黒門亭23 その1(林家十八「道灌」)ちょっと佑輔

大型連休が始まりました。
勤め人でない私には関係ないのだけど、でもずっと仕事というわけにもいかない。
ちょっと黒門亭へ。2部の主任は林家きく麿師。
最近ご無沙汰気味で、聴きたくなって。
調べたら2020年の池袋新作まつり以来だ。
ネタ出しの「二コ上の先輩」は、今年の新作まつりに出ていたが、行ってない。
その前の出番は、実力派の春風亭柳枝師。この人、日ごろどこで活動しているのかよく知らない。

1時20分ぐらいに落語協会の前まで行ってみると、5人並んでいた。
まだ大丈夫だと思って、ローソンでコーヒー飲み、1時55分に戻ったら20人以上並んでいた。
危ない危ない。札止めになりました。

道灌 十八
しの字嫌い 佑輔
試し酒 源平
(仲入り)
野ざらし 柳枝
二コ上の先輩(ネタ出し) きく麿

 

黒門亭はいまだにマスク着用義務。
演者のほうは大声張り上げてますがね。

この席を選んだのは、古今亭佑輔さんも一度聴いておくべきかと思ったのがある。
なにしろ、当ブログのアクセスNo.1記事は、<金原亭乃ゝ香が「古今亭佑輔」で復帰>なんだから。かけ橋とか元・天歌の記事を抜きましたよ。
なのにテレビのZabu-1グランプリ以外では聴いたことがないのだ。
トリのきく麿師匠、「今日の札止めの理由を楽屋で話していましたが、結論としては佑輔の客だろう、ということになりました」と語っていた。
あるいはそうなのかもしれない。

その佑輔さん。
髪を短くしてボーイッシュ。
マクラから毒をぶつけたいのに、なんだか各方面に気を遣って毒が機能しない。
そりゃまあ、大谷翔平の悪口をちょっと口にしただけで、芸人の全否定にまで突き進んでしまう面倒くさいファンもいるわけだけどさ。
オレだけど。

ナンパされたときに読書していた佑輔さん。
何読んでるんですか、ぼくは太宰が好きなんですとナンパ男。
太宰の好きな男はヤバいですと語って、すぐに「好きな人には申しわけないですが」。
これがいらないんじゃないか。
ちなみに「鬼平犯科帳」を読んでたそうです。

友達は、変わったナンパをされる。
「落としましたよ。はい、あなたのハート」「それ、私のじゃないです」
面白いんだけども、これに笑いの説明を入れてしまうのが味消しなんだ。

本編は権助キャラ(清造)が主人公の「しの字嫌い」。
珍しめでいい選択だと思う。
ひとつ思ったのは、これが桃花ねえさん、つる子ねえさんだったら恥も外聞もなく、田舎もんの清造を徹底的にハネさせるだろうなあと。
そうでないと、この噺をやる意味ないんじゃないの?
なんだか、需要のよくわからない高座でした。
まあ、頑張ってください。

たがこの席、前座からヒットで、実に満足したのです。
仲入りの林家源平師以降も、みな当たり。

開口一番、トリのきく麿師の弟子である前座の十八さんからいきなりのヒット。
先日、朝霞の落語会で聴いて以来二度目。
道灌を、実に心地よく語ってみせる。文蔵師から教わっていそうに思うが、元は柳家の型。
落語好きなら誰でも隅々まで知っている道灌、上手い人が語ると実になんとも気持ちのいいものだ。

明確な方法論を十八さんは持っているようだ。
むやみに感情の上げ下げをしないのだ。八っつぁんが「まんまおあがり」でないと知っていちいち大げさに嘆かないとか。
通じをつけるのだって、書画をショウガと聴き間違えるのだって、「雨具貸してくれって言えば提灯貸してやる」だってみなタメなくさらっと。
千代田の名城は徳川さまの城だよ、と反論する八っつぁんも、あっさり元は道灌公のものだと聞き入れる。実にもって、人間関係に緊張感をもたらさない。

「こうあって欲しい」前座の道灌が、実際に目の前で繰り広げられている。
どんどん楽しくなってくる。
こういう前座噺の進め方を、「いい」とまず本人が思わないとできない。思えるところがまず前座離れしているわけである。
前座の道灌の場合、隠居が八っつぁんのボケのためにフリを入れているとしか思えないものが多い。そういう不自然なのが嫌いみたい。
どこまでも自然な八っつぁんと隠居。

そして噺を引き算で考える。「うちにも道灌が来るんですよ」なんて抜いている。実に自然に語っていたのでうっかりではないはずだ。
ちなみに「傘」のキーワードが出てこなかったのでちょっとびっくり。
全部「雨具」にしている。言われてみれば、八っつぁん家にやってくる男は雨具を着けているから傘はいらないのである。
意外と理屈で迫ってもいるんだなと。

こういう、将来見事な古典落語を披露するに違いない人が、新作の一門を選んで入っているんだものな。
まあ新作志向の人も、古典を徹底的にやるべきだと私は思っております。逆もまたしかりだが。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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