国立演芸場20(林家正蔵「淀五郎」)

夜席は出歩きにくい私なのだが、たまには解放される。
解放される月曜は、夜席の両国寄席に行ってみよう。トリは三遊亭兼好師。
その前にひとつ出向いてみる。国立演芸場。
4月上席の主任は、林家正蔵師。
毎年恒例のこの芝居は、2017年以来だから6年振り。

掛け持ちだから、仲入りから入ることにする。
3割引きで、1,540円。
有楽町からお堀に沿って歩いていった。桜は散り際であるが、悪くない。
一度このルートで失敗したことがある。学習したので、桜田門駅の構内を抜けて皇居側に出る。国立劇場の正面で横断歩道を渡るといい。

入りは3〜4割というところか。
仲入り後のクイツキは、林家はな平師。
つる子さんの抜擢で盛り上がっているであろう一門であるが、はな平師もひっそり芸術祭優秀賞を受賞したばかり。

すっかり街も平穏を取り戻してきましたねと。
今日はソーシャルディスタンスではなくナチュラルディスタンスです。
学校寄席ではシャレが通じない。「これドイツんだ、オランだ」すら通じないと振って、洒落番頭。

いや、落語協会では流行っているなあ。
私も好きな噺だ。落語協会では、前座噺に採用して欲しいと思っている。
これと、喬太郎師の復刻落語「茶代」と、六尺棒は前座から聴きたい。もちろん、前座噺になにがふさわしいかなんて理事会で決定するようなことではないけど。

はな平師の語りは実に人をくつろがせてくれる。クイツキで掛けるべきネタかどうかわからないけど、私はいいと思う。
そしてシャレのわからない旦那が楽しいこと。この旦那のわからなさは、落語のユーモアの中でも筆頭のものである。
楽しいし、そしてはな平師は決して押さない。いつまでもぬるま湯のような楽しさが続いていく。
途中、知らない展開があった。
番頭さんが、昼間っからシラフではシャレは言いにくいというと、旦那がお清に申し付けて、番頭さんに水を持ってきてもらう。これを酒だと思ってグイと飲めと。
こんなシーンが入ると、マクラが短いのに20分の噺になる。

ひとつ気に入らないのが、一部の客。
「番頭さん、豆は5合でいいんじゃないですか。商売半升と言いますから」。
この定吉のシャレで手を叩くな。あんたらがいちばんシャレがわかってないぞ。

次が林家しん平師。金髪で登場。
しん平師は今日が初日。地下鉄永田町の、移動距離が極端に短いエレベーターに乗ってしまった話。
ご自身の髪の毛について。これは染めたのでなく脱色したもの。
今まで緑にしたり紫にしたりしてみた。ピンクはまだやってないが、やってみたいと。

しん平師はヒザ前だし、今日は内容のない漫談を聴きたいなと思っていた。内容なさすぎて覚えられないやつを。
しかし、昔の侍のちょんまげは時代劇ほどでかくないなんて話から、無精床。

気づいたら寝落ちしていた。目が覚めるとボウフラの水のくだり。
客を巻き込んで、「ボウフラはみんな生きている」と歌うと、スポットライトが客に向く。
国立はあいかわらず、照明の使い方は上手いんだよな。

犬は出てこないで、あひるが出てくる。
あひるのシャレでサゲる。

太神楽の翁家勝丸師匠は久々に観る。
曲芸がどうという前に、なんだか発声が明瞭ではない。こんな人だっけ。

アッという間にトリの正蔵師。
息子のぽん平さんがあいびきを用意する。
「中の舞」が流れるなか、なかなか出てこない正蔵師。

初日、2日目はネタ出し「百年目」。これは6年前に聴いた。
今日から「淀五郎」。マクラなしですぐに入る。
私の大好きな噺なのだが、ちょっとな、という感想でした。

正蔵師の方法論からすると、ごく穏やかに、感情の上げ下げを入れず、そして極力わかりやすく演じる。それは淀五郎でも一緒だ。

だが淀五郎、わかりやすくするとパワハラの噺になってしまう。
ただのパワハラにすると、客が引く。
わかりやすく、パワハラでなく描かないとならない。
うーん、どちらか犠牲にするなら、「わかりやすく演じない」ほうがいいのではないかと。

團蔵の態度が意地悪、いやがらせにも見え、しかし角度を変えると劇的に映る。
やはりそういう淀五郎が聴きたいなと思うのです。

両国へ、ドコモのバイクシェアで移動した。
意外と時間掛かり、30分では着かなかった。東京は広いや。
料金は330円。

両国のマックで書いています。
今からお江戸両国亭へ向かいます。

 

これは先代(彦六)

作成者: でっち定吉

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