそうそう出られない貞鏡先生だが、先日は「桃組」に呼ばれたそうで。
好楽師匠の浅草登場ほど珍しいわけでもないが、たびたびあることでもない。

今日はこの人の高座を先に。
ところで、貞鏡先生と書いてるけども、まだ二ツ目。
ご本人が語るには、真打(今年10月)に昇進したら、先生になります、それまでは「貞鏡ちゃーん」でいいですよとのこと。
噺家なら、二ツ目は絶対に師匠とは呼ばない。
だが、講談の場合は同じ階級でも、先生を付けて構わないと思っていたけど? 色物だったら、芸歴が浅くても先生だし。
まあ、今さらさん付けもなんだ。

貞鏡先生の高座は、変わったところで一度だけ聴いた。
笑点特大号の収録である。
2018年の夏。怪談特集で、人間国宝・貞水先生(故人)も出ていた。

さて貞鏡先生、客を掴むのがむちゃくちゃ速い。
内容は、変わったことは言ってない。
なんの罪もない釈台をパンパン叩きますとか、出版社の講談社も、講談本がルーツなんですよとか。
華やかさと、言葉のメリハリで、もう掴まれている。
声がまた、なんでもないのに常に啖呵が聴いていて、引き込まれます。

笹塚生まれですと渋谷区アピールも欠かさない。
今日は、横浜線の中山で90分やってきて、もうヘトヘトだって。
釈台には、貞水先生と、父・貞山の千社札が貼られているそうな。

今そこで、扉の取っ手に着物の袖を引っ掛けてしまいまして、この通り破いてしまいましたと客に見せる。
お客さんに、あれと思われたら嫌なので、先にバラしてしまいます。
カッコよくて美人なのに、まさかのドジっ娘アピールかい。貞鏡無双。

今日は源平盛衰記を読みますとのこと。
主役は熊谷直実。
一ノ谷の戦いにおける、平敦盛との対決である。
合戦前夜、直実と息子小次郎は、切ない笛の音を聴く。これこそ敦盛の笛。
船に逃げ帰る平家の軍勢に直実は戦いを呼びかける。それに応えたのが美少年敦盛。
直実は、息子と同い年で面差しも似ている敦盛を助けてやりたいが、源氏の軍勢も迫っているのでそうはいかない。
敦盛は男らしく堂々首を掻かれる。

客席は貞鏡先生の語りに固唾をのんで静まり返っている。
講談も、ちゃんとした長講をたまには聴くべきだなと思った。寄席の15分もいいけども。
ちゃんと文学的感動が伝わってくるのでありました。
武士道も親子の情愛も、現代に脈々と生きているではないですか。

開演前の挨拶で、2番目と仲入り前と順番入れ替えますって言ってた。
もうすぐ真打なんだから、それが妥当でしょうな。

会の冒頭に戻る。
前座は鈴々舎美馬さん。みーま。
落語協会の前座香盤の2番手だから、もうじき二ツ目だ。私は初めて。
実にかわいい人。

落語(牛ほめ)のほうは、即物的なギャグを入れないのはいいなと思った。
だが、長い。18分ぐらいやってたか。
与太郎が鼻で息をしてみるシーンも入るし、普請ほめも唐画の茄子が入ったり、フルサイズ。
別に悪くないんだけども、ちょっと長いなと感じてしまった。まあ、現時点での評価はそういうことです。

二ツ目の扇太さんにちょっとガッカリ。
前座(扇ぽう)時代に黒門亭で聴いて感心したことがあるのだが。
声はダンディでいいのだけど、妙に滑舌が悪くなる。なんでだ。
それを除けば、どこが具体的に悪いというのではない。
だが、千早ふるの「豆腐屋になった」くだりがまるでウケない。
落語をよく知っているらしいこの会のお客が、すでに脱落気味だったからである。
変なクスグリ入れて白けるとか、そんなことは全然ないのに。
落語とは、つくづく難しいものだと思う。
まあ、先はまだまだあると思うけども。

トリの小せん師に続きます

 

作成者: でっち定吉

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