カメイドクロック落語会(三遊亭ぽん太「五月幟」)

無料落語愛好家のでっち定吉です。ただのビンボー人よりはやや聞こえがよかろう。
タダの落語は平和の象徴。すっかり無料落語会の数も回復してきました。
先月このかたちょっと出掛けすぎ。でもタダならいいじゃないか。
この日に関しては、カネ払って聴く落語会のついでなんだけど。

5月10日水曜日はカメイドクロック落語会。
亀戸はいつも来てる街だが、新しいモール、カメイドクロックはいつも来る側ではない。
この商業施設はオープン後に一度来て以来。
通常はJR利用だが、この日は都営交通の1日券を買った。
都営新宿線を西大島で降り、歩ける距離だがあえてバスに乗り、得した気分を味わう。
そのくせ万歩計アプリの数値は気にする。この日も1万歩行きました。

落語の第1部は11時からと早い。
この日は三遊亭ぽん太さん。
円楽党期待の若手である。
マイクテストしてからスタート。

お客は30人くらいか。悪くないですね。

1Fの広場はわんわん響いて落語にはちっともいい環境ではない。
だが私は、完全無料の会については、極めて寛容なのである。
運営スタッフが会の最中お喋りしてるのにも寛容。聴きなよとは思うけど。
マクラは少々聞き取り辛いが、本編に入るとぽん太さんが声を張るので大丈夫。

笑い茸
五月幟

珍品専門のぽん太さんの面目躍如という演目。

三遊亭ぽん太と申します。
落語界の階級では二ツ目です。
ここ亀戸や平井、両国などで活動しています。
錦糸町だけないんですが。

笑点のピンク、好楽の7番弟子でして。
わかりますよね好楽。よく水色とごっちゃになるみたいですが。
前座の頃は好也という名前でした。
二ツ目になるとき師匠に相談したんですね。名前変えたほうがいいかどうか。
好楽が、「うーん、好也は前座っぽいしな」。
それでぽん太になりました。どっちが前座っぽいんですかね。

今日はお子さんもいませんし、皆さん落語はご存知ということでいいですねと、笑い茸へ。
先日両国で聴いたので、かろうじて知っている珍品。

今日なんの日かご存じとかみさん。
5月10日はゴトウの日だが、それがどうした、ぽん太の本名がゴトウだがと亭主。
今日しか言えないことを入れるぽん太さん。
本当は15年目の結婚記念日。

この珍品を、しっかり楽しい落語として語れる技術が凄い。
現実のではなく、落語としてのリアリティが高い。地に足が付かないリアル。
しかも、夫婦の情まで漂ってくる。
笑ったことのない亭主を、かみさんは本気で心配しているのだ。
亭主も、人の笑いものになるのは大嫌いだが、かみさんが真剣なので笑い薬を飲んでみる気になる。

亭主が笑い茸の作用でついに笑いだすのが、この噺のクライマックス。でっち定吉によれば「いただき」。
あとは、軽くサゲへ持っていく。サゲは多くの落語と同様、たいそうなもんではない。

続いての一席は、ちょっと季節が過ぎた噺ですがと。
熊さんがかみさんに頼まれ、息子の初節句のため五月人形を買いに行く。
金が入ったからって飲むんじゃないよ。お前さんのお金じゃないんだからね。
懐不如意の熊さんだが、おじさんの祝儀がある。
だが熊さん、今から手打ちの宴を行う若い連中につかまってしまう。アニイみたいな顔がいねえとしまらねえ。
今日はダメだ、用事があるんだと断る熊さんだが、1杯が2杯とどんどん重ねてしまう。最後は懐に金があるのに気づいて勘定まで持ってしまう。

手打ちの原因の喧嘩は、大山詣りと同じだ。
湯でもって屁をこきやがって、当然怒られるが「俺のもん勝手にかぎやがって、返しやがれ」とやれば喧嘩になる。

五月人形を買いに行くのだが、「人形買い」でないことは設定から明らか。
つい最近、どこかで聴いたばかりの噺。
聴きながらようよう思い出した。NHK演芸図鑑に柳亭市馬師が出していた「五月幟」である。
これを聴いてなかったら、もう一切わからないところ。

「ごがつのぼり」か「さつきのぼり」か?
脳内で、演題をどちらで認識しようかというどうでもいい話である。「ごがつ」にしておくか。

それにしてもぽん太さん、やっぱり珍品をしっかり語れるのだ。
そもそも、珍品がなぜ珍品か。
やっても儲からない。つまらないから。これが一般的な認識。
ところがぽん太さん、珍品を見つけると、すぐにその肝を見抜いてしまうらしい。
他の人には見分けられない原石の輝きを見つける、トレジャーハンター的能力があるらしい。

五月幟の肝はなにか。
熊さんの気のいい性分であろう。江戸っ子らしい。
「人形を買いにいく途中仲間につかまり、勘定まで持たされてしまうお人よし」の噺と解釈してもいいのだが、そういう空気は流れてこない。
みんな熊さんが大好きで、アニイアニイと持ち上げるのだ。
人形代を飲まれちゃったかみさんも、怒ってるけど亭主のそんな人柄は決してイヤじゃないと思うよ。

後半はおじさんからの説教を、人形見立て尽くしでもって交わす、シャレの利く八っつぁん。
やっぱり少々使い込んでしまったぐらいでは、この世界はまだまだ平和である。

枠は30分だが、10分弱オーバー。全然結構ですけど。
今度はカメイドクロックの向かい側からバスに乗り船堀に出て、最終目的地の本八幡に向かうのであった。

明日取り上げるのは、本八幡で開催された「好楽・文珍・喬太郎・三三」の会です。

作成者: でっち定吉

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